第933話
「どういう事だ?」
「……本当に頭が悪いですわ」
「仕方ないだろ。この中で俺だけが平民なんだから」
説明を求めるジークの姿にカルディナは呆れたと言いたいのか、大きく肩を落とした。
ノエルとフィーナがキッチンにいる状況では自分だけの立場が悪いと言うが、先日、知ったとは言え、彼はワームの権力者であるエルア家の血を引く者である。
この場に集まっている者達は全員、それを知っているため、彼を見て、ため息を吐く。
「フィーナもですが、ジークにももう少しいろいろと教え込んだ方が良い気がしてきましたね」
「……できれば、それは遠慮したいです」
「だけど、ジークにもある程度の知識として頭に入れといて欲しいね。ジークはワームを完全にシュミット様の統治下にする上での切り札になるんだから」
セスはフィーナと一緒にジークにもいろいろと教え込む必要があると言い、ミレットは賛同するように小さく頷いた。
2人に組まれては逃げ道のないジークは顔を引きつらせるとカインは苦笑いを浮かべながらジークの協力は必須だと言う。
「……また、何か企んでいるのか?」
「知らないと言うのはある意味、幸せなのかも知れないな」
「そうですね」
カインの表情を見て、ジークは彼が自分をおかしな事に巻き込むとしか思えないようで眉間に深いしわを寄せた。
その様子にシュミットは眉間に深いしわを寄せ、カインは楽しそうに笑っている。
2人の表情に2人だけが知っている情報があると思ったようでセスは眉間に深いしわを寄せるが、2人がその情報を隠している事に何か意味があるとも考えているようで言葉に出す事はない。
「……とりあえずはヴィータ様がアンリ様の側に仕えると知れ渡ればエクシード家は自分の立ち位置を決めなければいけません。私達の方に近づいてくるか、エルア家の強欲隠居の側に寄るか」
「後は王族との直接的なつながりを得たとして第3勢力として名乗りを上げるかだな」
「流石にそこまで短絡的な事はしないだろ?」
カルディナはジークにエクシード家当主の次の行動を予測して話す。
途中でアノスが彼女の言葉を奪うとカルディナは説明を取られた事に不満そうに口を尖らせる。
しかし、ジークは彼女の様子に気づく事無く、エクシード家の当主が無謀な事はしないのではないかと首を捻った。
「正直、わからないね。エクシード家はいろいろと繋がっているからね」
「いろいろと?」
「……イオリア家ともガートランド商会を通して面識があるだろう」
カルディナの様子にカインは苦笑いを浮かべるも、話をそらす気は無いようでエクシード家には裏でつながっている有力な権力者がいると言う。
ジークはあまり、ハイム国の有力者の事を知らないため、首を捻っており、アノスは不機嫌そうに自分の家であるイオリア家もその1つだと答える。
「……ガートランド商会か? でも、あそこって、ライオ王子が毛嫌いしているだろう? 王子だと知らずに適当に扱ったせいか、怒らせたし」
「ジークは本当に鈍感ですね」
「俺、なんか、間違った事を言った?」
ガートランド商会はアノスが騎士になった時のお披露目パーティーでライオを怒らせており、王都での活動はかなり制限されているらしく、ジークはあまり大きな活動をできないのではと首を捻った。
その言葉にミレットは小さく肩を落とすとジークは間違っていない事を確認するように周囲を見る。
特に間違っていないと思ったようでカインとアノスは頷くがミレットは2人の顔を見て、期待外れだと言いたいのか大きく肩を落とした。
「2人ともダメですね。アノスは特にダメダメです。もっと、いろいろと見ないと後でどうなっても知りませんよ」
「……意味がわからん」
「まぁ、無自覚ですからね」
ミレットはアノスにもう少し考えた方が良いと言うが、言われたアノス本人は意味がわからないようで眉間に深いしわを寄せる。
その様子にフォトンはミレットの言いたい事がわかっているようで苦笑いを浮かべ、ミレットはわかってくれる人がいた事が嬉しいのかうんうんと頷く。
「それでも、エクシード家からアンリ様を通じて、ガートランド商会が王都で活動できる後押しを得る事ができる。ガートランド商会は使いづらいエルア家の強欲爺より、使いやすいコマを手に入れるってわけだよ」
「……じいさん、捨てられるのかよ」
「簡単に捨てられるほどの人間ではないだろう」
カインはガートランド商会がエクシード家を裏から扱う可能性が出てくると言う。
それはジークにはギムレットが用済みと捉えられると聞こえたようで、それなりに肉親としての情があるのか可哀そうだと言いたいのか、頭をかく。
シュミットはギムレットがガートランド商会と縁が切れただけで大人しくなるとは思えないようで首を横に振る。
「むしろ、エクシード家が第3勢力になる事を待っている可能性もあるね」
「……本当に厄介な人ですね」
「あの、良いですか? 私が言うのも何なんですが、あのヴィータさんが素直に実家のエクシード家の当主の話を聞くと思いますか?」
カインはギムレットが動き出すきっかけを探しているようにも見えているようで眉間に深いしわを寄せた。
彼をそこまで悩ませるギムレットと言う人物にセスがため息を吐いた時、話を今まで黙って聞いていたシーマが手を上げる。
それは先日、知り合ったばかりとは言え、シーマの人格を的確に表した一言であり、ジークとカインは顔を見合わせて笑う。
「確かに素直に従うなら、今、アンリ王女の側になんかいないな」
「そうだね。それにガートランド商会が思っているほど、エルト様もライオ様も一筋縄ではいかない」
「……ガートランド商会がいろいろと縁を結んでいるようにエルト様もいろいろな縁を結んでいる。王都でガートランド商会が勢力を作れるほど簡単ではない」
ヴィータの性格を忘れていたと笑うジークにカインはエルトとライオも忘れてはいけないと口元を緩ませる。
シュミットはエルトの側にいる間にかなり苦労していたようでその時の事を思いだしたのか大きなため息を吐いた。
短編書きました。興味がありましたらご覧ください。