第928話
「そうか……フィアナはワームに残ったわけか」
「……ずいぶんと残念そうだな。当然だろ。フィアナが王都にいたら、2人とも無茶を言うだろ」
「そうですね」
ジークとカルディナはシュミットから書状を預かり、ヴィータを連れて王城へと戻った。
カルディナが状況説明をするとエルトは書状を持って国王とラングに面会を求めに行ってしまい、彼が戻ってくるまで用意された部屋で待っているように指示が出る。
ライオはヴィータの側に転移魔法が使えるフィアナがいる事は知っており、彼女も一緒に王城に仕える事を期待していたようで残念だと言いたいのかため息を吐く。
その様子にジークはフィアナを王城に連れてくるわけがないと首を横に振り、ミレットは苦笑いを浮かべながら頷いた。
「ですけど、エクシード家の当主様がジークを捕らえようとするとは少し迂闊でしたね」
「申し訳ありません」
「まあ、過ぎた事を責めても仕方ないね。それにヴィータがアンリの治療を手伝ってくれる事になったんだから良しとしようか」
ミレットはジークとカルディナをワームに行かせてしまった事を判断ミスと考えているようで困ったように笑う。
カルディナは危ない目に遭ったためか、反省しているようで肩を落とすとライオは気にする必要はないと首を横に振る。
「それはそうかも知れないけど……俺はカインとセスさんに何を言われるか考えると胃が痛いよ」
「そうですね。流石に今回は怒られるかも知れませんね」
「特にセスは青筋立てて怒りそうだね。カルディナもしっかりと怒られてこないとダメだよ」
結果はそれなりに良かったものの、ジークはフォルムに戻って状況を説明した時に、カインとセスに怒られる気しかしないようで胃の辺りをさすった。
ミレットは苦笑いを浮かべて頷くとライオはセスの顔を思い浮かべたのか苦笑いを浮かべて、2人が説教を受ける原因となったカルディナの肩を叩く。
「……わかりました」
「別にカルディナ様は付いてこなくても良いんじゃないのか?」
「いや、しっかりと怒られてきた方が良いだろう。物事の分別がつかないままだと周囲に危険が及ぶと言う事を覚えて貰うためにも」
カルディナが小さく頷くと彼女の行動を止められなかった事にジークは少しだけ悪い気がしたようで彼女をかばうように言う。
その言葉にヴィータは彼女の今後の成長のためにも必要だと言うが、自分勝手な行動が目立つ彼女が言うには説得力がなく、ジークは眉間にしわを寄せ、ミレットは苦笑いを浮かべている。
「何かあったかな?」
「……いや、説得力がまったくない言葉ってあるんだな。と思って」
「失礼な事を言わないで欲しいな。私は年長者として当然の事を言っているつもりだが」
2人の表情にヴィータは首を傾げるとジークは眉間にしわを寄せたまま、思った事を口にする。
ヴィータは年長者として時には真面目にやらなければいけないと考えているようで小さくため息を吐く。
「……年長者として」
「ふむ。後はカインくんやセスくんもいないからな。まとめ役がいなくて困っている」
「それは方向性を見失っていると言うんじゃないのかな? 別に無理はしなくても良いよ。私も必要な時くらいは分別を付けるつもりだから」
確かに彼女は年長者ではあるが、知り合ってからの彼女の行動は目に余るものも多く、ジークが疑いの視線を向けているとヴィータは両手を上げて心境を吐露する。
ライオは彼女の言葉に苦笑いを浮かべるとまとめ役なら自分がやると手を上げた。
しかし、ジークにとってはライオの言葉も信用できる要素はなく、眉間のしわはさらに深くなってしまう。
「……それでミレットさんの方は上手く行ったんですか?」
「あからさまに話を変えようとしているね」
「そんな事は無いぞ」
このまま話をしていても状況はまったく変わらないため、ジークは話を変えようとミレットの結果を聞く。
彼の言葉にライオは不満げにため息を吐くとジークはわざとらしく視線をそらす。
ライオは不満げな表情をするが、言っても仕方ないと思ったようで視線でミレットに合図を送る。
「私の方は報告する事はあまりないんですよね。料理人の方達に使って欲しい食材を指定しただけですし、後はアンリ様が好き嫌い無く食べてくれれば良いわけですし」
「……その割にはもの凄く細かったような気がするけどね。料理人達も困っていたし」
「そうなのか? 料理人が困るってどれだけ細かいんだ」
ミレットは報告するような事はないと思っているようで首を傾げながら言うが彼女に付いて歩いていたライオは料理人達の困り顔を思いだしたようで小さく肩を落とす。
ジークは首を傾げるも聞くのが怖いようで頭をかく。
「別に細かくはないですよ。それにあまり、食材なども見せて貰いましたけど、栄養と言うものに知識が無い方達も多いようでしたから、少し勉強して貰わなければいけない事がありましたね。健康には食事も大切ですから」
「……確かに生き物は食事から生きるのに必要な力を得るのだからな。食事は大切だな」
「そうかも知れませんが味も大切でしょう」
ミレットは難しい事は言っていないと言う割には料理人達の栄養学への無知さにため息を吐き、ヴィータは大きく頷く。
カルディナは栄養と聞き、アリア特製の栄養剤の事を思いだしたようで眉間にしわを寄せるとジークへと視線を向けた。
「食事内容の考え方も聞かせて貰ったのですけど、何となくですけど、ラング様がジークの栄養剤を好む理由もわかりましたしね。それを補足するためにもいろいろと話をさせていただきました」
「……それは俺の売り上げに関わってくるんじゃないですか?」
「どうですかね? 後はアンリ様が興味を持つように庭の手入れなど、身体を少しずつでも動かすようにしてくださるように頼みました」
ジークはカルディナの視線を軽く無視しており、ミレットはその様子にくすりと笑うとアンリの食事だけではなく、ジークから栄養剤を買い込んでいるラングの食事に付いても話してきたと言う。
それを聞き、ジークは眉間にしわを寄せるがミレットは気にする気もないようで楽しそうに笑っている。