第916話
「そう言えば、気にした事なかったな……ばあちゃんの名前も在籍記録から消されているってセスさんが言っていたし、そう言う人が他にもいるのかな?」
「魔術学園の在籍記録から消されると言う事はよほどの事をしたんでしょうか?」
「……アーカスさんだと否定できないですね」
ジークは以前にセスが祖母アリアの名前は魔術学園の在籍記録から消去されていた事を思い出す。
在籍記録から消されたと考えた時、ミレットは悪い印象しか思い浮かばなかったようで苦笑いを浮かべた。
普段のアーカスの行動を考えるとジークは否定する事ができないようで困ったように笑った。
「確かにあのハーフエルフの行動を考えるとおかしな事ばかりしていると思いますが、それで在籍記録が消されると言うのは考えにくいですね」
「なぜですか?」
「確かにうちの学園は……知っての通り、フィリム教授を筆頭におかしな実験を繰り返し、王都だけではなくハイム王国に多大な利益とともに被害と損害をもたらしています」
カルディナはアーカスの名前が在籍記録に残っていない事は彼が国に対して不利益な事をしたからではないと言う。
彼女の言葉にミレットは首を傾げるとカルディナは魔術学園に在籍している多くの生徒や研究者達の日頃の行動を思いだしたようで眉間に深いしわを寄せた。
「……そう言われるとそうだったな」
「むしろ、昔から学園で魔術や魔法を学んだ者達が魔法を悪用した時には学園で何か対策を取るようにと問題があった者ほどしっかりと記録されているはずです」
「そ、それはそれで凄い気がしますね」
カインのおつかいやライオに面会するために何度も魔術学園を訪れているジークは魔術学園で常日頃から起きている爆発などと言った被害を思い出し、大きく肩を落とす。
カルディナは問題児ほどしっかりと居場所を管理されていると言い、ミレットはどう対応して良いのかわからないようで苦笑いを浮かべた。
「そう考えると……カルディナ様の記憶違いか?」
「そんな事はありませんわ。絶対にアーカス=フィルティナなどと言う名前はありませんでしたわ」
「悪かったよ……後でセスさんに確認してみよう」
ジークはカルディナが知らないだけだと思ったようで首を捻る。
彼の言葉にカルディナは不機嫌そうに彼を睨みつけるとジークは謝罪をするがカルディナに聞こえないようにつぶやく。
「とりあえず、これ以上は何もわからないか?」
「そうですね。アーカスさんも話そうとしないでしょうし」
余計な話をしないうちにジークは話を止めようと話をまとめる。
ミレットも特に反対する事もなかったようで頷くと紅茶に手を伸ばす。
「そう言えば、カルディナ様はいつまでここに居て良いんだ? フィリム先生に見つかってここに拉致されたって事はやる事はそのまま残っているんじゃないのか?」
「……そうでしたわ」
「それは大変ですね。時間は足りるんですか?」
ジークも紅茶に手を伸ばした時、カルディナが王都に戻った理由を思いだした。
カルディナも言われるまですっかりと忘れていたようで眉間にしわを寄せるが、クーとも離れたくないようでクーに抱き付こうとする。
彼女の手をクーは交わすとミレットの膝の上に逃げ込む。
その行動は現状で1番安全なところはミレットの側だと理解した上での行動であり、カルディナはミレットに飛びかかるわけにもいかないためか、悔しそうにテーブルを叩く。
彼女の様子にミレットは苦笑いを浮かべながら、カルディナに時間は良いのかと確認する。
「時間は無いですが……もう慌てても仕方ありませんし」
「人手がいればどうにかなるんですか?」
「人手があれば良いかもしれませんけど……お兄様とお姉様の手を煩わせるわけには」
カルディナは無理だと思ったようでクーと遊ぶ事を優先しようと視線をクーへと移す。
ミレットは苦笑いを浮かべたまま、カルディナに用件は済ませる方法はないかと聞く。
人手があれば用件を済ませる事ができるようだが、カインとセスに頼むのは気が引けるようで首を捻る。
「それもそうか。あの2人も忙しいからな。そうすると……」
「ジークではダメなんですか? 荷物運びとかなら手伝えると思いますよ」
「それはそうですね……確かにない事もありませんね」
ジークはカルディナが本日はフォルムでゆっくりする気だと考えて新しい紅茶を淹れるためにキッチンへ向かう。
ミレットは手伝いの内容次第ではジークでも良いのではないかと聞く。
カルディナはジークでも手伝える事があるのか首を捻る。
「それなら、ジークにも手伝って貰いましょうか。ジーク」
「おかわりなら、待っていてください」
「そうじゃなくて、カルディナのお手伝いをするのに王都に行きましょう。それなら、クーちゃんも一緒に行けますし」
魔法が使えなくても手伝える事があるとわかり、ミレットはキッチンに戻ったジークを呼ぶ。
ジークは2人の話を聞いていないため、紅茶の催促だと思ったようで待っているように言うがミレットはクーの頭を撫でながら王都に行く事が告げる。
「……意味がわかりません」
「カルディナは人手が足りないと言っているんですから、フォルムの方はフィリム先生が手伝ってくれているんですし、その代りに私達が手伝おうと思ったわけです」
「俺、魔法は使えませんよ」
ジークはキッチンから顔を出すと意味がわからないとため息を吐いた。
ミレットはカルディナの手伝いをしたいと言うが、ジークはやはり意味がわからないと眉間に深いしわを寄せる。
「魔法以外にも手伝える事はあるでしょう。カルディナには迷惑をかけているんですから、それくらいしても罰は当たりません」
「……いや、どちらかと言えば、迷惑かけられている気がするんですけど」
「良いから行きますよ」
ミレットはもう決めたと言いたいようでクーを抱きかかえたまま立ち上がるが、ジークは状況がつかめないようでため息を吐く。
そんな彼の様子にカルディナは不満げだが、ミレットが有無を言わせるわけもない。
ジークはミレットには頭が上がらない事も多く、観念したようで頷いた。