第930話
「シュ、シュミット様、お久しぶりです」
「……ああ、カインとセスはいるか?」
「今は仕事場の方だな。呼んでくるか」
ヴィータがアンリの側に仕えるようになってから、数日が過ぎた頃、シュミットがアノスとカルディナを連れてフォルムを訪れる。
突然の訪問にノエルは慌てるが、シュミットはカインとセスの面会の場を用意して欲しいと言う。
2人の不在をジークが伝えるとシュミットは少し考え込んだ後、2人を呼んでくるようにと頼む。
「それじゃあ、行ってくるか」
「私も行きますわ」
「別についてくる必要はない。ゆっくりしていろよ」
ジークは2人を呼びに行こうとするとクーが彼の頭の上に移動する。
クーと一緒にいたいのか、カルディナは手を上げるが、特に同行して貰うような事でもないため、ジークは屋敷に待っているように言う。
「ジーク、カインとセスさんが一緒にいるかはわかりませんし。カルディナにも付いて行って貰った方が良いですよ」
「そうですか? ……」
「何か文句がありそうですわね……まぁ、良いですわ。それより、時間もあまりないのですから、早く行きますよ」
ミレットは何かあるのか、くすりと笑うとカルディナに同行させるように言うが、ジークはカルディナに振り回されるのは勘弁したいためか眉間にしわを寄せた。
彼の表情にカルディナは不機嫌そうな顔をするが、ミレットは落ち着くようにと彼女の肩を叩く。
ミレットに言われてカルディナは不満げだが小さく頷くとジークに速くするように促す。
ジークは仕方ないと言いたいのか、小さくため息を吐くと観念したようで2人は屋敷を出て行く。
2人の様子を見て、ミレットはくすくすと笑っているが、状況が理解できないのかノエルは首を傾げている。
「……鈍いな」
「そうですね」
「しかし、炊きつけるような事をして良いのか?」
ノエルが首を傾げる姿にアノスは小さくため息を吐く。
ミレットは小さく頷くがシュミットは彼女の笑みに趣味が悪いと言いたいのか眉間に深いしわを寄せる。
「現状で言えば、軽口を叩けるお兄ちゃんと言ったところでしょうし、問題ありませんよ。カルディナはそこまでバカではないでしょうし」
「しかし……カインに続いて、ジークか? なぜ、相手がいる人間に惹かれるのかが分からないな」
「ラース様には過保護なところがありますからね。そばに居る男性が少ないのが原因ではないでしょうか? もう少し、カルディナを信じてあげても良いと思うんですけどね。人を見る目は育ってきているようですし」
シュミットの心配が理解できているミレットはくすくすと笑っており、彼女の言葉にシュミットは小さくため息を吐く。
ミレットはもう少し、ラースにカルディナを信じて欲しいと言うが、問題のラースがいないため、誰も返事のしようがない。
「……確かに過保護すぎるところはあるが、オズフィム家の後継者なのだから、仕方ないだろう」
「でも、過保護すぎて、相手が見つからないのは問題ではないでしょうか?」
「それはそうかも知れないが……ミレット、それに関して言えば、お前も同じではないか? ミレットはエルア家を継ぐんだ。良い相手を見つけてくれないとワームの統治に関わってくる。正直なところ、できれば、すぐにでも相手を見つけて、こちらを手伝って貰いたいのだが」
アノスは騎士の名家であるオズフィム家なら仕方ないのではと言うが、ミレットは相手が見つからなければ意味がないと言う。
シュミットはミレットの能力の高さを認めているようでワームの領主として自分を支える立場になるであろう彼女の相手の事を心配しているのかため息を吐いた。
「そうですね……周囲に才能豊かな男性ばかりがいるせいか、興味が湧かないんですよね。それにもう少し、フォルムに居たいですからね。」
「そうか……まぁ、フォルムの方もミレットの力は必要だろうし、仕方ないか」
「申し訳ありません。悪徳領主はいませんか? ……失礼しました」
ミレットにとっては従弟であるジークと一緒に過ごす時間の方が大切なようで苦笑いを浮かべる。
シュミットは彼女の生い立ちも聞いているのか、無理は言えないようで小さく頷いた時、カインを探しに来たのかシーマとフォトンが屋敷を訪れた。
フィーナが一緒にいたようで、2人は当たり前のように居間に顔を出したのだが、居間にはシュミットがおり、彼の顔を見たシーマはドアを閉めて隠れてしまう。
「シーマさん、何しているのよ? あのクズはいないの? ……げっ」
「……人の顔を見るなり、その顔は何だ?」
「2人とも落ち着きましょうね。後、シーマさんも逃げない」
シーマがドアの前を塞いでしまったため、フィーナはため息を吐くとドアを開けてシーマの背中を押しながら居間に足を踏み入れる。
彼女はシュミットとアノスがいる事に気づくとアノスの顔を見てあからさまに顔をしかめ、アノスは眉間にしわを寄せた後、彼女を睨み返す。
2人の様子にミレットは苦笑いを浮かべると落ち着くように声をかけた後、居間から逃げ出そうとしているシーマに声をかけた。
「……べ、別に逃げようとなどしていません」
「……ずいぶんと久しぶりだな」
「ひ、人違いではありませんか? どこにでもある顔ですから」
シーマは平静に振舞おうとするが彼女は以前、魔眼を用いてシュミットをエルト、ライオ両王子の暗殺に利用したため、見つかれば殺される可能性がある。
シュミットはシーマの顔に眉間に深いしわを寄せるとシーマは初対面だと言いたいのか、別人だと言う。
「……心配するな。別に何かをするつもりはない。カインやアノス、カルディナからも報告は受けているからな」
「……報告は受けている?」
「当然だろう。国家転覆をはかろうとした者達の事を報告しないわけにはいかないだろう」
シュミットはシーマを処罰する気などないと言うが割り切れない部分もあるのか眉間のしわは深いままである。
報告と聞き、シーマはフィーナと睨み合いをしているアノスへと視線を向けると彼はフィーナから視線をそらす事無く、彼女の疑問に答えた。