第9話
「シルドさん、注文の品を持ってきました」
「お。ずいぶんと早かったな」
「……これ、置いておきます」
ジークはシルドの経営している冒険者の店兼宿屋『赤い月亭』を訪れるとカウンターで料理の下準備をしていたシルドと数名の冒険者達は何かあるのかジークを見てニヤニヤと笑っており、ジークはシルドの表情にすでにこの店は敵陣だと言う事を理解したようでカウンターテーブルに持ってきた商品を置くと逃げるように店を出ようとするが、
「まぁ、ゆっくりして行けよ。お茶くらいは奢るからさ。何なら、お茶菓子も付けるから」
「い、いや、俺は遺跡の奥に行ってくるんで、あまり遅くなると……」
「愛しの美少女が心配すると」
(……逃げられそうにもないよな)
しかし、シルドがジークの首をつかみ、シルドの様子にジークは自分の考えが確信に変わったようで時間がないと言って逃げ出そうとするのだが店のなかに陣取っている冒険者達はカウンター近くに集まり、ジークを逃がさないように距離を詰めた組みと出入り口を固めている組みの2つに分かれてジークの逃げ道を塞いでおり、ジークは自分が不利だと理解し、顔を引きつらせると、
「そう身構えるなよ。別に獲って食おうってわけじゃないんだ」
「……確実に食い物にしている目ですよ」
「そりゃあな。あれだけフィーナのアタックから逃げていると思ったら、いつの間にか通い妻だぞ。詳しく聞く必要があるだろ?」
「……違いますからね」
シルドのところにも先ほどのお年寄り達に見られたノエルの様子が伝わっているようでシルドは楽しそうな表情で言うとジークは諦めたようでカウンター席に座り、ジークの前にはシルドからお茶が出され、出入り口を固めていた冒険者達もジークの話を聞くためにカウンターそばの席まで移動し、ジークは完全に玩具にされる事が理解出来るため、大きなため息を吐く。
「なら、何なんだ?」
「何か、うちの住所不定無職に話したい事があるみたいなんですけど」
「お前の両親に? ここに居たって無駄だろ。俺だって赤ん坊のお前をこの村に連れて帰って来た時から1度も帰ってきたって聞いてないし、見た事もないぞ」
「そうなんですよ。それも話したんですけど、住所不定無職ですからね。居る場所もわからないし、うちで待っていた方がまだ会えるかもしれないと言い始めて」
「そうやって引きとめて、自分のものにするつもりか? ……ジーク、お前はそんな風に頭を使う人間だったんだな。お兄さんはお前を見そこなったぞ」
「いや、男とはそう言うものだ。ジークの成長に乾杯だ!!」
「……違いますからね。成り行きですから、それで俺も困っているわけですし」
シルドは否定するジークにノエルがドレイクと言う事を伏せながら自分の両親に会いにきたと言うがシルドもジークの両親には会った記憶が曖昧なようで首を傾げるとジークはノエルとのやり取りを思い出してきたようで深いため息を吐くがシルドや冒険者達はより話を面白い方向に持って行きたいようでジークの策略だと言い始めるとジークはこれ以上は付き合えきれないと言いたげに立ち上がり、
「シルドさん、商品、お願いします。俺はもう行きますんで」
「あぁ、わかっているけどな……ジーク」
「何ですか? これ以上、おかしな事は聞きませんよ」
「まぁ、そう言うな。うちの村は若い人間が少ないんだ……村のためにも逃がすなよ。それにお前の反応を見ると満更でもなさそうだしな」
「……だから、違うって言ってますよね」
店に戻ろうとするとシルドは真面目な表情をしてジークを呼び止めるがやはり、ジークをからかう事でしかなくジークは力なく笑うと店を出て行く。