第897話
「……ふむ。次期国王殿はなかなか面白い事を考える」
「そう言って貰えるとありがたいですね」
「……問題がありすぎる割にカイン=クローク、ずいぶんと楽しそうだな」
ジークへの種子の育成方法指導は中断され、カインはヴィータに魔族との共存と言う大きな目的について説明した。
ヴィータは興味深そうに耳を傾け、話を聞き終えると楽しそうに笑い、カインは釣られるように笑みを浮かべる。
すぐに表情を引き締めたヴィータはカインの顔を見てため息を吐く。
「まるで俺が難問を解くのを楽しんでいるだけの変態だと言いたげですね。俺はヴィータさんとは違いますよ」
「変わらないだろう。しかし……カイン=クローク、セス=コーラッド、レイン=ファクト、アノス=イオリア、カルディナ=オズフィム、シュミット=グランハイム。次代を担うには充分な才覚を集めた物だ。推測するにまだまだ多くの人間が巻き込まれていそうだな」
「……なんか、おかしな名前が紛れている気がするけど、少なくともおっさんの娘とアノスは違うでしょ」
カインはヴィータのため息が不満だと言いたいのかわざとらしいくらいに大袈裟に肩を落とす。
彼の態度にヴィータはもう1度ため息を吐くと説明の中で出てきたエルト側の人間の名前を挙げ、感心したように言う。
挙げられた名前にフィーナは高い評価が付けられているのが納得できないようで眉間に深いしわを寄せた。
「少なくともフィーナよりは優秀だよ」
「何ですって!!」
「……ケンカをするな。確かに短所もあるけど優秀である事には違いないだろ」
カインはフィーナとは異なり、名前を挙げられた人間を評価しており、フィーナに黙るように言うと彼女は自分の方が優秀だと言いたいのか勢いよく立ち上がるとカインに殴り掛かろうとする。
その様子にジークは大きく肩を落とすとフィーナの腕をつかみ、ソファーに座り直させた。
フィーナは止められた事に納得が行かないようで頬を膨らませるとお茶菓子を乱暴につかみ、口の中に放り込む。
「……面倒だな」
「違いない……しかし、才覚を集めたとしてもそれで多くの領民が納得するとは思えないぞ。次期国王がこのような事を考えているとなるとそれに反した意見を上げて力ずくで王子を排除しようとする者も出てくる。現にワームでは何かを企んでいる者もいるからな」
「えーと、なんかすいません」
ふて腐れているフィーナの姿にジークは眉間にしわを寄せて本音をつぶやくとヴィータの耳にはしっかりと届いていたようで苦笑いを浮かべる。
ヴィータは一先ずはフィーナを無視していても良いと考えているようで魔族との共存については秘密裏に動き、領民の多くが賛成できる形に持って行かなければならないと言う。
それはワームの地でおかしな事を画策しているギムレットの事を見ているせいであり、身内のジークは申し訳ない気持ちになったようで視線をそらす。
「ジーク=フィリス、なぜ、謝る?」
「色々とあるんです。気にしないでください」
「話しちゃえば良いのに、どうせ、そのうち、ばれるんだから」
謝罪の理由がわからずに首を捻るヴィータ。
ジークは深い追及は必要ないと言うとフィーナは先ほどの反撃なのかお茶菓子を頬張って話してしまえば良いと言う。
「何だ。まだ、隠している事があるのか?」
「悪いのはジークだよ。ただ、エクシード家は現在、シュミット様と強欲爺の間で美味い汁をすすっているわけだしね」
「その情報はエクシード家にとって味方を決めるのに有力な情報だと言う事か」
ヴィータは興味深いと言いたげに小さく頷くとジークはカインに視線で助けを求める。
カインは小さくため息を吐くとジークに任せると言うが、彼の言葉にはワームの主導権争いにどっち付かずでいるエクシード家を非難するように言う。
その言葉はヴィータにはジークがエクシード家にとって重要な情報を持っていると考えたようで彼へと視線を移す。
彼女の視線にジークは居心地が悪いようでバツが悪そうに頭をかくと今度はセスに助けを求める。
セスはジークの助けに首を横に振り、ジークの眉間に深いしわが寄った。
「えーと、俺、レギアス様の甥っこみたいです」
「……それはまた面白い冗談だな」
「俺も最初に聞いた時はそう思いました」
ジークはしばらく考えると観念したようで苦笑いを浮かべてレギアスとの関係を話す。
ヴィータはくだらない冗談に付き合う気はないと言いたいのかため息を吐くとジークは大きく肩を落とした。
「エルア家の後継者まで抱え込んだか……エルト様は噂とは違っているようだな」
「いや、俺は継ぐ気はありませんから、ミレットさんもいるし。それに俺はジオスにゆっくりと年寄を診察しながら生きて行くから」
「ミレット……ミレット=ザンツか。本当にここは天国だな」
レギアスが養女であるミレットにエルア家を継がせる事はまだ公になっておらず、ヴィータはエルトへの評価を上げる。
ジークはエルア家の後継者になどなる気はないと言うとジークの未来への展望より、ミレットの名前の方が気になったようで目を輝かせた。
「……俺、結構、頑張ったのに」
「ジ、ジークさんは悪くないです」
「とりあえず、何だろうね。しっかりとした血脈より、ミレットさんで釣れそうだね」
ヴィータの様子にジークは眉間に深いしわを寄せるとノエルは彼を励まそうと声をかける。
2人の様子にカインは苦笑いを浮かべながらもヴィータを通してエクシード家を味方に引き入れる方法を見つけたようで口元を緩ませた。
「……またおかしな方法を考えているわね」
「もう諦めなさい。しかし……人の道に外れない作戦にしてくださいね」
「もちろんだよ」
カインの表情にフィーナはイヤな予感しかしないようでお茶菓子に伸ばしていた手を止めて言う。
セスはカインの悪巧み止める方法などないと考えているようで大きく肩を落とした後、あまりおかしな方法は取るなと詰め寄る。
カインは笑顔で頷くがその笑顔に悪い予感しかしないようで書斎にいたカインとヴィータ以外の眉間には深いしわが寄った。