第896話
「しかし、カイン=クローク、セス=コーラッドか。2人が魔族と関係していると言う事はエルト=グランハイムは国家転覆でも考えているのか?」
「イヤですね。フォルムはたまたま、ラミア族が住んでいただけですよ」
「そう言う事にしておこうか」
ヴィータはカインとセスの顔を交互に見た後、2人の裏にエルトがいると言う。
その言葉にカインはとぼけた表情をするが、ヴィータの中では結論が決まったようで小さくため息を吐いた。
カインがとぼけている様子にジークとセスは眉間にしわを寄せており、ヴィータはそれを見て楽しそうに笑う。
「確かに目的は何だろうが、魔族とよろしくやっている事は周りに知られると面倒だ」
「そうなりますね」
「……全部、ばれてそうなんだけど。そして、また、おかしな事を考えているようにしか見えないんだけど」
ヴィータはカインの心情を理解してくれているようで何度か小さく頷くとカインは口元を緩ませる。
その姿は悪巧みをしているようにしか見えず、フィーナは眉間にしわを寄せて2人を指差す。
「そうだろうな」
「……それがこの男でしょう」
「酷い言われようだね」
ジークは同感だと言いたいようで頭をかくとシーマは忌々しそうに舌打ちをする。
カインは言いがかりだと言いたいのか大袈裟に肩を落とすとヴィータは楽しそうに笑う。
「それではここから先は内緒話のようだが、その前にジーク=フィリスくんの指定した種や苗は私が責任を持ってそろえよう。まずはこれだけ渡して置こう」
「ありがとうございます……」
「持ってきていたんですね」
ヴィータはこの場で聞く話は他言無用だと理解しているようであり、代金代わりだと言いたいのか懐からジークが頼んでいた植物の種を取り出す。
ジークが手を出すと彼の手の上にヴィータは種を乗せ、ノエルとフィーナはジークの手の上の種を覗き込む。
2人が顔を避けるとジークは種の品質を確認しようと思ったようで種を手に取ると頼んだものとは違う物が入っていたようで首を捻る。
「種くらいなら運んでくれるからな。苗は少し待ってくれ」
「あ、あの。頼んでない物も入っているみたいなんですけど」
「ふむ。気が付いたか。知識は充分にあるようだな。流石はアリア=フィリスの血と知を受け継ぐ者だ」
ヴィータは依頼されていた物、全てに対応できなかった事を謝罪するとジークはテーブルの上にいくつかの種を並べて行く。
ジークが識別した種をノエルやフィーナは覗き込むが違いがまったく分からないようで首を傾げているがヴィータは感心したと言いたいのか手を叩いて見せる。
しかし、彼女の態度はジークにはバカにされているようにも聞こえたようで彼の眉間には深いしわが寄った。
「すまない。バカにしたつもりはないんだが、気分を害してしまったなら謝ろう」
「そうですか……それでこれは何の種ですか? 見た事ないんですけど」
「ちょっとした伝手で手に入れた物なんだが、ワームの土地には不向きだったのでな。フォルムのような土地に向いていると思ったのだが……ただ、私としては希望していた物の方が不適切だと思うのだが」
ヴィータは少しだけ困ったように笑うとジークは見なれない種を手に取る。
種を手に入れた経緯をヴィータは簡単に話すとフォルムで育てるのに適しているのではないかと言った後、ジークの選んできた種や苗の方に疑問が残ると言う。
「ちょっと、土壌改良をしまして」
「土壌改良……人を生き埋めにしたか。流石は噂に聞くカイン=クロークだ」
「……その答えにどうして行きついたか教えて貰っても良いですか? それと俺についてどんな噂が流れているんですか?」
カインは本題から離れて行ったジークとヴィータの様子に苦笑いを浮かべると彼女の疑問に答える。
ヴィータは少し考え込むとカインの顔を見て、土壌改良の方法を思い浮かべたようで手を叩く。
彼女の導き出した答えはカインにとっては納得のいかない物であったようで彼の眉間には深いしわが寄った。
「噂については良い噂から、悪い噂まで様々だ。最近ではセス=コーラッドを手ごめにしてコーラッド家の家名を狙っていると言うのもあったか? それに昔から綺麗な花を咲かせる木の下には人の死体が埋まっていると言うからな。そのような方法を試したのかと思ったんだが」
「そ、そうなんですか?」
「……動物の死体は分解されて植物の栄養になりますからね。間違ってはいないですけど言い方に問題があります。後、セスの事は家名なんて関係ありませんから、ここは強く否定させていただきます」
ヴィータはカインの反応がわからないと言いたいのか不思議そうに首を傾げる。
彼女の言葉にノエルは顔を青くしながら否定して欲しいようで周囲に反対意見を求めるとカインはヴィータに言い方を考えて欲しいとため息を吐きつつもはっきりと否定するところは否定した。
彼の言葉にセスは顔を赤くしながら大きく頷くとヴィータは彼女の顔を見て小さく口角を上げる。
「ふむ。それはすまない」
「フォルムでも育ちそうな植物か。そう言うのはありがたいな。それでこれはどうやって育てれば良いんだ」
「……あのさ。そっちで盛り上がるのは良いんだけど本題はどうしたら良いかな?」
セスに謝罪の態度を見せたヴィータにジークは種に興味を持ったようで色々と聞こうとする。
2人は植物談義に入ってしまいそうであり、カインは苦笑いを浮かべながら2人に声をかけた。
「後回し?」
「……ジークがここで話を聞くよりはミレットさんやテッド先生にも同席して貰った方が良いのではないですか」
「確かにジークだけだと覚えきれるかは不安ね」
ジークは本題を忘れていた事に気が付き、伐が悪そうに笑うが種の方が気になるようでカインから視線をそらす。
彼の態度にシーマがため息を吐くと貴重な種ならジークだけに話を聞かせるのは心もとないと考えたようでミレットとテッドの名前を上げる。
フィーナはその通りだと言いたいのか大きく頷くとジークはフィーナに小バカにされたのは納得が行かないようで眉間に深いしわを寄せた。
新作を投稿しました。
『愚兄が魔王を継ぎました。』と言う以前、短編で登校した物を連載化した物です。
よろしければそちらの方も楽しんでいただければ幸いです。




