第903話
「話しはだいたいわかりました。信用できる人の紹介なんですよね」
「信用できると思うぞ……リックさんは」
「そうね。信用できるわね……リックさんは」
ジークはヴィータと出会った経緯を説明する。
もちろん、彼女の変態性を隠した上であり、フィアナはジークの方がカインより信用できると思っているようで話を聞きながら頷き、聞き返す。
ジークとフィーナは彼女の質問に頷くがヴィータは信用できないようでフィアナに聞こえないようにつぶやく。
「あ、あの、カインさん、ヴィータさんの性癖を話さなくて良いんですか?」
「ノエル、良いかい。エクシード家がシュミット様側についてくれないと戦争が起きる可能性が高い。そうなると多くの人の命が失われるんだよ。それにシュミット様は俺達と同じ目的を持っているんだ。ノエルの目的のためにもフィアナには協力して貰わないと」
「そ、それはそうなんですけど」
フィアナがジーク達に丸め込まれている様子にノエルは良心が痛んだようでカインの服を引っ張った。
意見を求めた相手は悪く、カインは真剣な表情で多くの命を守るためにフィアナに協力して貰うべきだと言う。
ノエルが真剣な表情で言うためか頷くのだが、やはり、どこか腑に落ちないようで首を捻っている。
「とりあえず、納得して貰えたかな?」
「そうですね。カインさんは信用できないですけど、ジークさん達は信用できます。ジークさんやフィーナさんが私をだますわけありません」
「……信用できないと言い切られると流石に傷つくね」
首を捻っているノエルを横目にカインはフィアナへと視線を向けた。
フィアナはカインへと疑いの視線を向けたままだが、ジークの話に特におかしな事は見つからなかったようで大きく頷く。
カインは信頼が得られていない事に大きく肩を落とすが別に非難する気もないようである。
「……ジーク、どうしよう。少し胸が痛むわ」
「奇遇だな。俺もだ……だけど、カインがノエルに言っていた事もわかるだろ」
「それはそうね。ヴィータさんの変態性がばれた時はその件については知らなかったで、通せば良いわね」
フィアナが自分達の事を信じてくれている事にフィーナは悪い気がしたようで共犯者であるジークの服を引っ張った。
ジークも同じ事を考えているようだがカインがノエルを丸め込んでいた言葉が聞こえていたようでフィアナにはエクシード家に潜入して貰いたいと言う。
フィーナも自分に被害がある可能性があるため、知らないふりで済ませようと頷く。
「そうだね。俺の事は信じて貰えないようだから、フィアナが少しやる気になる情報を教えてあげよう」
「やる気になる方法ですか?」
「そう。リック先生とエクシード家のご令嬢のヴィータさんだけどフィアナの好きそうな噂があるんだよね」
カインはフィアナが信じてくれない事は一先ず、放置しようと考えたようで口元を緩ませながら彼女に声をかける。
フィアナはカインの様子に首を傾げながら聞き返すとカインはノエルが怪しんでいた噂話を彼女に吹き込んだ。
噂自体はヴィータの様子から噂は噂でしかないとカイン達は思っているのだが、カインはフィアナの恋愛への興味をあおるように言う。
その言葉にフィアナの目は輝き始め、彼女の表情の変化にカインの口角は上がる。
彼の顔を見て、セスは眉間にしわを寄せるものの、フィアナをエクシード家に送り込む利点が多大のため、口を挟む事はない。
「……こうやって、カインは信頼を失って行くんだろうな」
「そ、そうですね」
「失敬な。嘘は言っていないよ。俺は噂を伝えただけだから」
ジークはだまされているフィアナの様子に眉間にしわを寄せるとカインへと視線を向けた。
レインは苦笑いを浮かべて頷くとカインは悪びれる事無く、噂を伝えただけだと笑う。
その様子にジークはまだ何かする気だと感じたようでため息を吐くと止めても無駄だとも考えているようで目で好きにやれと促す。
「後ね。リック先生とルッケルの領主様であるアズさんは従兄妹同士なんだけど……ここの関係も怪しいんだよね」
「そ、それはリック先生と言う方を奪い合う三角関係と言う事ですか? そ、それは気になります。エクシード家のご令嬢は浮いた噂もないと聞いていましたし、遠方の地に想い人がいたと言う事でしょうか? それを近くで見られるチャンスが」
「……なんか、おかしな方向に火が点いているけど止めた方が良くないか?」
ジークの目の合図でカインは口元を緩ませたまま、新しい噂を作り上げる。
その噂にフィアナの目の輝きは強くなって行き、ジークはカインに許可を出してしまった事を後悔したようで肩を落とした。
「そうですね。でも、噂は噂ですから、それにすでにフィアナの気持ちは決まってしまったようですよ」
「そうですかね? ……そうですね。少し様子を見ていましょうか」
「私、頑張ります。エクシード家に潜入して必ず、その現場を押さえます」
ジークの様子にミレットはくすくすと笑うとフィアナを指差して様子を見てみろと言う。
彼女の言葉にジークは首を捻るものの、フィアナへと視線を戻すと彼女の中ではおかしな覚悟が決まっており、拳を握り締めている。
その様子に頭痛がしてきたのか頭を押さえるジークだが、カインは成功だと言いたいのか楽しそうに笑っており、彼の表情がさらに不安を大きくして行く。
「……俺は今、少し前の自分の行動を後悔している」
「ジークさん、わたしもです」
「今更、考えても仕方ないでしょう。それに本当に止める気なら今からでも遅くないですよ」
ジークとノエルはカインに丸め込まれてしまった事を後悔したようで肩を落とす。
2人の様子にセスは後悔しているなら、フィアナに真実を話して引き止めてみろと言うが、いろいろと考える事があるようで踏ん切りがつかずに躊躇している。
「ノエルさん、期待していてくださいね。絶対にロマンチックな話を手に入れてきます」
「そ、そうですか。が、頑張ってください」
「……完全に目的から外れているわね」
そんな2人の心境など知らないフィアナは恋愛話好きのノエルの手を取って言う。
ノエルは戸惑っているのだが彼女の勢いに頷く事しかできない。
フィーナは暴走気味のフィアナの様子にため息を吐くとクーにせっつかれて彼の口元にお茶菓子を運び、クーは嬉しそうにお茶菓子を頬張る。




