第895話
「……止めなくて良いのか?」
「なんか、今のヴィータさんは止めたらいけない気がする」
「そうだな。今のヴィータさんならゼイの斧も交わしそうだ」
ヴィータはゆっくりとゼイの方に向かって歩き出し、ジークは彼女の様子に眉間にしわを寄せる。
カインは苦笑いを浮かべて大丈夫なのではないかと言うとジークもなんとなく、ヴィータならどうにかなると思ってしまったようで大きく頷いた。
「コ、コイツ、ヘン」
「可愛い反応だ」
「……やっぱり止めた方が良くないか?」
近づいてくるヴィータの様子にゼイは完全に威圧されてしまったようで後ずさりを始める。
彼女の反応はヴィータにとってはご褒美だったようでその目の光は色濃く輝き始め、ジークは2人を指差しながら止めないかと聞く。
フィーナは止める必要もないと思ったようでお茶菓子に手を伸ばし、セスとシーマは関わらない方が良いと考えているようでジークから視線をそらした。
その時、ヴィータがゼイに飛びかかり、書斎に中にはゼイの悲鳴が響く。
「これは……また、違う感触。フィーナ=クロークより、筋肉質だな……ほう、これはなかなか」
「……発言が完全に変態だな」
「筋肉質ってバカにされている気がするんだけど」
ゼイの身体を揉みほぐしながら、ヴィータは口元を緩ませている。
その様子にジークは眉間にしわを寄せると彼の腕をつかんでいるノエルはこくこくと頷いた。
フィーナは聞こえてくるヴィータの言葉に不満のようで頬を膨らませるが、自分の二の腕を触り、少し落ち込む。
「落ち込まない。ヴィータさん、そろそろ、ゼイを開放して貰って良いですか?」
「ふむ。仕方ない。私もワームを抜け出してルッケルに来たからな。あまり時間をかけてはいられない」
「……」
カインは彼女の様子に苦笑いを浮かべるとヴィータの腕の中でぐったりとしているゼイを見てため息を吐いた。
ヴィータは少し考えると名残惜しそうにゼイを見た後、しぶしぶ納得したようで彼女を開放する。
ゼイは疲労で膝から崩れ落ちそうになるが、側に控えていたフォトンが手を伸ばし、ゼイを受け止めた。
「フォトン、すまないね」
「いえ」
「それでは話に戻って貰おうか」
カインがフォトンに礼を言うと彼はゼイを抱きかかえ、先ほどまで彼女が座っていたソファーの上に下ろす。
ゼイをソファーに戻したフォトンは元にいた位置に戻り、ヴィータはその姿を見て感心したように頷くとカインに本題に戻るように言う。
「ゼイの筋肉はどう感じましたか?」
「ふむ……極上だった」
「そ、そうですか」
カインは魔法で人族の形になっても触れてみると人族でない事は気づけるため、彼女が人族ではないと気が付けたかと聞く。
しかし、彼女は本当に筋肉にしか興味がなかったようで最高の笑顔で答え、彼女の回答にカインは引き気味に苦笑いを浮かべる。
「……珍しいわね。あいつが疲れているわ」
「話しがかみ合ってないからな。カイン、もう全部話した方が早くないか?」
「そうかも知れないね。ヴィータさん、良いですか?」
カインの様子はフィーナには物珍しく見えたようで眉間に深いしわを寄せた。
ジークは苦笑いを浮かべながら自分のペースに巻き込んでみろと言うとカインは小さく頷き、ヴィータへと視線を向けるが彼女はまだ筋肉の感触を確かめていないノエルをじっと見つめており、ノエルは彼女の視線に恐怖に覚えているようで身体を震わせている。
「……良いですか?」
「ああ」
「結論から言うとフォルムの地にはラミア族と言う魔族の混血が住んでいます。シーマさんもその1人です」
2人の様子にカインは大きく肩を落とすともう1度、ヴィータに聞く。
その声にヴィータは頷くとカインはフォルムの地にはラミア族が住んでいると話し始める。
カインの説明にヴィータがどのような反応をするかわからないため、書斎には沈黙が広がった。
「ラミア族……なるほど、ラミア族は人族に姿を変えて人族に紛れ込んでいる事は多いと聞いた事もある。それに美女が多いと聞くが納得の造形美だ」
「よ、喜んで良いのかわかりませんね」
「……本当にヴィータさんに取っては魔族かどうかより、見た目と筋肉何だな」
ジーク達の心配を余所にシーマがラミア族との混血だと聞いたヴィータは彼女へと視線を向けて納得だと大きく頷く。
その反応からヴィータにとっては種族の違いなど本当に些細な事だと思えたようだが、シーマは人族であるヴィータに簡単に受け入れられた事に戸惑っているようで眉間に深いしわを寄せる。
ジークは心配していた事がバカらしいと言いたいのかを大きく肩を落とすとフィーナは苦笑いを浮かべて頷く。
「何だ。ジーク=フィリス、混血や魔族が診察に来た時に魔族だから、混血だからと言う理由で追い返すつもりか?」
「いや、追い返しませんけど」
「そう言う事だ」
自分の答えに対する周囲の反応に不満だと言いたいのかヴィータはため息を吐くとジークに質問を返す。
ジークはすでに魔族に偏見などないため、即答するとヴィータは満足そうに笑い、その笑顔にジークはやられたと思ったのか頭をかいた。
「しかし……筋肉の感触から考えるとこのゼイと言う娘はラミア族とは違うように見えるが」
「……本当に触っただけでわかるのか」
「わかるんでしょうね」
ヴィータはゼイがラミア族ではないと言うとぐったりとしている彼女の筋肉を再確認しようと口元を緩ませる。
ジークとセスはヴィータの言い分が理解できないようで眉間に深いしわを寄せるとカインは大きく肩を落とす。
「話しが進まないから言いますけど、ゼイは魔法で姿を変えていますがゴブリン族で、ノエルはドレイク族です」
「ドレイク族だと……見るからに運動神経が皆無だが」
「……見ただけでわかるのね」
カインはノエルとゼイの種族を話すとドレイク族と聞き、驚きの表情をするヴィータだがノエルがドレイクだとは信じられないと言う。
その言葉にノエルはショックなようで大きく肩を落とすとフィーナは彼女の反応に苦笑いを浮かべる。