第880話
「あれね……アーカスさんが全面協力している姿って珍しいを通り越して不気味よね?」
「言いたい事はわかるけど、協力して貰っているんだから、おかしな事を言うな……カインがいるな。行くぞ」
「何よ。ジークだってそう思っているんでしょ」
魔導機器で儀式を行った3日後、ジークとフィーナは土地の成分分析をしている研究者達に差し入れを運んでくる。
研究にはアーカスも参加しており、珍しく協力的なアーカスの姿は昔から彼を知っている2人には物珍しく、フィーナはアーカスを指差して失礼な事を言う。
ジークは苦笑いを浮かべるとフィーナに忠告をした後に話しかけられそうな人間を探す。
彼の視線の先には研究者と話し込んでいるカインの姿が見え、フィーナに声をかけるとカインの下に向かって歩き出す。
ジークの態度にフィーナは不満げだが、用事を早く済ませてだらだらしたいようで文句を垂れながら彼の後に続く。
「カイン、ミレットさんから頼まれて差し入れを持ってきたんだけど、どうしたら良い?」
「ジーク、フィーナ、ありがとう。手が空いた人から食べさせて貰うよ。そして、良いところに来たね。ちょっと頼みたい事があるんだけど」
「フィーナ、帰るか。他にもやる事があるし」
二人がカインのそばまで行くとタイミング良く、カインと研究者の話は終わった。
差し入れで運んできた荷物を見せながらジークはカインに声をかけると彼は柔和な笑みを浮かべるが、その笑顔に厄介ごとに巻き込まれると思ったジークはすぐに振り返り、撤退の準備を始める。
カインの笑顔にイヤな予感がしたのはフィーナも同様であり、振り返り逃げ出そうとしているがカインは笑顔のまま2人の肩をつかんだ。
「別におかしな事を頼むわけじゃないよ。すぐに終わるからさ」
「……その言葉が信用できると思うか?」
「あんたの今までの行いってやつを考えなさいよ。と言うか、頼み事があるなら、その手を放しなさいよ!!」
2人を逃がす気のないカインは手に力を込めてぎりぎりと2人の肩を締付ける。
その攻撃は地味に効いているようでジークとフィーナの顔は歪んで行くがここで折れてしまっては面倒事を押し付けられるのは避けられないため、2人は頑なに首を横に振っており、カインはため息を吐くと2人の肩から手を放す。
「別におかしな事を言う気はないよ。俺やセスよりはジークやミレットの方が専門だからね。ちょっと見て貰いたいものがあるんだよ」
「俺が専門? 薬関係か?」
「それなら、私は関係ないわね」
カインはついて来いと言いたいようで研究室の入り口へ向かって歩き出す。
彼の言葉にジークは首を捻るがすぐに薬に関係ある事だと察しがつき、彼の後を追いかけるがフィーナは自分には関係ない事だと判断したようで2人の背中を見送ろうとする。
「小娘、良いところにいるな」
「アーカスさん、悪いわね。私はまだやる事があるから」
「……逃げたか。まぁ、良い。別に今である必要はないからな」
その時、アーカスがフィーナの姿を見つけたようで彼女に声をかけるとフィーナはおかしな実験台にされる気がしたようで逃げるようにジークとカインの後を追う。
彼女の背中にアーカスは舌打ちをするものの、今は研究の方に興味があるようですぐに研究に戻って行く。
「フィーナが来た……偽者?」
「言いたい事はわかるけど、さっさと済ませろ」
「……バカにしているの?」
書斎に移動するとカインは2人にソファーに腰を下ろすように言った後、机の上にある資料を取りに向かう。
資料を確認するとソファーに腰を下ろしてふて腐れたような表情をしているフィーナを指差し、からかうように言い、その言葉にフィーナの頬は膨らむ。
2人の様子にジークは大きく肩を落とすと本題に移るように言うが、彼の言葉もまたフィーナにはケンカを売られているように聞こえたようで彼女はジークを睨み付けた。
「別にバカにしていない。勝手に勘違いしてケンカを売るな」
「そう……」
「それじゃあ、フィーナが飽きる前に本題に移ろうかな?」
ジークは彼女の視線に大きく肩を落とすがその言葉はフィーナを小バカにしており、フィーナはいまいち、納得ができていないようで首を捻っている。
彼女の様子にカインは苦笑いを浮かべるものの、フィーナが小バカにされた事に気づく前に本題に移ろうと考えたようでソファーの中央にあるテーブルに資料を置く。
資料はかなりの量であり、フィーナは眉間にしわを寄せるがジークは本題と言われた事もあるため、興味があるようで資料を手に取った。
「……何が書いてあるか。まったくわからないんだけど」
「フィーナは少しこう言う事も学んだ方が良いね。自称でも冒険者なんだから、薬草類の知識は必須だと思うけど」
「そう言うのはジークに任せるから問題ないわ」
資料を見ている間にジークの表情は真剣な物に変わっており、フィーナは資料を手に取るとぺらぺらと資料をめくる。
しかし、彼女の頭には理解できるような物ではなかったようですぐに資料を投げ出してしまう。
彼女の様子にカインはため息を吐くと冒険者には必要な技能だと言うが、フィーナは清々しいくらいの笑顔でジークに押し付けると言い切った。
「……ジークは冒険者になるつもりはないって言っているんだから、そろそろ諦めたら」
「諦めるって言うより、ジークに商才は無いんだから、他で稼がないと店を潰すでしょ。そう言う時に協力させるから問題ないわ。だいたい、あんただってそれがわかっているから、ジークをこき使っているんでしょ?」
「別にそう言うわけでも無いけどね……まぁ、ジークに商才が無いのは事実だから仕方ないね」
カインは彼女の言葉にフィーナもジーク離れするべきだと言う。
フィーナにはフィーナの考えがあるようで昔のようにただジークを冒険者にしたいと言うよりは彼のこの先の事を心配しているようである。
ジークに商才が無いのはカインも認めている事であり、力なく笑うと仕方ないと考えたようで大きく肩を落とした。




