第944話
「……どうして、ジークは厄介事を運んでくるかな?」
「べ、別に俺のせいじゃないだろ」
「そうかも知れませんけど、アンリ様にフィーナとノエルを会わせるのは無理でしょう」
フォルムに戻ったジークとカルディナはアンリに頼まれた事をカイン達に話した。
エルトやライオと言ったノエルがドレイク族だと知っている者達もいるが、人畜無害なノエルではアルがさすがにドレイク族を王城の中に通すのは抵抗がある。
彼女がドレイク族だと見破られてしまえば、いくら王族であろうとエルト達の立場も悪くなり、エルトやライオを王位継承者から引きずりおろしたい者達からは絶好の攻撃対象になりえる。
それがわかっているせいか、カインとセスは眉間に深いしわを寄せており、ジークはどうして良いのかわからないようで苦笑いを浮かべた。
「そうだね。ノエルはまだしもフィーナを会せたら、俺の首が身体から離れちゃうかも」
「大丈夫ですよ。礼儀などはその時までに私が叩き込みますから」
「……いや、フィーナも危ないけど、問題はノエルだろ」
カインは真面目な話をしていたにも関わらず、問題はフィーナが礼儀作法のない事であると言い、ミレットは笑顔でフィーナの事は任せて欲しいと言い切る。
2人の会話にフィーナはカインへの怒りより、ミレットへの恐怖が勝ったようで顔を引きつらせた。
その様子にジークは眉間にしわを寄せ、ノエルは困ったように笑っている。
「王城に行く事自体は何とか誤魔化せると思うけどね。ノエルが持っている魔導機器はかなり特別なものだし、それに何回か忘れて入って行っているだろ。俺とセスが見世物になった時とか」
「……そんな事もあったな」
「あ、ありましたね。ですけど、あの時はたくさん、人がいましたから見つからなかったんだと思います」
カインはノエルをアンリに会わせる事自体はあまり問題ではないと思っていたようで小さくため息を吐いた後に自分達が見世物にされた時の話を引っ張り出す。
ジークはカインの様子にあの時の事を根に持っているように思えたようで小さくため息を吐くとノエルはあの時とは状況が違うと言う。
彼女の意見にはセスも賛成のようであり、大きく頷いているがカインは何か考えがあるのか口元を緩ませている。
「カイン、何か考えがあるのか?」
「考えも何もノエルが人畜無害って言うのが、知れ渡るのは後々、使えそうだからね」
「味方を作るためか……それでも危険すぎないか?」
カインは魔族が危険ではない事を広めるためにノエルを使おうとしているようだが、ジークは危険にしか思えないようで大きく肩を落とす。
「私もノエルは流石に無理だと思います。しばらくは様子を見てみるべきでしょう。一先ずはフィーナをアンリ様に会わせられるくらいにしないといけませんね」
「ノ、ノエルが行けないなら、私も行かなくて良いんじゃないの?」
「まあ、流石にいきなりと言うわけじゃないから、俺とセスで何か考えては見るよ。ノエルは現状で言えば、エルト様やライオ様達とは知り合いとは言え、平民だからね。流石に王城の中に通すには許可に時間がかかると言えば、アンリ様も納得してくれるだろうし」
ミレットが反対意見を出すとフィーナは礼儀作法など勉強したくはないため、自分も王城に行かないように話を持って行こうとする。
カインもまだ、ノエルを安全に王城内に送り込む方法は考え付いていないようで時間稼ぎをしようと言う。
「ノエルが平民だって言うなら、私も王城に入れないでしょ。この話は終わり」
「何を言っているんですか? 曲がりなりにもお兄様の妹でしょう。クローク家の人間なのですから、問題などはありませんわ。それより、アンリ様の前で見っともない事をしてみなさい。私があなたを消し炭にしてあげますわ」
「私とこのクズは関係わ。それに火の魔法なんて私が斬り伏せるわ」
自分の言葉が無視されているのだが、フィーナはよほど礼儀作法を勉強したくないようで無理やり話を終わらせようとする。
その様子に現在、アンリの望みを叶えてあげたいカルディナはフィーナを睨み付けて叫ぶ。
フィーナは相変わらず、カインと兄妹扱いされるのがイヤなようでカインとは無関係だと声を上げ、カルディナを睨み返す。
「……フィーナさん、誰が何と言おうとカインさんと血を分けた兄妹ですよね」
「違う」
「いや、いい加減、認めろよ」
彼女の発言は流石に無理があり、レインは大きく肩を落とすのだがフィーナは即座に否定する。
その様子にジークは呆れたように言うが、フィーナは認めようとはしない。
「フィーナは置いておいて、ヴァリウスか……カルディナ様も面倒な人間に見初められたね」
「見初めたと言うか、オズフィム家の名前にしか興味なさそうだったぞ」
「そんなのは許せないです。恋愛と言うのはもっときれいで女の子がドキドキする素敵な物なんです。家の権力を大きくしたいとかで選んではいけないんです」
フィーナと話を続けていても有益な話にはならないと考えたカインはヴァリウスの件に移ろうとする。
カインはあまり関わり合いたくないのか大きく肩を落とすとジークは彼を見た印象を話すがあまり良い印象を抱いていないようで頭をかいた。
その話に恋愛話が大好きなノエルはヴァリウスが許せないとテーブルを叩く。
「ノエル、落ち着け」
「落ち着いてなんか、居られません。カルディナ様も好きになった男性と家庭を築きたいに決まっています。カルディナ様、そうですよね?」
「そ、それはそうかも知れませんけど、私達は公務を担う家、必要となればそんな事もあるでしょう」
ジークはノエルをなだめようとするが、完全に火が点いているノエルはカルディナに詰め寄る。
カルディナはオズフィム家を継ぐ者として、割り切っている部分もあるため、ノエルの言葉を否定しようとするが、彼女の目に映ったノエルは彼女が知っているノエルとは違うように見え、後ずさりしてしまう。
「そんな事はありません。それにラース様が絶対にカルディナ様にそんな悲しい事はさせないはずです。ですから、カルディナ様も素敵な男性を探してください」
「……おっさんの場合、カルディナ様に近づく男をすべてぶちのめしそうだけどな」
「それは否定できませんね」
ノエルはラースならわかってくれると熱く語り、カルディナは完全にノエルに威圧されている。
2人の様子にジークはため息を吐くとカルディナを可愛がっているラースの顔を思い浮かべ、レインも同じ事を考えたようで小さく頷いた。




