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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
ルッケル騒動
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第89話

「わかってたけど、酷いありさまだな」


「ジ、ジークさん、落ち着いてないで、早く、リックさんのお手伝いを」


「まずは落ち着けリックさんはと……」


ジークとノエルが鉱山の近くの広場に到着するとすでにその場所は毒ガスを吸った者や脱出の際にケガをした者で溢れかえっており、ノエルは慌てて駆け出そうするがジークは彼女を引き止めるとリックの居場所を探す。


「ど、どうして、そんなに落ち着いているんですか!?」


「落ち着かないと大切な事を見逃す。とりあえずは状況の確認。状況次第で俺達は薬草を集めに行かないといけないんだからな。それにこいつを届けるのも仕事のうちだろ」


「ま、待ってください!?」


ジークは持ってきた治療薬をリックに届ける事が第一だと言うとリックを見つけたようで先を急いで歩きだし、ノエルは慌ててジークを追いかける。


「ジーク、来たか」


「待ちました?」


「あぁ。ジーク、これが毒ガスを吸い込んだ人間の症状だ。任せるぞ」


ジークが荷物を降ろすとリックは直ぐに荷物を漁りだし、必要な治療薬を取り出すとメモ用紙に乱暴に診察結果を書きなぐった。


「……これなら、この辺に採れる薬草で治療薬は作れるけど、これ、時間がかかるの知ってますよね? 調合で丸2日かかりますよ」


「何度も言わせるな。無理は承知で言ってるんだ。残ってる薬で症状を抑える事が出来ても患者の体力しだい。危ない人間には投薬量を増やして調整していくしかないだろ。文句を言っているヒマがあったら、急げ」


ジークはメモの内容を確認すると眉間にしわを寄せるが、リックは時間がないようで、2人を追い払うように言う。


「ジーク、ノエル」


「フィーナさん、大丈夫ですか?」


その時、フィーナが息を切らして駆け寄ってくるとノエルは彼女を支える。


「フィーナ、冒険者は集まってるか?」


「一応ね。だけど、どこまで手伝ってくれるかわからないわ。鉱山から毒ガスが出たって事でルックルを出て行こうとしている人達もいるし」


「そ、そんな」


フィーナのもたらした情報はあまり良いものではなく、ノエルの顔には絶望の色が浮かんで行く。


「フィーナ、領主様に馬車を出して貰って、治療薬を取って来い」


「へ? ジーク、あんた、どう言うつもりよ? 金の亡者のあんたがそんな事を言うなんて」


ジークはフィーナに自分の店のカギを渡す。しかし、フィーナは彼の行動が理解できないようで驚きの声をあげる。


「あのな。商売人にとって信頼はもっとも重要視されるところだ。ここで恩を売らずにいつ、恩を売る」


「あ、あの。良い事をしようとしているんですから、もう少し、良い事を言いましょうよ」


「良いんだよ。元々、領主様との契約で明日には薬を引き渡す予定だったんだ。それが1日、早くなっただけだろ。俺とノエルは他にやる事があるから、お前くらいしか、店の中の……良いか。余計なものには触るなよ。シルドさんに状況を説明して必要な治療薬を選んで貰え」


ジークは迷う事なく言い切ると彼の表情にノエルはどんな反応をして良いのかわからないようで苦笑いを浮かべる。ジークはノエルの言葉にまともに答える事なく、フィーナに店を荒らすなと釘を刺した。


「ジーク、あんたはどれだけ、私をバカにするのよ?」


「良いか。売り上げに手を出すなよ。ノエル、行くぞ」


「は、はい。わかりました」


フィーナはジークの言葉に眉間にしわを寄せる。しかし、ジークは気にする事なく、ノエルに声をかけ、彼女は慌てて頷く。


「リックさん、とりあえずは領主様に頼んで、フィーナに薬を取ってきて貰います。一時しのぎだけど何もないよりまし」


「あぁ。助かる。フィーナ、領主はたぶん、鉱山の入り口で毒ガスに対する処置や救助の指示を出してる。遊んでいる時間なんてないんだ。急げ」


「わ、わかったわ」


リックはジークの提案に礼を言うとアズの居場所を教える。フィーナはリックの様子から遊んでいる時間もないと思ったようで頷くと駆け出して行く。


「ノエル、俺達も行くぞ。遊んでいるヒマはないからな」


「は、はい。って、ジークさん、どこに行くんですか!?」


「森の中に行くのにわざわざ、ルッケルから出る必要がないだろ」


ジークはノエルに声をかけると歩き出す。ノエルは彼の進む先が道から外れているため、驚きの声をあげるが、ジークは気にする事はない。


「ま、待ってください。置いて行かないでください!?」


「置いて行く気はないから、少しは落ち着いてくれ。単純にノエルがいた方が積載量も増えるし、魔法で援護がある方が楽だからな」


「あ、ありがとうございます」


ノエルは慌ててジークを追いかけて行くが途中で転びそうになるが、ジークはため息を吐きながらノエルを受け止め、ノエルは彼との距離に顔を赤らめた。


「い、いや。良いから行くぞ」


「は、はい」


ジークはノエルの様子に気恥ずかしくなったようで彼女から視線を逸らすと2人の間には微妙な空気が漂い始める。


「ジーク、ノエル、いちゃついているヒマはないんだ。さっさと行け!!」


そんな2人の様子が目に映ったのか、リックの罵声が響き、2人は慌てて駆け出して行く。


「……まったく、他人の命がかかっている時にあのバカども」


「リック先生、そう言わないでください。ジークもノエルもフィーナも少なくともルックルの事を考えて動いてくれています」


リックは2人の背中を見送り、乱暴に頭をかくとアズがタイミングよく訪れたようで苦笑いを浮かべる。


「……」


「どうかしましたか?」


眉間にしわを寄せるリック。そんな彼の姿にアズは首をかしげる。


「いや、領主、自ら、いつ、毒ガスが漏れ出てくるかもしれない所で陣頭指揮を執るかと思ってな」


「良いじゃないですか。医者になると言って領主の立場を捨てる人間もいるんですから」


リックはアズにもっと安全な場所にいても良いのではないかと言うと、アズは皮肉で返し、その言葉にリックの眉間にはくっきりとしたしわが寄った。


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