第935話
「……ねえ。あの2人って大丈夫なの?」
「ミレットもいるし、問題ないんじゃないかな?」
「そうだと良いんだけど、ミレットさん、頼りになるんだけど、なんか、企んでいそうと言うか」
カルディナの転移魔法でジーク達が王都に行ってしばらくするとフィーナが新しい紅茶と追加分のお茶菓子を運んでくる。
あまり仲の良くなさそうなジークとカルディナの事を心配しているのか、紅茶を並べながら聞くフィーナだが、カインは気にする必要などないと笑う。
フィーナは未だにどこかミレットに苦手意識があるようで頭をかくと難しい話を聞いていたくはないため、早々とキッチンに戻ろうとする。
「それは……企んでいるだろうね」
「企んでいますね。確実に」
「……そう思うなら、人選を考えなさいよ」
キッチンに向かう彼女の背中にカインは楽しそうに笑い、セスは眉間にしわを寄せながら言う。
2人からの言葉にフィーナは眉間に深いしわを寄せながらゆっくりと振り返った。
「別に企んでいるって言っても、ミレットの場合、常時、ジークにお姉ちゃんって呼んで貰う事だから」
「ジークも呼んであげれば良いんですけどね」
「……おかしな事じゃないなら良いわ」
妹の反応にカインはミレットが考えているであろう事を口にする。
それはあまりにくだらない事に思えたようでフィーナは大きく肩を落とすとキッチンに戻ってしまう。
「それでは、シュミット様、ワームに戻りましょうか? シーマとフォトンはもう少し待っていてくれるかな?」
「……仕方ありませんね」
「いや、まだ、話は終わっていないんだが」
彼女の背中を見送ったカインは姿勢を正すとシュミットとアノスをワームまで送り届けようとするが、他にも何かあるようでシュミットは首を横に振る。
それを自分への報復だと思ったのかシーマは身構えるがそんな気などないと言いたいのか、シュミットは呆れたようなため息を吐く。
「終わっていない話? シュミット様とシーマさんの再会? ……痴情のもつれ?」
「……バカな事を言っているな」
「冗談です。それなら、何があったのですか?」
カインはシュミットとシーマの顔を交互に見た後にわざとらしいくらいに真剣な表情をするがその口から出るのは性質の悪い冗談である。
そのため、シュミットからは冷たい視線が飛び、カインは苦笑いを浮かべた後、深々と頭を下げて彼の次の言葉を待つ。
「……ゴブリン族とリザードマン族との共存を目指すようになってから、私の屋敷には時折、隠れ住んでいた魔族が顔を出すのは伝えてあったな?」
「あ、あの、その方達がまさか問題でも起こしたんですか?」
「話しは最後まで聞いて欲しいんだが」
シュミットはゆっくりとではあるがワームの民への魔族への偏見をなくそうと努力している。
本来は受け入れがたい事でもあるがシュミットの元には自分の財を投げ打ってでも領民のために働いているレギアスがいる。
彼がいる事で領民達の多くはその考えを徐々にではあるが受け入れつつあるだけではなく、居場所がなく、人族の中で隠れ住んでいた魔族や魔族の血を引く者がシュミットを頼ってきているのだ。
その件はカインもセスも時折、ワームを訪れた時に聞かされていたので小さく頷くがフォトンは何か悪い事が起きたのではないかと考えてしまい、声を上げる。
シュミットは説明の途中だと彼をいさめるとフォトンは口を出してしまった事を反省したようで小さく頷いた。
「特には問題にはなっていない。元々、人族の中に紛れ込んで生活していたような者達だ。人族と姿を似ている上に見た目は魔法で人族に見せる事もでき者も多い」
「そうでしょうね。姿形が似ている者であれば、街になど紛れ込みやすいですから」
「……その通りなのだが、1つ困った事が起きている」
ラミア族との混血であるシーマは人族の中に紛れ込むのは簡単だと言う。
その言葉に簡単に入り込まれた方のシュミットは苦虫をかみつぶしたような表情をするが、話を止めるわけにも行かないため、問題が発生したと告げた。
問題と聞き、セスとフォトンの表情は引き締まるがカインは特に気にした様子もなく、話しの続きを待っている。
「……7日ほど前だ。旅芸人の一座の馬車が大型の獣に襲われた。たまたま、通りかかった冒険者達が見つけたのだが、旅芸人のほとんどは手遅れだったようだ」
「その大型の獣の討伐を手伝えと言う事でしょうか?」
「いや、それはラースやアノスに受け持って貰う事を考えている。実は旅芸人の中には3人ほど子供がのっていたんだが……魔族と魔族の混血の子供だったようだ」
シュミットの言葉でワーム周辺にいる大型の獣を駆除するために力を貸す事だと考えたセスだが、シュミットは首を横に振った。
彼は眉間にしわを寄せると旅芸人の一座には魔族の子供が一緒にいたと言うが、それは旅芸人が子供達を見世物にしていたと言う事を意味しており、ラミア族の混血であるシーマの表情には人族に対する嫌悪の色が浮かび上がる。
「その子供達はどうしたのですか?」
「今は私の屋敷で預かっている。フィアナが世話をしてくれているのだが、ひどい仕打ちを受けていたのか、心を開いてはくれないんだ」
「その上、力を上手く扱いきれていないのか魔法を暴走させる事も多い」
シーマは嫌悪感を隠す事無く、魔族の子供に付いて聞く。
シュミットは魔族の子供だろうと蔑ろにするつもりはないようでしっかりと保護してくれているようだが、子供達の心に残った傷は深く、彼にもどうして良いのかわからないようである。
見世物にされていた事もあり、子供達は人族に対して敵意を示す事があり、その上、まだ、自分達の能力を制御しきれていないようである。
「それでギドやゼイにも力を貸して貰ったのだが人族の姿をしている時は良いので彼らに預かって貰おうとも考えたのだが、元の姿に戻ると泣き出してしまうのだ」
「見世物になっていたとは言え、人族の中で生きていればそうなりますね。魔族には人族にはわからない物があるから、魔族同士では多少なりと警戒は緩むのでしょうが見た目がなれていないのでしょう。わかりました。その子達はしばらく、フォルムで預かりましょう。ここにはノエルもいるし、混血の方も多い。警戒も少しは解いてくれると思います」
「すまない」
カインはシュミットの考えを理解したようでその子供達を預かると決める。