第900話
「……フィアナもとんだ災難だな」
「ジーク達に関わらなければこんな事にならなかったのにね」
「俺のせいかよ」
ワームから戻ったカインはジーク達にシュミットと相談した事を話す。
完全に巻き込まれた形のフィアナに同情するようにジークは言うとカインはジークの責任だと責任のありかを擦り付け、ジークは不満そうに口を尖らせた。
「えーと、フィアナさんが私達と仲良くするようになったのはソーマなさんが原因だったような」
「そうですね。ソーマさんがフィリム先生に関わり合いたくないからと言ってルッケルの遺跡探索を押し付けたのが原因だったような」
「……フィアナ、恨むならソーマを恨め」
ノエルとレインはフィアナとの出会いを思い出しながら原因はソーマにあるのではないかと言う。
2人の言葉で彼女との出会いを思いだしたジークは遠くを見つめて、これからヴィータに振り回されるであろうフィアナを応援するがその言葉は彼女に届く事はない。
「それで2人は何を見ているの?」
「ヴィータさんが持ってきてくれた植物の説明が書かれているんですけどこんなものをあるんですねって感心していたところです」
「ただ、出所がな」
カインは苦笑いを浮かべつつもジークとミレットがテーブルの上に広げている物を覗き込む。
広げられていた物はジークがヴィータから貰った種子の育成方法や利用法であり、ミレットも知らない物であったようで感心したように頷いた。
ジークは苦笑いを浮かべているが1つ気になる物があるようで首筋をかくとカインは何があったかわからずに首を捻る。
「……元々、爺さんがエクシード家を引き入れるためにガートランド商会を使って手に入れた物らしい。レギアス様の強いところは薬草や医療って言ったところだからな。ヴィータさんは医者だし、これだけの物がエクシード家から出てくればレギアス様の力を削ぐ事にもなるからな」
「ホント、あんな奴らがかかわったものなんて使いにくいわね」
「そうなんだよ。フォルムの土地でも育つって言う貴重なものなんだけどな。これが育てばフォルムでも安定した収入が期待できそうだ」
ジークは言い難そうにギムレットが策を弄したところから出てきたと言う事を話す。
フィーナは種の1つを手に取って顔をしかめる。
彼女の表情は捨ててしまえと言いたいようにも見え、ジークは頷きつつもフィーナから種を取り戻そうと手を伸ばした。
「そんなプライドいる? ジークやフィーナのプライドより、フォルムの人達の事が優先」
「……わかってはいるよ。育てられればかなり使えるんだ。それにガートランド商会が手にしているなら、あいつらが売りさばく前に安くて品質の良い物を作れば、あいつらにも一泡吹かせられるだろ?」
「ジーク、悪い顔しているよ」
ジークの手がフィーナから種を取り戻そうとした時、カインの手が伸びて種をかすめ取る。
カインは種を覗きながら、優先すべき事は何かと聞くとジークも言いたい事は理解できているようで気まずそうに頭をかいているが、他にも考えているようで口元がゆっくりと上がり始めた。
その表情はカインと同様にジークが悪巧みをしている表情であり、カインはため息を吐いて指摘すると彼はすぐに表情を戻す。
「とりあえず、この栽培方法を広めないとな……また、仕事が増えたな」
「なんで、せっかく、ヴィータさんがくれた資料があるんだから、これを渡して育てて貰えば良いじゃない」
「それなんだけど……言い難いんだけどな」
ジークは悪巧みなどしていないと言いたいようで種を育ててくれる方法を領民に教えないといけないと考えたようで大きく肩を落とした。
フィーナは資料を手に取るとこれと種を渡してしまえば解決だと言うがジークは何かあるのか彼女から目をそらして頭をかく。
「何よ?」
「フォルムの人達って、文字の読み書きできない人が結構いる」
「は? そんなくだらない冗談はいらないわよ……本気なの?」
フィーナは首を傾げるとジークは言い難そうにフォルムの領民の現状を説明する。
彼の言葉はフィーナには冗談にしか聞こえないようで眉間にしわを寄せるが、カインとセスはバツが悪いのか目を泳がせた。
「必要ないからね。子供達には必要になるからって言って勉強して貰ってはいるけど、俺達の親同世代、それより上はあまり必要としていないから」
「商売をしていた方達やシーマさんのお父様の仕事を手伝ってくれていた方は問題ないですが、全員と言うのは難しいですね」
「……どうして、私をからかおうとするの? それもセスさんまで」
カインとセスは現状の説明をするが、フィーナは自分をからかっているようにしか思えないようで頬を膨らませる。
「からかっていませんよ。それにフォルムの場合は元々、他の文字を使っていた人達が多いので人族の文字を今更覚えようとしないのも原因ですけど」
「……ラミア族だから?」
「そう言う事です」
フォルムは元々、ラミア族が多かった土地であり、ラミア族にはラミア族の文字があった。
人族と交わりながらも土地を離れなかった者達の多くはその文字を使っており、ジーク達が使っている文字は広がって行かないとレインが補足をする。
レインが補足してくれた事でフィーナは納得したようであり、レインは彼女の様子に苦笑いを浮かべた。
「それに実際、必要としなければ文字の読み書きはできない人は多いよ。ばあちゃんがいたから、ジオスの人間は小さい頃から叩きこまれているけどね」
「フィーナができるようになっているんだからな。今更だけど、ばあちゃん、大変だっただろうな」
「そうだね。ばあちゃんの苦労を考えると申し訳ないよね」
カインはフィーナが当たり前に考えている文字の読み書きはアリアが努力してくれた結果である事を話すとジークは落ち着きのない彼女が文字の読み書きができるまで根気よく教えた祖母の姿を思い浮かべて苦笑いを浮かべる。
彼の意見にカインは全面的に賛成のようで大きく頷くが2人の言葉にフィーナは不機嫌になって行っているようで頬は再び、膨らんで行き、ノエルは彼女を眺めようと声をかける。