第902話
「落ち着きましたか?」
「す、すいません。取り乱しました」
「こ、これもどうぞ」
突然のフィアナの来訪だったが彼女を落ち着かせなければ話し合いにもならないとソファーに座らせると彼女の前に紅茶を置く。
フィアナは紅茶を飲んで一息ついたようで迷惑をかけたと頭を下げるとこれからヴィータの被害者になるであろう彼女を気づかうようにノエルはお茶菓子を差し出す。
「最初に言っておくけど、今回、俺は悪くないよ。フィアナをヴィータさんの元に送ろうって言ったのはシュミット様だし」
「そ、そう言って、私をだますつもりですね。カインさんはいつもそうです」
「……俺は、そんなにフィアナをだましている記憶はないんだけど」
差し出されたお茶菓子にフィアナは目を輝かせるとその姿にカインは苦笑いを浮かべながら、今回は自分の責任ではない事を話した。
フィアナは頬を膨らませながらだまされないとテーブルを叩くが、カインは言いがかりだと言いたいのか眉間にしわを寄せる。
「お前が人をだますのは無自覚だって事じゃないのか?」
「いや、実際問題、フィアナにはそんなに仕事を渡してないし、ワームの仕事の人選は俺じゃなくてシュミット様が決めるわけだし」
「それはそうなんですけど……カインさんがシュミット様に何かを吹き込んでいる可能性もありますし」
ジークもカインに向かい寝言だと言うとカインはフィアナに依頼を出しているのは自分ではないと言う。
彼の言葉にはフィアナも納得する部分もあるようだが、それでもカインの事だから裏で何かあると決めつけているようでテーブルを叩く。
「可能性で疑わないで欲しい」
「日頃の行いのせいでしょ」
「そうですね」
カインは肩を落とすとフィーナは自業自得だとため息を吐いた。
セスもカインには考えがあるとは理解しているのだが、それでも自業自得の部分はあると考えているようで眉間にしわを寄せて頷く。
「酷いね。それに今回、フィアナを選んだのはさっきも言った通り、シュミット様だからね」
「そうだとしても、い、いきなり、エクシード家の中に潜入しろって言うのはおかしいですよ」
「……あれ、ひょっとして、フィアナ、ヴィータさんが変態だって知らない?」
2人から責められてカインはもう1度、シュミットに文句を言えと言う。
フィアナはまだヴィータの人間性は聞かされていないのか、自分1人で敵側の可能性があるエクシード家への潜入は無理だと主張する。
彼女の様子でフィーナはその事に気が付いたようでジークの服を引っ張った。
「……そうみたいだな」
「教えなくて良いの?」
「教えるとフィアナはエクシード家に行くのを嫌がるだろ」
ジークも同じ事に気が付いたようで眉間にしわを寄せるとフィーナはフィアナに聞こえないように聞く。
少しでも彼女が反対する理由を排除したいと考えたジークは秘密にしておいた方が良いと考えたようで小さくため息を吐いた。
「でも……危なくない?」
「危ないかも知れないけど、シュミット様が選んだんだ。考えもあるんだろ……それに下手な事を言うとお前も一緒に送り込まれるぞ」
「……フィアナには頑張って貰わないと困るわね」
フィーナはフィアナの身の安全を危惧しており、フィアナを擁護した方が良いのではないかと首を傾げる。
ジークはフィアナが来る前にカインから話を聞いているため、シュミットにも考えがあるのではないかと言うとここでフィアナが猛反対する事で新しい犠牲が増えるのではないかと言う。
その言葉でフィーナは状況を理解したようでフィアナを見捨てた。
「それにヴィータさんは使用人にも優しいようだし、もしかしたら、エクシード家のメイドだ。冒険者より、安定した収入が見込めるよ。村にも仕送りはしないといけないし、シュミット様へのお礼だってできるよ」
「シュミット様も参考にとエクシード家の使用人のお給金の金額を教えてくれました。確かに新米冒険者の不安定なものに比べれば魅力的なんですけど……メイドになるかは置いておいて、シュミット様にはお世話になっていますし、村の事を考えると確かに好条件なんです。それは私もわかります」
「どうして、そこまで疑うかな? それなら、何を疑っているんだよ」
カインはヴィータが使用人に優しいと強調して言うが、変態的な部分は隠している。
ある程度の労働条件はシュミットの推測でフィアナに教えており、フィアナは良い仕事だとは思っているようだが何か裏があると考えており、カインへと疑いの視線を向けた。
カインは疑われる理由がわからないと言いたいようで肩を落とすと疑念を晴らすと言いたいのか聞きたい事を話すように言う。
「まずは今まで、面識がなかったシュミット様とエクシード家のご令嬢が知り合った理由を」
「シュミット様から聞いていないの?」
「聞いていません。ただ、カインさんからの紹介だと聞いています」
フィアナは今まで距離を取っていたエクシード家との距離が近づいた事に疑問を持っているようでそこにカインが関わっているのではと疑問を持っている。
カインはシュミットが状況説明をしているのではと首を捻るがフィアナは本当に話を来ていないようで首を横に振った。
彼女の言葉を聞くとシュミットが面倒な事は全てカインに丸投げした事は理解でき、カインは小さく肩を落とすとジークへと視線を向けるとにっこりと笑う。
「ジークのせいかな?」
「ジークさんですか? いったい、どう言う事、何ですか? 教えてください」
「俺のせいにするなよ……俺達の知り合いの医者とエクシード家の令嬢って言うヴィータさんが知り合いだったんだよ」
彼の笑顔にジークはイヤな予感がしたようで眉間にしわを寄せる。
カインは彼の反応を楽しんだ後、フィアナに向かい原因はジークにあると言う。
フィアナは首を1度、傾げた後にジークへと視線を向けると一気に距離を縮めてまくし立てるように聞く。
この状況にジークは疲れたと言いたげに肩を落とすとヴィータと自分達の縁が繋がった話を説明し始める。




