第920話
「そこは……シュミットだからかな?」
「シュミット様だから? それはどういう事だよ?」
「ほら、シュミットは私とライオの命を狙ったわけだろ。そんな人間がアンリに呪いをかけたかも知れない魔族と平和的な解決方法を取った。裏があるって騒ぎ立てるには充分じゃないかな?」
エルトは大きく肩を落とすがシュミットが原因と聞いてもジークは意味がわからないようで首を捻る。
彼の様子にエルトはギムレットが私兵を動かすであろう理由を話す。
それはシュミットの行動に裏があると広める事で邪魔な彼をワームの領主から排除する方法が見つかったとも言えた。
「待てよ。シュミット様は昔の事は目をつぶれば今は民の事を思ってくれる。良い領主だろ。ワームでも評判は悪くないはずだぞ。それにエルト王子やライオ王子より、王族っぽいし」
「ジーク、それはどういう事かな? 私もライオもきちんと公務は行っているよ」
「はいはい。そうですね」
シュミットとの和解から彼とは懇意にしている事や彼を支えているのがレギアスやラースとも同様であり、ジークは全面的にシュミットの肩を持つ。
彼の言葉を嬉しく思う反面、エルトは小バカにされているとも思ったようで小さくため息を吐くが厄介事を持ってくる2人の方がジークにとっては迷惑であり、エルトをないがしろに扱う。
「確かにそうかも知れませんが、その態度はどうなのでしょう?」
「別にジークがこうなのはわかっているから別にかまわないよ。それにカルディナだって私の事をバカ王子扱いしていたじゃないか」
「……申し訳ありません」
カルディナはジークの態度が失礼だと言うが彼女もエルトの事をバカにしていた前科が有るため、エルトはため息を吐いた。
その言葉でカルディナは身体を小さく縮めてしまい、彼女の変化にクーは珍しいと思ったのか首を捻る。
「エルト様もあまりいじめないであげてください。カルディナも反省しているようですし」
「そのつもりはないよ。カルディナが国のために働いてくれている事を私も理解しているからね。無理をさせている事もね」
「そう思っているなら、余計な事を言わなければ良いのにね。カルディナは自分の研究を後回しにして兄上やシュミットの仕事を手伝っているんだから……どうして、そんな目で見るんですか?」
ミレットは小さく肩を落とすとエルトの行動をいさめ、エルトは悪気などないと言いたいのか苦笑いを浮かべた。
2人の様子にライオは小さくため息を吐くともう少しカルディナの事を気づかうべきだと言うが、その言葉には何か裏があるように見え、エルトから疑いの視線を向けられる。
その視線にライオは不満げに肩を落とすが擁護する言葉は続かない。
「……ライオ様が私に気を使う時は絶対に面倒な事を押し付けようとしている時ですわ」
「転移魔法を教えるのは絶対にないからな。ライオ王子がふらふらと魔法で王都から離れたら探すのが面倒だからな」
「……ちっ」
ジークとカルディナはライオがまた転移魔法に執着していると思っているようで先に念を押す。
ライオは2人の言葉を聞き、舌打ちをするとミレットは3人の様子に苦笑いを浮かべる。
「実際問題、シュミット様に伝えてどうにかなるのか?」
「何も知らないよりは対応する方法を考える時間があるのは重要だと思うけど、ジーク達に伝言を頼めば自然にカインとセスにも話が伝わるからね。シュミットだけで足りないなら良い案をあの2人が考えてくれるよ」
「それはそうかも知れないけど……エルト王子は何も考えて無いのか?」
話しがそれてしまったため、ジークは本題に戻ろうとするとエルトはカイン達にも期待していると笑う。
難しい話はジークも考えたくないため、頭をかくとエルトは対策を取ってないのかと聞く。
「現状で言えば、手を打つ方法がないね。王都からワームは離れているし、ギムレットが兵や冒険者を集めているのはあくまで噂だからね」
「何とか、爺さんの暴走を止めたいな。無駄に争いを起こしたくはないし」
「そうですね。アンリ様の体調に回復の兆しでも見えれば、時間は稼げると思うのですけど、私達が診察するわけにも行かないですからね」
エルトは離れた王都からでは対処できる事は少ないと言い、ジークとミレットは何かできる事はないかと首を捻る。
しかし、良い考えが浮かぶわけもない。
「……アンリの診察してみるかい?」
「バカな事を言うな。そんな事ができるなら、今まで苦労してないだろ」
「私もいろいろと裏回しをしているからね。少しぐらいなら時間を作る方法をあるよ」
エルトは少し考え込むとアンリの診察をしてみるかとジークとミレットに聞く。
ジークは無茶な事を言うなと肩を落とすがエルトは何か策があるのか口元を緩ませている。
「本当ですか? それなら、診察はしておきたいですね。実際に診察しないとわからない事もありますから、病状がわかれば薬の調合もできますからね」
「ただ、あまり時間は無いし、ここにいる全員に協力して貰わないといけないけどね。良いかい。カルディナ?」
「それは出来る事なら協力しますけど、私もアンリ様の事は心配ですし……協力させてください」
ミレットはエルトの口から出た提案に驚きの声を上げるとエルトはこの場にいる全員の力が必要だと言う。
その言葉にカルディナは小さく頷くとクーを抱きしめている手に力を込める。
彼女の様子はいつもとは違い、クーは戸惑っているのか心配するように声を上げた。
「それってひょっとして今からか?」
「下手に申請とかすると時間を与えてしまうからね。急ぐよ。時間がないからね」
「根回しとか必要じゃないのかよ」
ジークはアンリの診察は行いたいが、おかしな事をするとカインに怒られる可能性があるため、いつを予定しているか聞く。
エルトはすぐに動く必要があると言うと紅茶を飲み干してソファーから立ち上がった。
突然の行動にジークは頭をかくがエルトが急いでいる事は理解できたようでゆっくりと立ち上がるとライオ、ミレット、カルディナの3人が続く。