第932話
「……どういう状況?」
「俺達がいない間に何があったんだよ?」
「いろいろ、有ったんですよ。カイン、できれば、シーマさんの事をシュミット様に報告していた事を伝えておいて欲しかったです」
ジークとカルディナがカインとセスを連れて帰ってくると居間の様子を見たカインは首を傾げる。
戻ってきた面々は何があったかわからないが、面倒事が起きた事は理解できるようでジークは眉間にしわを寄せて聞くとミレットは疲れた様子でため息を吐いた。
「あれ? 俺、言ってなかった?」
「……聞いていませんでした」
「わざとやっているんではないでしょうね?」
カインは言ったと思っていたようで首を捻るとミレットはもう1度、ため息を吐く。
シーマはカインに悪意があるとしか考えられないようで彼を睨みつけて魔眼を怪しく光らせるが、カインが彼女の瞳を見つめる事はない。
「わざとやっているわけないじゃないか。わざとやっているなら、もっと、面白い展開にするよ」
「……そうですね。あなたはそういう事を平然とやる。クズですよね」
「酷い言い方だね。それで、なんで、ここにそろっているんですか? シュミット様がわざわざ、フォルムまで足を運ぶ必要があるのですか? 用があるなら、俺がワームに足を運びましたのに」
カインはわざではないと小さく口元を緩ませた。
それは嘘を言っていないようにも見えるが、彼が悪意を持って動いた時にさらに面倒になる事は想像がついたようでシーマは眉間に深いしわを寄せる。
カインは心外だと言いたいのかわざとらしいくらいに大袈裟に肩を落とした後、シュミットにフォルムを訪れた理由を聞く。
「……聞くまでもなく、わかっているのだろう。エクシード家の事だ」
「それはそうなのでしょうけど、シュミット様がここに来る理由にはならないと思いますが」
「なんだかんだ言いながらも転移魔法で移動すれば、おかしな人間をまく事ができるからな。領主の屋敷になるといろいろな人間が紛れ込んでいるから面倒だ」
シュミットはヴィータが味方になった事でエクシード家を味方に引き込みたいようであり、先日のカインの書状の内容について話したいようである。
セスは彼が訪れた理由に頷きはするが、それでも、領主である彼がフォルムまで足を運ぶ理由にはならない。
彼女の疑問にシュミットは屋敷に潜んでいる間者をまく事には必要だと言い切った。
「領主の屋敷なのにそんな人間が入り込めるのか?」
「それくらいの事も知らないのですか?」
「……警護兵や騎士もいるが、その者達だって金で買収される者だっている。それに領主となると面会を求める者と時間を割いて会わなければいけないからな。だいたい、この間までフィアナと言う娘もエクシード家に紛れ込んでいただろう?」
首を傾げるジークの姿にカルディナは呆れたとため息を吐き、アノスは眉間にしわを寄せながら、先日までのフィアナを例にして説明をしてくれる。
彼の説明を聞き、ジークは理解できたようだが少し気まずいようでバツが悪そうに視線をそらす。
「そうだ。それで、結局、どうするんだ? 流石にヴィータさんがこっちに付いたんだから、エクシード家も完全にこっち側になったんだよな?」
「……話はそう簡単に行かないって説明しているよね」
「そうだったか?」
ジークは自分が話を分かっていないとこれ以上、思われたくないようで話を戻そうとするがカインは大きく肩を落とした。
話しを上手く運べない事にジークは目を泳がせるとおかしな事を言わないようにしようと口をつぐむ。
「それで、シュミット様、エクシード家の動きはどうなっていますか? ヴィータ様が王都に行った事など他の方達に知られていませんよね?」
「……その聞き方はどうにかならないのか? 現状ではエクシード家は必死に隠そうとしている。ギムレットにはよほど知られたくないように見える。元々、ヴィータは自由奔放なところがあったからな。しばらく、ワームを空けても誰も何とも思わないようだ」
「確かに話を聞くとルッケルのリック先生のところにも良く行っていたようですし……それより、カイン、あなたは、また何か企んでいるのですか?」
ジークが黙った事でカインはシュミットにエクシード家の状況を聞く。
シュミットはカインの人をバカにしたような聞き方にため息を吐くとエクシード家がヴィータの事を隠していると話す。
カインは予想通りだと言いたいのか、口元を小さく緩ませており、その姿を見たセスはまた、良からぬ事を考えていると思ったようで大きく肩を落とした。
「別に企んでいるつもりはないけどね。とりあえずはヴィータ様がエルト様、ライオ様の要請で王都に行ったと広めてしまいましょうか」
「それはすでにソーマ達に頼んで始めている。ギムレットの耳に届くのも時間の問題だろう」
「王都に噂を広めている強欲爺の耳になら、すでに届いている可能性も高いですけどね」
カインは両王子がヴィータを必要としており、彼女がその要請を素直に受けたとワームで広めると言う。
同じ事はシュミットも考えていたようですでに懇意にしている冒険者達を使ってワームに噂を広めていると話す。
カインはギムレットがどのような行動に出るか楽しみだと言いたいのか、口元を緩ませている。
「……悪い顔していますね」
「どうして、何か企んでいると生き生きするんでしょうね」
「そんな事は無いよ」
彼の表情にミレットは小さくため息を吐くとシーマは眉間に深いしわを寄せた。
2人の反応にカインは言いがかりだと言いたいのか大袈裟に肩を落とした後、表情を引き締める。
「王家とワームの1有力者、どっちに付く方が得かと計算できると良いけどね」
「……と言うか、ワームの有力者ってどれくらい、じいさんに付いているんだ?」
「それを見るのにエクシード家の動きを見たいんだけどね」
ジークはギムレットの味方がどれだけいるか気になるようであり、遠慮がちに手を上げた。
カインはエクシード家の動きでそれを確認したいと言うが、彼の言葉はどこか信用に欠けるためか、ジークはセスとシュミットへと視線を向ける。