第883話
「とりあえず、俺とミレットさんがワームに行かない方が良い事はわかった……その上でどうするつもりだ?」
「どうしようか?」
「……お前、何も考えてないのにこの資料を俺とミレットさんに見せたわけじゃないよな?」
魔導機器を使って土地を豊かにしたものの、育てる物が無くては意味がなく、ジークはカインに考えを聞く。
しかし、カインは困ったと言いたげに頭をかいており、そんな彼の様子にジークは眉間にしわを寄せる。
「それなら、王都はどうでしょうか? 王都ならジークさんやミレットさんの選んだ植物の種や苗も見つかるんじゃないでしょうか?」
「王都か……」
「王都ではダメなんですか? さまざまな物が集まりますよ」
ノエルは王都の方が危険も少ないと思ったようで手を上げるが、ジーク乗り気にはなれないようで頭をかく。
彼の様子に王都出身のセスは何かバカにされたような気がしたようで不機嫌そうな表情をする。
「別にバカにしているつもりはないですよ。ただ、俺達、王都に薬草系の苗や種を売ってくれる知り合いはいませんし。器用な物もあるから王都の値段設定だと……正直、何も買える気がしない」
「……王都はフォルムやジオスに比べると物価が高いからね。予算的に厳しいかもね」
「それに品質を考えると王都で選ぶより、やっぱり、ワームなんだよ。レギアス様達が昔から薬草作りに力を入れてくれているから、王都で探すより良い物が手に入るし、絶対に安い」
セスの表情にジークは苦笑いを浮かべると王都で買い物をするには人脈が不足していると言う。
カインもジークの考えている事は理解しているようで彼を擁護するとジークはレギアス達が長い間をかけて作ってきた物への信頼があると話す。
その言葉にミレットは大きく頷くとセスはジークの言い分は理解できる物の2人を行かせるわけにはいかないため、どうするべきかと首を捻る。
「……やっぱり、誰かが代わりに行くのが安全なのですが、そう言うわけにはいきませんよね?」
「正直、目的の品種は買って来られると思うけど、良し悪しの判断は難しいと思うよ。フィーナじゃないけど、種の見分けなんて俺もわからない」
「そうでしょ。私だけじゃないわよ。だから、ミレットさん、さっきの話は……なんでもありません」
セスは誰か他の人に行って貰おうと考えるが、適任者は見つからないようでカインが首を横に振った。
実際、セスもジークの言い分はわかっているようで眉間にしわを寄せており、フィーナは自分の考えが正しかったと主張しようとするがミレットに睨まれてしまい、小さくなる。
「カルディナ様とアノスも来ている事だし、レギアス様に伝言でも頼むか?」
「……あまり賛成はできないね。強欲爺に見張られているだろうし、レギアス様に直接的に動いて貰うとその辺の物の値段が吊り上げられる気がする」
「ガートランド商会がいるからいろいろと面倒な事になっているんだよな……フォルムにはない物もあるから、テッド先生は判断できるかわからないし、誰か詳しい人はいないか」
ジークは直接、ワームに行けないのならレギアスに頼んでそろえて貰おうと考えるがカインはワームの物価はガートランド商会が牛耳り始めている事もあり、難しいと首を横に振った。
彼の言葉にジークはどうして良いのかわからないようで乱暴に頭をかくと自分やミレットの代わりになる人間がいないかと首を捻る。
「……もう面倒だから、さっさと行ってきなさいよ」
「お前、元も子もないな」
「だって、危ないと思ったら転移魔法で逃げ帰ってきたら良いんでしょ。考えているより、ずっと楽じゃない。見つからないようにするなら変装でもすれば良いんでしょ」
ジーク達が真剣に方法を考えているなか、フィーナは面倒になったようで捕まる前に用だけ済ませて帰って来いと言う。
その言葉にジークはため息を吐くが、フィーナはこれからあるであろうミレットとの勉強会に嫌気がさしている事もあり、テーブルの上に突っ伏す。
「変装か……」
「何かイヤな予感がするから、イヤだ」
「……お前はまた何を感じ取った?」
変装と聞き、カインは何か考え付いたようで口元をわずかに緩ませる。
その時、ジークのあまり役に立たない危険察知能力は発動したようで首を大きく横振り、アノスは彼の様子に大きく肩を落とした。
「わからないけど……酷く嫌な予感がする。何か尊厳とか大切な物を失いそうな」
「大丈夫だよ。女装とかしか考えてないから」
「……それは興味がありますね」
ジークは眉間にしわを寄せるとカインは笑顔で彼の肩に手を置き、女装と言うおかしな事を言い放つ。
その言葉にミレットはすごく興味が引かれたようで笑顔を見せるがジークは絶対に拒否したいようで大きく首を横に振った。
「バカな事を言うな!!」
「変装に女装は基本だろ」
「基本ですね」
ジークは逃げ出そうとするがすでにカインだけではなく、ミレットにも肩をつかまれており、逃げ出す事はできない。
カインは笑顔で逃げ場はないと言うとミレットはどこからともなく化粧品を取り出して楽しそうに笑っており、ジークの危機にノエルはオロオロとしている。
「……バカな事を言っていないで話を戻しなさい」
「セス、何を言っているんだい。俺とミレットは本気だよ」
「はい……ジークは身長がありますけど細いですから、スカートでも行けますよね。服を縫わないといけませんね」
3人の様子にセスは大きく肩を落とすがカインとミレットは止める気がないようであり、ミレットは女装用のジークの服まで作る気である。
「……ミレットさん、落ち着いてください。服まで作っている時間はありませんから」
「思っていた以上にミレットがやる気で俺は困惑している」
「そう思うならおかしな事を言うな」
ミレットの反応にセスは眉間に深いしわを寄せるとカインは冗談で言っていたようで彼女の反応にどうして良いのか反応に困ったのか大きく肩を落とす。
カインから解放された事でジークはミレットから距離を開けると余計な事を言ったカインを睨み付けるがカインは知らないと言いたげに笑う。




