第936話
「……なんか、心配していたのがバカらしくなってきたな」
「ジークくん、私の事を心配してくれていたのかい? 悪いね。私はノエルを傷つけるつもりはないんだ」
「安心してください。俺もノエルを傷つける気はありませんから」
ジークは王城に付くと受付でエルトとライオへの謁見を求めた。
2人は公務で時間がすぐに空けられないようだが、2人から近いうちにジーク達の訪問は連絡されていたようで一室に案内される。
しばらく待っているとヴィータが顔を出すがその両脇にはしっかりと王城で仕えるメイドをはべらせており、その姿を見たジークは大きく肩を落とす。
その姿にヴィータは口元を緩ませて、彼をからかうように笑うがジークはすでに相手をするのも疲れたと言いたいのかどうでも良さそう答える。
「ふむ。それはノエルだけではなく、何人でも来いと言うところか? ある意味、男らしいな」
「……不潔ですわ」
「……そう言う意味じゃないです。カルディナ様も真に受けないでくれ」
それでも、ヴィータの方がジークより、上手であり、その言葉を聞いたカルディナは汚物を見るような目でジークを見下す。
完全に遊ばれている事にジークは大きく肩を落とすとミレットへと助けを求めるような視線を剥けようとするのだが、彼女は彼女でジークをからかう事を楽しんでいるため、踏みとどまる。
「……お姉ちゃんは仲間はずれですか?」
「ジークくん、君は従姉まで本当にくる者、拒まずだな」
「……勘弁してください」
しかし、ジークの行動をあざ笑うかのようにミレットは悲しそうな表情をし、ヴィータは楽しそうに笑う。
男1人と言う完全に不利な状況にジークはお手上げだと言いたいのかうなだれ、その姿を見てミレットは楽しそうに表情を緩ませた。
「ふむ。まあ、ジークくん達も忙しいだろうし、仕方ない。からかうのはこれくらいにしておこう」
「……と言うか、俺達が忙しいのがわかっているなら、からかわないでくださいよ」
「良いではないか。エルト様とライオ様に言われて改めて考えてみたのだが、私はジークくんとまともな話をほとんどしていなかったのでな。私もリックの自慢の弟分で遊んでみたかったんだ」
納得がいかなさそうなジークを見て、ヴィータはジークとはあまり話をしていなかった事を思いだしたようである。
彼女はジークを旧友であるリックの弟分だと言い、どういうわけか自分にもジークで遊ぶ権利があると笑う。
「……なんで、リック先生が出てくるんですか?」
「あれがルッケルに戻っても生きて行けるのはジークくんのおかげだと思うからな」
「いや、俺はこの間まで知らなかったけど、リック先生、時代が時代ならルッケルの領主様だろ。みんな、なんだかんだ言って、気にしているよ。俺はたいした事なんてしていないって……それより、リック先生、昔からあの生活なんですか?」
言い分がわからないと言うジークだが、ヴィータは楽しそうに笑ったままである。
リックの生活にジークは特に何もやっていないと首を横に振るのだが、彼がワームで医師の勉強をしている時も同様の生活をしていたと考えたようで眉間にしわを寄せた。
「何を言っているんだ。ジークくん、今の方がかなり人間らしい生活をしているぞ」
「……リック先生、良く今まで生きていたな」
「それに関して言えば、まったくの同感だ」
たまにルッケルに遊びに来ていたヴィータが言うにはルッケルに戻って、リックの生活はかなり改善されていると言う。
その言葉にジークの眉間のしわはさらに深くなり、ヴィータは同意を示すとカルディナに捕まらないように部屋を飛んでいるクーを呼び寄せる。
「……なぜですか?」
「ふむ。カルディナ様は相変わらず、嫌われているようだな」
「挑発するなよ」
カルディナはクーが素直にヴィータの言葉に従う事に悔しそうな表情をするとヴィータはクーの鼻先を指で撫でながらため息を吐く。
それをジークは挑発だと捉えたようでため息をついた時、部屋のドアをノックする音が響いた。
「失礼します。皆さん、お久しぶりです」
「リュミナ様、お久しぶりです。リアーナさんも」
「私が頼んできて貰ったんだ。アンリ様も1人でいるのはさびしいだろうからな。カルディナ様はクーくんと一緒にアンリ様のところに先に言っていて貰えないか?」
ドアを開けて入ってきたのはリュミナとリアーナであり、ミレットは深々と頭を下げるとジークとカルディナも続く。
軽く挨拶を済ませるが2人が訪れた理由がわからないジークは首を傾げる。
リュミナはエルトの婚約者と言う事でアンリとも良い関係を結んでおり、彼女の遊び相手を良くしているようであり、カルディナとクーをアンリのところに連れて行くために呼んだと言う。
「……次期王妃を使いっ走りにするのか?」
「エルト様とライオ様からカルディナ様は直接通しても良いと言われているのだが、クーくんはそうともいかない。そのため、リュミナ様に協力を仰いだだけだよ」
「はい。私もアンリ様が元気になるのに協力をしたいですから」
人選に納得できないジークだが、ヴィータは適切な判断だと言うとクーにリュミナのところに行くように視線を送る。
クーは頷くとリュミナの腕の中に飛び込み、リュミナはクーの頭を撫でながら自分もアンリの事に協力したいと笑う。
「リュミナ様が言うなら良いけど……カルディナ様がいないと問題あるだろ?」
「シュミット様から書状を預かっているのだろう? それなら、その書状を預かっていれば問題ないだろう。それにカルディナ様もアンリ様の事が気になっているようだからね」
「……否定はしません」
リュミナから納得していると言われるとジークは何も言えないのだが、今、カルディナが抜けるのは彼女が仕事を投げ出した事になるのではないかと質問をする。
ヴィータはシュミットが問題ないように考えてくれていると言うと彼女がアンリの事が気になっていると笑う。
それはカルディナの心境を言い当てていたようで、カルディナは少しだけ悔しそうにつぶやく。
「それにアンリ様にとって友人と遊ぶ事は治療の一環だからね。そうだろ? ミレット=ザンツ先生、ジーク=フィリス先生」
「……わざとらしい言い方ですね」
「正当な評価だよ。部屋に隠れさせて貰って診察も覗かせて貰ったんだが、半人前だと思っていたジーク=フィリス先生の方が的確な診察能力を持っている。これが私の医師としての評価だ」
彼女の表情を見て、ヴィータは頷いた後、ジークとミレットを見て挑発するように笑った。
ジークは小バカにされている気しかしないようであり、ため息を吐くがヴィータはアンリの診察を受け持っている医師の能力不足に付いて話す。
カルディナはその様子にシュミットからの書状をミレットに渡すとリュミナとリアーナの案内でアンリの部屋に向かった。
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