第941話
「……なるほど、状況は理解できました」
「理解が速くて助かるよ」
「ヴィータをアンリの専門医にするか。それが1番だとは思っていたけど、そう言う作戦を考えるとは思わなかったよ」
作戦の詳細を聞き、ティミルは作戦の穴が無いか考え込み始める。
彼女が理解してくれた事にエルトは胸をなで下ろすとライオは表情を引き締めて言う。
「ティミル様、協力してくれますか?」
「もちろん協力は惜しみませんが、その代り、ジークにお願いを聞いて貰いたいんですけど」
「もちろん、構わない」
ミレットはティミルの名前を自分が出した事もあるのか不安そうに聞く。
ティミルは問題ないと笑うが、何か考え付いたようでジークを見て、くすりと笑う。
その笑みにジークは何かイヤな予感がし、返事をするのを戸惑うがなぜかヴィータがすぐに返事をする。
「……どうして、ヴィータさんが返事をするんですか?」
「何か問題でもあるのかな?」
「いや、無いけど、イヤな予感がするんだよな」
ヴィータが返事をした事にジークは眉間にしわを寄せるがヴィータは表情を変える事無く聞く。
ジークは自分が断れる状況にはない事は理解できているのだが納得がいかないようでため息を吐いた。
「そんなに難しい事ではないですよ。ただ、カルディナを守って欲しいだけです……面倒なところに目を付けられているようなので」
「面倒なところ?」
「……身内の恥を晒すようで恥ずかしいのですけど、あの子をマグナ家に嫁がせるようにとうるさく言ってくるのです。あの子はオズフィム家の大切な娘です。あのような自尊心が高いだけの一族になど上げられません」
ティミルはジークにカルディナの事を任せたいと言うのだが、ジークは意味がわからずに首を傾げる。
その様子にティミルは眉間にしわを寄せた。
彼女の様子から彼女にはマグナ家に良い印象が無いように見える。
「……そう言えば、カインとシュミット様から聞いたような気がする」
「そうなんですか? カインは本当にいろいろな情報をつかんでいますね」
「それに関して言えば同感なんだけど、でも、カルディナ様をマグナ家の入れたいって言ってもカルディナ様自体が拒否すれば簡単にはいかないだろ。おっさんだってカルディナ様を溺愛しているからすぐに嫁とか言う話には絶対に反対するだろうし」
マグナ家の話にジークは首を傾げるとミレットはカインの情報収集能力にため息を漏らす。
彼女の反応にジークは苦笑いを浮かべるが、カルディナを欲しがっても簡単に行かないと思っているようでティミルがそこまで心配する理由がわからないと言う。
「……いや、マグナ家が本気で出てくると断るのは難しいだろうね」
「どうしてですか?」
「マグナ家は魔術師の名門でかなりの力を有している。そして、オズフィム家は騎士の名門。2家が繋がりを持つのを好ましく思う者達も多い。騎士と魔術師は仲が悪いからね」
エルトはジークの考えが甘いと思っているようで首を横に振る。
ミレットは首を傾げるが2家が繋がる事に思うところが多い者達が多いと言う。
「実際はマグナ家がオズフィム家の発言力を手にしたいだけだと思うけどね。ティミルがオズフィム家に嫁いだ時にそれがなると考えた者もいたようだけどそうはならなかったしね」
「私はあの家が嫌いですから、あれ以上の権力を持たせたくないんですよ。だいたい、教えを守る事無く、権力に溺れているのが許せません」
「……まぁ、あまり好き嫌いで判断するのもどうかと思うけど、マグナ家に権力が集中するのは避けたいかな」
ティミルはマグナ家の好きにはさせたくないようであり、笑顔で言うがそのこめかみには青筋が浮かんでいる。
その様子にエルトとライオは苦笑いを浮かべるとあまりマグナ家の好き勝手にはやらせたくないと言う。
「状況はわかったけど、俺が何をすれば良いんだよ? それにさっきのヴァリウスだったか? あいつは他人の話を絶対に聞かないタイプだぞ。俺が何かすれば逆上するんじゃないのか」
「その可能性が高いね。優秀な魔術師ではあるんだけど、人を見下す事が多いから、魔術学園でも敵が多いんだよね……カインにも埋められたらしいけど」
「……そんな話もありましたね」
ジークは自分にできる事が見つからない事や先ほど、ヴァリウスを見て思った事を口にする。
ライオはヴァリウスの魔術学園での評判を話すがその途中でカインが魔術学園に居た時のおかしな行動も思いだしたようで小さく肩を落とした。
ミレットもその話は聞いていたようで苦笑いを浮かべるがジークの眉間には深いしわが寄っている。
「うむ。流石はカイン=クローク、面白い事をする」
「……面白くはないと思うぞ」
「まあ、カインがヴァリウスを埋めたのは意味があるわけだし、仕方ないよ」
ヴィータは楽しそうに笑っているがジークは笑い事ではないと肩を落とす。
その件はエルトの耳にも届いているためか、彼は苦笑いを浮かべてカインを擁護する。
「……とりあえず、あいつが面倒な人間である事はわかったけど、俺に何をすれば良いんですか? できる事は思いつかないんだけど」
「そこまで難しい事は考えなくて良いです。カルディナが王都に戻ってくる時には必ず、付いてきて警護をして欲しいだけです」
「警護か? だけど、カルディナ様はワームにいるわけだから、1人で王都に戻ってきたら一緒には来られないぞ」
ジークは協力するにしてもできる事がわからないため、首を傾げるとティミルは難しく考えないで欲しいと言う。
それくらいならできそうだと考えたジークだが、カルディナはワームでシュミットの協力をしており、必ず、カルディナと一緒に王都に来ることはできない。
「それくらいなら、私がどうにかするよ。アンリのところに来る時は必ず、クーを同行させるように言えば、喜んでフォルムに飛んで行くだろうし」
「……確かに絶対に迎えにくるな」
「うむ。確かにそれは有効な手段だろうな」
エルトはジークを同行させるための手段を選ぶとジークはカルディナの性格から素直に従う気しかしないようで苦笑いを浮かべる。
ヴィータもジークと同様の事を思ったようで感心したように頷いた。
いつも勇者の息子と魔王の娘?をご覧いただき、ありがとうございます。
以前から書かせていただいていますがスランプ継続中です。
気分を変えようと1本新作を書き始めました。
『ケーキよりも甘い笑顔を 連載版』と言う作品です。
ジャンルは恋愛となっておりますのでファンタジー作品を読んでいる方の趣味には合わないかも知れませんがそちらも楽しんでいただければ幸いです。