第909話
「まったくです。それで2人そろって何か用ですか?」
「アーカスさんとは別件だよ。俺の方はそろそろ、あっちの方が決着付きそうなんで教えておいた方が良いかなと思ってさ」
「……フィーナをのしてどうするんだよ」
シーマは凍り付いて動かないフィーナを見てため息を吐く。
カインはヴィータが元に戻りそうだから戻って欲しいと言うが、フィーナをこのままにしておくわけにもいかないと肩を落とす。
「持って帰るよ。ジークが」
「いや、俺はまだ仕事があるし、レイン、任せた」
「は、はあ。カイン、転移魔法で帰れるんですよね?」
カインはジークに丸投げしようとするが、ジークはやりかけの仕事がある事フィーナが目を覚ますと面倒だと考えたため、レインに押し付けようとしたようで彼の肩を叩いた。
押し付けられたレインは困ったように笑うが彼女を運んで戻るより、転移魔法の方が楽だと考えたようでカインに転移魔法は使えるかと聞く。
「残念ながら、この状態だと人を連れては移動できないんだよね。と言う事で、ジーク」
「ああ、レインなら、おかしな事はしないから良いか。これを使ってくれ。後、フィーナの治療はヴィータさんがきっと喜んでやってくれるな」
「そうですね。動けないならやりたい放題でしょうし……それより、私はこれを使った事ないですけど」
カインに名前を呼ばれ、ジークは懐から転移の魔導機器をレインに渡す。
レインは受け取っては見たもののどうして良いのかわからずに首を捻る。
「大丈夫。大丈夫。俺が何とかするから、レインはフィーナを任せるよ」
「はい。わかりました」
「それじゃあ、ジーク、こっちは任せるよ」
カインの使い魔はレインの肩に移動し、レインは凍り付いたフィーナを抱き上げる。
転移の魔導機器は淡い光を放ち、カインの言葉とともに3人は光に溶けてしまう。
言いたい事だけを言っていなくなってしまったカインの様子にジークは大きく肩を落とし、シーマは眉間にしわを寄せた。
「……あいつ、言いたい事だけ言っていなくなるよな」
「そうですね……それで、アーカスさんは何かご用ですか?」
「私は魔導銃を持ってきただけだ。ただ、いくつか教える事もあるからな」
シーマは早く仕事を済ませてしまいたいようでアーカスにも用件を聞く。
アーカスは魔導銃の修理を終えただけだと言うとジークは魔導銃が前と違う事に気が付いたようで首を捻った。
「……これ、何だ?」
「先日、あの性悪から火竜の瞳と言う珍しい物を貰ったからな」
「火竜の瞳」
アーカスは火竜の瞳の手に入れた事で魔導銃を改造したと言う。
火竜の瞳と聞いてシーマの顔は歪み、ジークは彼女の表情の変化に苦笑いを浮かべる。
「火竜の瞳で改造したって炎でも出るんですか? 前に俺が魔法を放てる必要はないって言いませんでしたか?」
「誰が炎を放つと言った?」
「だって、火竜の瞳って火の精霊を暴走させるような力があるんだろ。それなら、そうなるんじゃないのか?」
ジークは魔導銃の銃口を覗き込み、どのように改造されたのかと聞く。
アーカスは彼の言葉に詰まらないと言いたいのかため息を吐くがジークは火竜の瞳と言う特殊な物の利用方法がわからないようで首を捻る。
「……小僧、せっかく、これだけの物があるんだ。炎を放つようなつまらないもので終わらせると思うか?」
「……シーマさん、フォトンさん、どうしよう。もの凄く使うのが不安になってきた」
「そう思うなら使わなければ良いのではないですか」
アーカスが口元を緩ませるとジークはイヤな予感しかしないようで眉間にしわを寄せた。
シーマは被害に遭いたくないと言いたいのかジークに書斎から出て行けと手を払い、ジークはフォトンに助けを求めるがフォトンは苦笑いを浮かべながら首を横に振る。
「アーカスさん、聞きますけど……安全なんですよね? 自爆とかしませんよね?」
「残念ながら、自爆はしない。何度も同じ効果のある魔導機器を作っても面白くないからな」
「……自爆ってした事があるんですか?」
ジークは警戒しながら、アーカスに新しい魔導銃の効果を聞く。
彼の脳裏には風の力を宿した魔導機器に自爆の魔法が込められていた事がよぎっているようである。
アーカスはため息を吐き、自爆を否定するとフォトンの顔は引きつった。
「自爆には夢が詰まっている」
「詰まっていませんからね」
「……ジーク、悪いんですが出て行ってくれますか?」
アーカスは迷う事無く、言い切り、ジークは大きく肩を落とす。
シーマはここで自爆されたらたまったものではないと言いたいのか、今度は出て行けと言う。
「何度も言わせるな。自爆はしない」
「それなら、何があるんですか?」
「ただ、この場で試すには手狭だな。外に行くぞ。お前達もだ」
アーカスは何度も言わせるなと言うと3人に向かって付いて来いと言い、1人で書斎を出て行ってしまう。
ジークは話を聞かないアーカスの様子に困ったように笑い、シーマとフォトンを見るがシーマはついて行く気などないと言いたいのか首を横に振る。
「あ、安全と言っていますし」
「それなら、速く済ませてきてください。」
「シーマさん、来ないと俺の経験上、もっと面倒な事になりますよ。保証します」
フォトンはジークの視線に断り切れなかったようでシーマにもアーカスを追いかけようと声をかける。
しかし、シーマは行く気などないと言いたいようで速く行けと手を払うがジークは眉間にしわを寄せて付いてきた方が良いと言う。
「……」
「そんな目で見てもダメです。だいたい、シーマさんだって、アーカスさんがどれだけ面倒かもう理解していますよね?」
「……理解しているから行きたくないのです。まったく、面倒ですね。どうして、あなた達に関わるとこうなんですか」
シーマはジークにどうにかしろと目線で訴えるがジークは首を横に振る。
彼の言葉にシーマは眉間にしわを寄せるが、アーカスの性格を考えると付いて行かないわけにはいかないと思ったようでゆっくりと立ち上がった。
その表情は不満げであるが諦めたようで1人で書斎を出て行ってしまい、その様子にジークとフォトンは顔を合わせて苦笑いを浮かべると彼女の後を追いかける。