第882話
「……あなた達はどうしてそうなんですか?」
「これって、怒られていますよね?」
「ですね」
ミレットにカルディナの面倒を任せてジークはノエルとフィーナとともに紅茶をすすっているとしばらくしてアノスを連れてカインとセスが屋敷に戻ってくる。
魔導機器で豊かになった土地で育てるものについてミレットと相談した結果、2人で苗や種を見にワームに行こうと言う話をジークが3人にするとセスは眉間に深いしわを寄せてしまう。
セスの様子にジークは彼女が怒っている事は理解できたようだが、何に怒っているかまでは理解できていないようでミレットに聞き、彼女は苦笑いを浮かべた。
「……ジーク、ミレットさん、あなた達は自分達の立場をまったく理解していないのですね」
「自分達の立場って……何かあるか?」
「ジークは自称薬屋店主でしょ」
2人の様子にセスは大きく肩を落とし、自分達の立場を考えるように言う。
ジークはセスが言う立場と言うものにまったく心当たりがないようで首を捻り、フィーナに聞く。
彼女は紅茶をすすりながら興味なさそうに答える。
「自称じゃない。正真正銘、薬屋だ」
「……薬屋と言うより、毒薬使いの方が適切だろう」
「何度も言わせるな。あれは毒薬じゃなくて栄養剤だ」
フィーナの言葉はジークにとっては我慢ならない物であり、彼女を睨み付けるがアノスは彼の栄養剤を毒薬扱いしているため、ため息を吐いた。
その言葉にジークは声を上げるが、彼の栄養剤の破壊力を知っている周囲からの反応は冷たい。
「まあ、ジークの栄養剤が毒薬に近いと言う事は今回の件には別問題だから、一先ず置いておこうか」
「……そうですね」
「納得がいかない」
カインはこの中で唯一、ジークの栄養剤を常飲しているためか1つ咳をした後に話を戻そうとする。
その言葉にセスは小さく頷くがジークは相変わらず、自分の栄養剤が毒薬扱いされている事に納得が行かないようで眉間にしわを寄せてつぶやいた。
「それで、どうして私とジークがワームに行ってはいけないんですか?」
「2人は狙われる可能性が高いからね。もう1度、自分の立場を考えてみなよ」
「立場……やっぱり、毒薬使いじゃないの?」
ジークの表情の変化にミレットは苦笑いを浮かべると改めて、なぜ、自分達がワームに行く事を制限されているか聞く。
カインは苦笑いを浮かべて、もう1度、良く考えるように言うとフィーナはアノスがジークを毒薬使いと言った事には納得できているようで大きく頷いた。
「だから、毒薬なんて作ってない」
「……話が進まない」
「あ、あの、ジークさんとミレットさんがレギアス様と関係があるからですか?」
ジークは毒薬使いと言われて眉間には深いしわが寄っており、膝にクーが乗っていなければフィーナにつかみかかる勢いである。
彼の様子にカインが大きく肩を落とすとカイン達が心配している理由に察しがついたのかノエルが遠慮がちに手を上げた。
「レギアス様と?」
「は、はい。ジークさんはレギアス様の甥ですし、ミレットさんは養女になるんですよね? それなら、今はシュミット様とジークさんのお爺様が敵対しているようなところに行くのは危険なんじゃないでしょうか?」
「そう言う事だね」
レギアスの名前にジークは首を傾げるとノエルは自信なさげにギムレットが何かしてくるのではないかと言う。
カインは彼女の言葉を肯定するように大きく頷くとジークとミレットへと視線を向ける。
「危険なの?」
「危険だね。強欲爺はジークを手駒にしたいと考えているから、捕縛されて監禁かな? ミレットに至っては邪魔者扱いだから、ちょっとした騒ぎでも起こしてその間に殺される可能性だってあるね。レギアス様の事だから、ミレットをフォルムに連れてきた時にもうミレットの安全について考えていたかもね」
「それは危ないわね。ジークは割とどうなっても良いけど、ミレットさんが殺されるのは問題があるわ。絶対にワームに行かせたらダメね」
フィーナは2人が危険と聞くがカインの言う事を信用していない事もあり、セスへと視線を向けた。
彼女の視線にセスは小さく頷くとカインはフィーナの様子に苦笑いを浮かべつつ、考えられる最悪の状況を話す。
ミレットが殺される可能性もあると聞き、フィーナは真剣な表情になると彼女がワームに行く事に反対するがジークの身の安全に関しては割とどうでも良さそうである。
「……おい」
「ジ、ジークさんも危ないんですから、何か他の方法を考えましょう」
「だけど、俺かミレットさんがいかないとしたら、誰かが代わりに行ってくれるのか? フィーナ、お前が代わりに行くか?」
ジークは眉間にしわを寄せるとノエルはジークの事も心配だと言う。
ノエルの言葉でジークは少しだけ冷静になったようで他にジークとミレットの考えた物を買ってこられるかと聞く。
「無理ね。種なんてどれも同じ粒にしか見えないわ」
「つ、粒ですか……フィーナにはもう少しいろいろと教えないといけませんね」
「な、なんで?」
ジークに指名されてフィーナは即座に拒否する。
彼女の言葉にミレットは眉間にしわを寄せるとフィーナには教育の必要があるとため息を吐いた。
フィーナミレットに礼儀や料理などいろいろと教わった事もあり、その中で恐怖も感じているようで顔を引きつらせる。
「まぁ、種によってできてくる作物の出来も変わってくるからね。それは料理に連なる物だし、ミレット、任せるよ」
「はい。任されました。フィーナさん、これから、覚悟していてくださいね」
「……なんで、こうなるのよ」
カインはフィーナに薬草や作物の知識を覚えさせるのは間違った事ではないと思っているため、苦笑いを浮かべながらミレットにフィーナを押し付けた。
ミレットはどこかやる気になっているようですぐに笑顔で返事をするがフィーナは面倒な事になったため、大きく肩を落とす。
彼女に降りかかった不幸にジークは先ほどまでフィーナに良いように言われていた事もあり、彼女の不幸が面白いようで口元を緩ませた。