第938話
「何をするんだよ?」
「まずは、ヴィータをアンリ担当の医師にする事かな? 今は世話係として紛れ込んでいるだけだからね」
「……その割にはずいぶんと態度が大きいけどな」
ジークは彼の考えを聞くとエルトはヴィータにもっと権力を持たせると言う。
彼女の態度の大きさにジークは不安しか感じ無いようで眉間に深いしわを寄せる。
「それに関して言えば、同感だね。だけど、それに見合うほどの実力をヴィータは持っているんだろう?」
「それは……持っているんだよな?」
「どうだろうね」
エルトはヴィータの実力をかなり高く評価しているようであり、彼女にアンリを任せても良いと思っている。
しかし、ジークはヴィータの性格もあるためか、信頼して良いのかと眉間に深いしわを寄せた。
ジークの疑問の声にヴィータは彼を挑発するように笑う。
「そう言う風に笑うからジークが信頼してくれないんですよ」
「そうかも知れないがそれに関して言えば、ミレットにも言われたくはないね」
ミレットは少しだけ呆れたようにため息を吐くが、ヴィータに言わせればミレットも自分と同じである。
2人の様子にジークは良く分かっていないのか、首を捻っているがエルトはその様子を見て苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、何をするつもりかはわかったけど……正直、できるのか?」
「それなりに私もいろいろと動いていたからね。バーニアに手伝って貰ったりもしながら」
「……どうしてだろうな。その名前を聞くと不安になるんだろうな」
ジークは本当にヴィータをアンリのお抱え医師にできるかわからないためか、その疑問を口に出す。
エルトは以前から、アンリをお抱え医師以外に診察させる事を考えていたため、それをそのまま利用すると言う。
バーニアの名前が出てきた事にジークの眉間には深いしわが寄る。
「心配ないよ。ジークが思っている以上にバーニアはいろいろと手伝ってくれているから……お酒を与えなければ」
「……だよな。と言うか、どうして、周りにまともな人間がいないんだ?」
「気にする必要はない。いつの時代も優秀な人間はどこかしらおかしいものだ」
エルトは心配ないと笑っては見たものの、バーニアにある弱点を思い出してしまったようで眉間に深いしわが寄った。
ジークは振り回されているのも疲れたと言いたいのか大きく肩を落とすがヴィータは気にする必要などないと笑っている。
「……それは心当たりがありすぎて辛い」
「で、ですね」
「それにそれくらいおかしな者達ではなければ、この世界の根底を覆そうとなどしないだろう?」
ジークは周りにいる人間達の顔を思い出して眉間に深いしわを寄せるとミレットは困ったように笑う。
ヴィータには自分達はまともだと言っているようにも聞こえたようでくすりと笑うとこの場にいる人間すべてが変わり者だと言い切った。
「……違わないね。私達は充分に変わり者だよ」
「いや、いっしょくたにされるのは納得がいかないんだけど」
「気にする必要はない。一緒だからね。それで、道筋は見えたわけだが、明確な作戦はあるのかな?」
エルトは少し考えた後にヴィータの言葉に納得したようで噴き出してしまう。
ジークは同じではないと言うがヴィータは彼の言葉を否定するとエルトにこれからの作戦を聞く。
「そうだね。少しでもアンリの体調に改善が見られると私も推挙しやすいんだけど」
「実績も何もないからな。ヴィータさん、メイドさんの身体を触りまくって喜んでいただけだろ」
「ふむ。それが楽しかったのは否定はしない」
エルトは明確な作戦は思いついていないようで苦笑いを浮かべた。
ジークはヴィータが王城に居座ってから行っている事は1つしか思い浮かばず、彼女を変態でも見るような目で見る。
その視線などヴィータは気にする事はなく、何も思いつかないのか小さくため息を吐く。
「信頼や信用って言うのはいきなり、出てこないからね」
「ですよね。ヴィータさんに味方になってくれるような人がもっと居れば良いんですけど?」
「ミレット、誰か心当たりがいたのかい?」
エルトはため息を吐くとミレットは困ったように笑うが誰かの顔が思い浮かんだようで首を傾げる。
その様子にエルトは食いつくがミレットはどうして良いのかわからないようで困ったように笑う。
「いえ、ヴィータさんって、王城のメイドさん達の身体を触っているんですよね? その成果はどうなっているんですか?」
「その言い方には若干の御幣を感じるが、今は良しとしておこう……流石、王城、使用人も極上であった」
「……語弊、まったくないだろ。思いっきり、変態の行動だ」
ミレットはゆっくりとヴィータに視線を向けると彼女の成果を聞く。
ヴィータは使用人達の身体を揉む事に満足しているようであり、彼女達の身体の感触を思い出しているのか口元を緩ませ、何かを揉むように指を動かす。
その姿は誰がどう見ても変質者であり、ジークは眉間に深いしわを寄せ、エルトは彼女にアンリを任せて本当に良いのかと思い始めたのか考え込んでいる。
「本当にヴィータに任せて良いんだろうか?」
「ま、任せるしかありませんからね。ですけど、最初は抵抗があるヴィータさんの診察も体験してみれば、その良さがわかるはずです」
「それは確かに使用人達が噂をしているのは私の耳にも届いているよ」
エルトの不安にミレットは困ったように笑いながら、彼女の腕の良さを再確認するように聞く。
ヴィータが王城で行っている治療の噂はエルトの耳にもしっかりと届いているようで頷くが、ミレットが何を言いたいのかわからないようで首を傾げる。
「時間はかかるかも知れませんけど、それだけ噂になっているなら、有力貴族の奥方様や令嬢様の耳に届いている可能性はありますよね?」
「ないとは言えないが、いきなり、ヴィータを信用してくれる者は……居るな。それも彼女は多くの有力者の妻に顔が利く」
「はい。当主代行として腕を振るっているくらいですから、それにティミル様なら、私達の話にも耳を傾けてくれると思います」
エルトもここまで聞けば、ミレットが誰の事を言っているのか理解できたようで小さく頷いた。
ミレットが思い浮かんだのはラースの妻であるティミルであり、ジーク達との関係性から言えば、協力してくれる事は充分に考えられる。