第889話
「……酷く疲れたわ」
「そうか。それより、身体の調子はどうなんだ? 効果がありそうか?」
「なんて言ったら良いかわからないけど……不思議と良いわ」
フィーナの治療が終えたようでヴィータは満足そうな笑みを浮かべているが彼女とは対照的にフィーナは疲れたと言いたげに大きく肩を落とす。
ジークはリックから渡された資料を眺めながら、フィーナに身体の調子を聞くとフィーナは軽く身体を動かすと納得が行かないと言いたいのか眉間に深いしわを寄せた。
「それより、いつまでも遊んでいないで本題に入ったらどうだ?」
「本題ですか?」
「次はそっちの娘じゃないのか?」
リックは診察室に大人数が入っていては患者がきた時に邪魔だと言いたいようでヴィータに声をかける。
ノエルは本題と言われて首を傾げるとヴィータはノエルを見て目を輝かせると彼女との距離を縮めて行く。
ヴィータの目の輝きにノエルは身の危険を感じたようでジークの背後に隠れるとジークはため息を吐いて2人の間に立ちふさがる。
「……私の時とはずいぶんと違うわね」
「気にするな。それより、ヴィータさんがルッケルに来てくれたのって、この間の件ですよね?」
「条件がある。その娘の身体も診察させろ」
フィーナは納得いかなさそうに頬を尖らせるとジークは少しだけ気まずそうに視線をそらす。
ヴィータへとジークは視線を向けると彼女がルッケルに来た理由と聞く。
彼の質問にヴィータは真剣な表情をしてノエルの診察をさせるように迫る。
ヴィータの目には怪しい光が灯っており、ノエルは完全に怯えてしまっているようでジークの服をつかみ、顔を青くして身体を震わす。
「……落ち着け」
「何をする!!」
「話しが進まない。後、患者が来たようだからここから出て行け」
このままでは話が進まないと考えたようでリックは眉間い深いしわを寄せるとヴィータの後頭部に拳を振り下ろした。
ヴィータは後頭部を手で押さえてリックを威嚇するが診察室のドアはわずかに開いており、診察室の中の様子をうかがっている目が見える。
その視線に気が付いたリックはジーク達に出て行けと手を払い、ノエルは逃げるようにジークの腕を引っ張って行き、2人の後をフィーナとヴィータが続く。
「で、この間の件で」
「交換条件がある」
「……ノエル以外で疲労のたまっている若い女性ではダメでしょうか?」
待合室に移動したジークはヴィータに本題に移ろうともう1度言う。
しかし、ヴィータは譲る気はないようであり、すぐに拒否するとジークは少し考えて他の生贄を用意する事を考え付く。
「ほう……言っておくがルッケルの若き女領主ではダメだぞ。あの身体はすでに味わっている」
「……この言葉を聞くと変態にしか思えないわね」
「そ、そうですね」
ジークの提案にヴィータは口元を緩ませるものの、ジークが言う患者をアズだと思ったようで彼女では満足しないと言う。
彼女の言葉にフィーナは眉間に深いしわを寄せるとノエルはヴィータと距離を取りながら大きく頷いた。
「アズさんとも知り合いだったか。情報収集はしっかりとやっておくべきだったか……まあ、アズさんじゃないですよ」
「そうか……ただ、話を聞くのは若い女性の身体を揉みほぐした後だ!!」
「どうしよう。俺は関わってはいけない人間に関わった気しかしない……とりあえず、フォルムに戻るか?」
アズも生贄の有力候補だったようでジークは失敗したと言いたいのか小さく舌打ちをするが、すぐに他の有力候補を建てようと決めたようで問題ないと口元を緩ませる。
ヴィータは少しの間、考え込むとすぐには返事ができないと言うと拳を握り締めて叫ぶ。
彼女の様子にジークは眉間に深いしわを寄せるが、ノエルもフィーナも彼と同じ考えのため、何も言う事はできない。
2人の様子にジークは困ったように指で鼻先をかくと転移の魔導機器を取り出す。
「……状況は理解したよ」
「そう言う事でセスさんかシーマさん、他にも研究でくたくたになっている研究員、女性限定を貸してくれ」
「そう……」
転移の魔導機器でルッケルに戻ったジーク達はカインの書斎に訪れるとヴィータについて簡単な説明をする。
ヴィータは男には興味がないのかルッケルの領主であるカインに小さく頭を下げるとジークの言う生贄にしか興味がないようで手をわきわきと動かしながら楽しそうに口元を緩ませている。
カインはヴィータの様子に苦笑いを浮かべるとジークはカインに生贄を要求した。
その要求にカインは困ったように眉間にしわを寄せると難しい表情で考え込み始める。
「フィーナ、どんな感じ?」
「……不思議な事に良いわ。今なら、あんたの顔もぶん殴れそうよ」
「やってみる? 当然、返り討ちにするけどね」
カインはヴィータの診察を受けたフィーナに効果のほどを聞く。
フィーナはにやりと口元を緩ませると自分で確かめてみてはどうかと答える。
それはフィーナの身体が絶好調の証であり、彼女は明らかにカインにケンカを売っているように見えた。
その言葉にカインは薄ら笑いを浮かべると書斎の体感温度は一気に下がって行く。
「こ、今回は許してあげるわ」
「そう……とりあえずはシーマかな? 女性と言え、セスの身体に触れさせるのは抵抗がある。都合が良い事にシーマはヴィータの噂を知らないし」
「……それに関して言えば、同感だ」
背中を伝う冷たい物にフィーナは声を震わせながら強がりを言う。
彼女の様子にカインは小さく肩を落とすと生贄をシーマにしようと頷く。
その言葉の中にはヴィータの表情や行動への不安があり、大切なセスを任せるのは踏ん切りがつかないようである。
カインの不安はジークにもわかるところがあるようで同調するように頷いた。
「それじゃあ、シーマのところに行こうか?」
「そうだな」
「速く案内しろ」
カインはジークの顔を見て苦笑いを浮かべるとシーマのところに行こうと言って立ち上がる。
ノエルは不安げな表情だが、ジークは彼女を促すように肩を叩くとヴィータは我慢の限界が来たようでジークとカインを促す。