第945話
「そう言えば、シーマさんとフォトンさんは何の用だったんだ?」
「えーと、なんと言うか苦情かな?」
「……苦情ですね」
カルディナはジークにノエルを何とかするように視線で助けを求めるのだが、ジークはこの状況のノエルが面倒だと言う事は知っており、彼女を無視するとシーマとフォトンが訪れていた理由を聞く。
厄介事だったようでカインは苦笑いを浮かべ、セスは眉間に深いしわを寄せて言う。
「苦情? また、何かおかしな仕事を押し付けたのか?」
「……どうして、俺がいつも原因だって疑うかな?」
「日頃の行いのせいだろ。それでお前が原因じゃないって言うなら、何があったんだよ?」
苦情と聞いてジークは疑いの視線をカインに向ける。
カインは疑われている事にわざとらしいくらいに大袈裟に肩を落とすがジークは疑われているだけの事をしているだろうとため息を吐いた。
「……フィリム教授が原因です」
「フィリム先生が? 来ているのか?」
「先日、アーカスさんと会ってから何度も顔を出しているようです」
ため息交じりでセスがフィリムの名前を挙げるのだが、ジークは予想していなかった名前に首を傾げる。
セスが言うには先日、フォルムでアーカスと再会した後から何度も足を運んでいるようであり、ジークにはフィリムの目的がわからないためか彼女の次の言葉を待つ。
「……アーカスさんはフィリム教授の先生だと言っていましたから、何か聞きたい事もあったのでしょうけど」
「何をやっているのかは聞いていないのか?」
「2人とも研究大好きな人間だからね。研究途中の物を誰かに話す事はないと思うよ。ただ、その研究がいろいろと危ないみたいで魔術学園から来てくれている研究者は何とも言わないけど、元々のフォルムの人達が怖がっていてね」
セスは眉間にしわを寄せるものの、2人が何をしているのかわからないようで眉間にしわを寄せている。
ジークは2人が何をやっているかわからないのかと聞くがカインは研究者として研究途中の物を軽々しく言えないと言う。
「あの2人が何をやっているかはわからないけど……おかしな事をやっている事は確実だな」
「それでも後々の事を考えると役に立つ物なんだとは思うんだけどね。だから、協力はしたいんだけど、さすがに怖がられちゃうとね」
「ですけど、アーカスさんには現在、フォルムの土地の件でかなりの協力を仰いでいます。下手に追い出すわけにはいきません」
学者肌2人がどんな怪しい事をしているかわからないジークだが、フォルムの民達が怖がる事も理解できるようで大きく頷いた。
カインは2人を研究者として尊敬しているためか、協力をしたいようだが領主として領民の事も考えないといけないと言う。
セスもカインと同等の意見のようで小さく頷いた。
「……どうするんだよ?」
「なるべく、師匠にはフォルムでおかしな事をしないように頼んでは見るけど、1度、火が点くと周りが見えなくなっちゃうからね」
「それはわかるな……けど、シーマさん達は納得しないんだろ?」
カインも領主としてフィリムに忠告をするつもりのようだが、フィリムが話を聞くようには思えないのか大きく肩を落とす。
ジークもフィリムに振り回されているためか、ため息しか出ないようで頭をかくがただの忠告ではシーマ達が納得できないとも思っているようである。
「そうだね。元領主の屋敷を研究場所に提供しているから怖がるのかな? とは思うんだけど、ここまで来ちゃうと場所を替えても変わらないとも思うんだけどね」
「せめて、何をしているかわかれば、領民達も納得してくれるんじゃないか? 領地の事に関する事なら問題ないだろ」
「……領地運営の事なら、それでも納得してくれるかも知れませんけどね。あの2人ですよ」
カインは研究場所の移動を考えているようだが、領民に広がっている不信感はぬぐえないと言う。
ジークは2人が領地の事で何かやってくれているか示せれば領民の反発も小さくなるのではと考えるがセスは眉間に深いしわを寄せている。
セスの言葉にジークは釣られるように眉間に深いしわを寄せてしまい、2人の様子にレインは苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、俺やセスがあの2人に話を聞きに行くと角が立つから、ジーク、よろしくね」
「……待て。意味がわからない。だいたい、俺がそんな事を聞いても教えてくれるわけがないだろ」
「大丈夫。アーカスさんなら、ジークになら話をしてくれるよ」
カインは面倒事をジークに押し付けようとするのだが、ジークは意味がわからないと大きく肩を落とす。
それでも、カインは何か確信があるのか楽しそうに笑っている。
「……意味がわからないけど、とりあえず、お前が俺に面倒事を押し付けようとしているのは理解できた」
「ジークが俺の方にも厄介事を持ってきているんだからお互い様だよ」
「そうかも知れないけど……なんか納得がいかないんだけど」
カインが何か企んでいる事は理解できるのだが、何を企んでいるかわからないジークの眉間にはしわが寄った。
その表情にカインは苦笑いを浮かべるがジークは納得ができていないため、恨みがましくカインへと視線を向ける。
「それじゃあ、ヴァリウスの相手をする? あいつはいろいろとしつこいよ。陰湿だし、ジークと相性は悪いと思うけど」
「……お前も実際問題、かなり陰湿だけどな」
「何を言っているんだい。俺は別に陰湿なわけじゃないよ。やられたらやり返すし、売られたケンカは売るだけでなく、2度と逆らえないように叩き潰すだけだよ」
ヴァリウス対策は自分がやると言うカインにジークはヴァリウスの相手は面倒だと思いながらも素直に頼めないのか悪態を吐く。
カインは笑顔でヴァリウスを叩き潰すと言ったその時、この場の空気は彼が放つ空気に時間が止まる。
「カ、カインさん、どうしたんですか?」
「何も問題はないよ。ノエル、そろそろ、カルディナ様も困っているから、それくらいにするように」
「は、はい。わかりました」
それは恋愛話で完全に火が点いていたノエルにも有効だったようで彼女は顔を引きつらせながらカインを呼ぶ。
カインは笑顔のまま、何もないと言った後、思いだしたかのようにカルディナを開放するように言うとノエルは涙目で大きく頷いた。