第910話
「で、どうするんですか?」
アーカスの後を追い、屋敷の外まで移動する。
ジークは立ち止まったアーカスを見て、何をするのかと聞く。
アーカスは視線で指示を出し、シーマとフォトンを並んで立たせ、2人と自分の間にジークを移動させた。
彼の行動の意味がわからないシーマは怪訝そうな表情をしており、フォトンは彼女をなだめようと声をかけている。
「小僧、魔導銃に装着している火竜の瞳を使え」
「……使えって、使い方、知らないから」
「魔力を流して見たらどうですか?」
シーマの事など気にする様子も見せず、アーカスはジークに指示を出す。
指示が出ても何をして良いのかわからないジークは大きく肩を落とし、シーマは一般的な魔導機器の使い方を試すように言う。
「魔力を?」
「……何ですか? 火の結界?」
「成功のようだな」
ジークは首を傾げながらも魔導銃に魔力を流すと彼の足元には魔法陣が描かれる。
描かれた魔法陣は赤い光を放つとジーク達を包むように赤い光の柱が浮かび上がった。
魔法陣にシーマは心当たりがあったようであり、火の結界とつぶやくとアーカスは小さく口元を緩ませる。
「火の結界……火属性の魔法の威力が上がったりするんですよね。便利そうですけど、冷気の魔導銃、使えないんじゃないですか?」
「それに関して言えば、仕方ないが使い分ければ良いだろう。新しい改善方法が見つかれば改良は出来るだろうがな」
「そうかも知れないですけど……使いどころ、あります?」
火の結界の中では冷気の魔導銃の威力が弱まる事は容易に想像が付き、ジークはため息を吐いた。
アーカスは今後の改善する点であると言うが、ジークは火の結界に利用価値が考えられないようで首を傾げる。
「カイン様やノエルさんは魔法を使えるんじゃないですか?」
「……カインの使い魔は火を吹いているのはたまに見るけど、ノエルの攻撃魔法は期待できないな」
「あの小娘は攻撃に関して言えば役立たずだからな。あの性悪は魔法使いを名乗っている割に武道派だしな」
フォトンは火の魔法を使えそうな2人の名前を挙げた。
ジークとアーカスはノエルが役立たずだと言い切り、2人の言葉にフォトンは眉間にしわを寄せる。
「……私が言って良いのかわかりませんが、戦闘になった時に魔法が無くて大丈夫なんですか?」
「……なぜ、私はこんな人達に後れを取ったんでしょう」
「あ、ギドは火の魔法を使うからギドがいる時には使えるか……それはそうと、これを試すだけなら、シーマさんもフォトンさんも来なくて良かったんじゃないですか?」
ジーク達が戦闘に巻き込まれた場合に不安に思ったフォトンは大きく肩を落とし、シーマはジーク達に敗北した時の事を思い出して情けなくなってきたようでため息を吐いた。
火の魔法をギドが使う事を思い出したジークは手を叩くが、火の結界を発動させるだけなら全員でこの場所に来る理由がなかったのではと首を捻る。
「確かにそうですね」
「帰らせていただきます」
「待て。本題はこれからだ」
ジークの言葉にシーマはもう用は終わったと言いたいようで書斎に帰ろうとするが、アーカスは彼女を引き止めた。
シーマは帰して貰えなかった事に不満げな表情をしているがアーカスが気にする事はない。
「アーカスさん、魔法陣は出したままで良いんですか? 結構、魔力を吸い取られている気がするんですけど」
「……きついなら、精霊達に力を貸して貰え。それはお前の魔力を変換しているだけだから、火の精霊に力を借りなくても発動できる」
「そうですね。それなら楽ですね」
しかし、火の結界を展開していたジークが限界だと言い始める。
ジークの言う通り、魔法陣は小さくなってきており、アーカスはこれくらいも維持できないのかと言いたげにため息を吐いた。
アーカスに言われてジークはなるほどと頷くと目を閉じ、精霊達に力を借りる。
精霊達はジークの声に答えたようで火の結界は最初に魔法陣を発動させた時と同じ広さに広がって行く。
「……なぜ、このような事をできるのに魔法がまともに使えないんですか?」
「ジークもノエルさんも魔法の勉強をした方が良いんじゃないですか?」
「ほら、俺、薬屋だし」
ジークが行った事は魔法を使う者達から見れば、常識から外れたもののようでシーマとフォトンは眉間にしわを寄せる。
2人の言葉にジークは苦笑いを浮かべるが、その言葉には理由にはなっていない。
「……まあ、良いです。それで火の結界の中で私は何をすれば良いのですか? 威力の上がった火の魔法でジークを焼き払えとでも言いますか?」
「怖い事を言わないでください」
「その通りだ」
シーマは納得が行かないようだがこれ以上付き合っても居られないと言う嫌味も込めてジークへと攻撃するのかと聞く。
その言葉にジークは冗談でも笑えないと身構えるがアーカスは表情を変える事無く、シーマの言葉に頷いた。
アーカスが肯定した事にシーマは一瞬、驚いたような表情をするがすぐに日頃の恨みを晴らせると考えたのか口元を緩ませる。
「いや、アーカスさん、そう言う悪質な冗談は」
「誰も冗談など言っていない。遠慮なく、焼き払え。これも貸してやろう」
「これは……遠慮なく、使わせて貰います」
ジークは冗談だと言って貰いたいようでアーカスに声をかけるが、彼は本気のようで懐から赤い宝玉の吐いた耳飾りを取り出してシーマに投げて渡す。
耳飾りに付けられている赤い宝玉は火竜の瞳の欠片の1つであり、シーマはすぐに耳飾りを身に付けて魔法の詠唱を始める。
彼女の足元には魔法陣が浮かび上がり、シーマが両手をジークに向けて前に出すと光が集まり火の玉を作り上げて行く。
「ま、待ってくださいって、何をするんですか!?」
「安心してください。1撃で仕留めさせていただきます」
「フォ、フォトンさん、助けてください!?」
目の前に形作られて行く火の玉にジークの顔は引きつるが、シーマの表情は喜色に満ちている。
彼女の表情にこのままでは殺されると思ったジークはフォトンに助けを求めるが、アーカスは視線でフォトンに何をしないように言っており、フォトンは困ったように笑う。