第942話
「とりあえず、上手く行ったって事で良いのかな? ティミルもヴィータの診察は気に入ってくれたみたいだから、やっぱり、当主代行も忙しいから疲れがたまっているんだろうね」
「気持ちよさそうにしていたからそう思いたいけどな……面倒事に巻き込まれている気しかしないんだよな」
「面倒事に巻き込まれるのはジークの天性の才能だよね。ジークが現れるところに面倒事が押し寄せてくる」
オズフィム家の屋敷から戻る途中にエルトはティミルの協力を仰げた事を喜ぶ。
しかし、ジークは余計な事を押し付けられた気しかしないようで眉間にしわを寄せた。
そんな彼の様子を見て、ライオは楽しそうに笑うが、彼を面倒事に巻き込んでいる1人であるライオに言われたくないようでジークの眉間のしわはさらに深くなって行く。
「……そう思うなら、厄介事をなるべく減らしてくれ」
「それは出来ない相談だね。私もジーク達に協力して欲しい事はあるから」
「現状で言えば、厄介事を運んでいるのはライオ様だけとは言わない気もするんだけどね」
ジークは厄介事を運んでくるライオをジト目で睨むがライオはとぼけたように笑う。
2人の様子にヴィータはくすりと笑うが、その声は2人の耳には届いていないようである。
「ですけど、ヴァリウスさんがカルディナをですか……小さな子が好みなんですかね」
「……いや、ミレット、流石にそれは無いと思うから、さっきも言ったけどマグナ家は権力を欲しがっているだけだからね」
「わかっていますよ。ですけど、権力を欲しがっているなら、下手をするとガートランド商会と手を組んで何かするんじゃないですか?」
ミレットはじゃれあっている2人を余所に冗談めかして笑う。
エルトは冗談だとは解っているものの、ミレットに何か思惑があると思ったようで苦笑いを浮かべながら続ける。
ミレットが気にしているのはマグナ家とガートランド商会が手を結ぶ事であり、その言葉にエルトの表情は小さく歪む。
「……権力を欲しがっている者同士が手を結ぶか、ガートランド商会は王都ではイオリア家と結んでいる。そこにマグナ家が結びつくと厄介な問題になりそうだね」
「いや、それは無いと思うけど」
「そうなのかい?」
エルトは面倒になると考えて大きく肩を落とすとライオがミレットの考えを否定する。
彼の言葉にエルトが首を傾げるとライオは小さく頷いた。
「マグナ家は確かに魔導の名門で確かに権力を欲しがっているけど、彼らは血に才能に誇りを持っている。お金で地位を手に入れたイオリア家や自分達のお金儲けしか考えていないガートランド商会とは結ぶ事は無いと思うよ。だから、己の武勇で家を成したオズフィム家の名前や血を欲しがった。同様にカインのような才能を持った人間も欲しがった。そうだと私は思うよ」
「そうなるとマグナ家は敵にはならないと言う事ですか?」
「当面の敵にはならないって事だね。今、私達が敵と見ている者達とは協力はしないって事」
ライオは魔術学園で学んでいる間に同じ魔導士としてマグナ家と言う物を調べ上げており、エルトとミレットが心配しているような事にはならないと言う。
ミレットはほっとしたのか胸をなで下ろすがエルトは後々の脅威になりそうだとは考えているのか苦笑いを浮かべる。
「それでも、現状ではありがたい事だね」
「なあ、それなら、マグナ家を味方に引き入れられないのか? 敵の敵は味方だろ?」
「そう単純にはいかないけどね。味方に引き入れたいけど難しいだろし、そのためにカルディナを使うわけにはいかないよ」
それでも問題が減った事をヴィータは喜ぶ事だと言うとジークは単純にマグナ家を味方に引き込めないかと首を傾げる。
エルトもマグナ家を味方には引き入れたいと考えている物の、カルディナをエサにするわけにはいかない。
「それもそうだな。それをするとティミル様を怒らせそうだし、後、おっさんが怒ると暑苦しいからな」
「カルディナの事を頼まれたのにすぐに裏切るわけにはいかないからね」
「そう言うのはカインに任せるか、俺はマグナ家の事もあまり知らないから……埋めたりしないよな?」
カルディナをエサにするとラースとティミルを怒らせる可能性が高く、ジークは苦笑いを浮かべる。
エルトが頷くとジークは考えるのが面倒になったようでフォルムに戻ってからカインに相談してみると言うが、以前にカインとヴァリウスの間に起きた事を聞いているため、イヤな予感がしたのか眉間に深いしわを寄せると同じ事を考えたのかミレットは困ったように笑う。
「カインなら1度、ぼこぼこにしてから埋めて見下ろしながら言う事聞くまで顔を踏みつけそうだよね」
「……恐ろしい事を言わないでくれ」
「普段からのフィーナへの対応をみているとやってもおかしくないですね。でも、そんな事になったら、大問題ですよ」
ライオはカインがヴァリウスを倒してお仕置きしている姿が目に浮かぶようで楽しそうに笑う。
しかし、ジークには笑えない光景であり、大きく肩を落とすがミレットもその光景が目に浮かんだようだが、それをやってしまうとマグナ家を完全に敵に回してしまう気しかしない。
「カインにも案を出して貰うにしても、実力行使に出ないように念を押すようにね」
「それは必須だな」
「いや、わからないぞ。そうする事で新しい世界が見える人間もいるかも知れないぞ」
カインに何か考えて貰う事は確定しているが直接動くと問題が起きる気しかしないようでエルトはジークに強く言う。
ジークは大きく頷くがヴィータはその状況を楽しんでいるのか、楽しそうに笑っている。
「……いや、いじめられて喜ぶのはセスさんだけで良いから」
「ジーク、セスも喜んでいるわけではないと思うよ」
「それにセスさんとカインの間には愛情がありますから、カインとマグナ家だとただの暴力だと思いますよ」
ヴィータの言葉にジークは大きく肩を落とすが、その言葉は少しだけおかしい。
エルトが苦笑いを浮かべるとミレットは2人だから成り立つものだと笑う。