第870話
「……本当に必要なのか?」
カインとアーカスに儀式の簡単な説明を受けたジークはカインに手渡された前領主が集めた首飾りを身に付け、指定された場所へと向かう。
首に付けられた飾りをつかみ、ジークは先ほど、カインが口にしていた言葉を思い出す。
「良いかい。ジーク、レイン、フォトン」
「何だよ? まだ、何かあるのかよ」
儀式の簡単な説明が終わり、それぞれが指定した場所に移動しようとするとカインが3人を引き止める。
精霊達が活発に動くと言う時間が近づいてきたため、ジークは怪訝そうな表情をして聞く。
「これを持って行って欲しいんだよ。後は誰かに何かを聞かれたら、魔導機器は10個で初めて発動する事ができるってね」
「……意味がわからないんだけど」
「先ほどのシーマさんのお母さんの形見を守るために必要な事なんでは無いでしょうか?」
カインは懐から首飾りやブレスレットと言ったアクセサリを取り出すと3人に1つずつ渡す。
ジークは受け取った首飾りを眺めて首を傾げるとレインは先ほどアーカスがばらしてしまったカインの気づかいを思い出して苦笑いを浮かべた。
レインの言葉にジークは納得したのか頷くものの、そこまでやる必要があるのかわからないようで首を捻る。
「そこまで必要なのか?」
「フォルムはザガードとの国境に近いからね。リュミナ様の件も正式発表はまだだけど、少しずつ話が漏れて行っているザガードの王族なら知っていて、ハイムに密偵を紛れさせていてもおかしくはないよ」
「だとしても……テッド先生やお年寄りは魔導機器の事を思い出す可能性が高いんだよな?」
ジークはそこまで徹底しないといけない事なのかと聞き返すとカインはザガードからの密偵の事を心配しているようで必要な事だと釘を刺す。
カインが心配している事は簡単にばれてしまいそうであり、ジークは眉間にしわを寄せるがカインは心配ないと言いたいのか口元を緩ませている。
「……お前、何かまた企んでいるのか?」
「企んでいないよ。ただ、テッド先生とシーマさんに甘い人達にいくつか頼み事をしてあるだけだよ」
「それを企んでいるって言うんだよ……とりあえず、俺達はこれを持っていればいいんだろ」
彼の笑顔にジークは眉間にしわを寄せるがカインは口元を緩ませたままである。
ジークは大きく肩を落とすと首飾りを身に付けて指定された場所に行こうと歩き出す。
「本当に何を考えているのかわからないな」
「ジークくん、大変な事になっていますね」
「そうですね……まあ、魔法関係で難しい事を言われても困るんですけど、それに魔導機器が10個に分かれているなんて思ってもいませんでしたよ」
首飾りを手にもう1度、ジークが肩を落とした時、まるでタイミングを見計らったかのようにテッドがジークに声をかけた。
このタイミングにテッドが現れた事とカインの笑みにジークは力なく笑うが、彼なりに対応しようと思ったのか、不自然にならないようにテッドに首飾りを見せる。
「そうかも知れませんね。ジークくんは魔法での治癒は不得意ですからね」
「……精霊の声が聞こえるのにどうして、俺は精霊魔法も使えないんですかね?」
「そこはわかりませんね。私もあまり魔法が得意なわけではありませんからよくわかりませんが、この先もできないと言う確証はありませんし、努力する事も大切ですよ」
テッドは頷くと首飾りを覗き込む。
その仕草はいつも人が良さそうではあるが何年も多くの人間を見守ってきた人間の厚みがあり、不自然な様子はない。
ジークを良く知っていると言う部分を強調したいのかテッドはジークが魔法は不得意だと言う事を強調する。
それはあくまでも土地を豊かにするのに必要なのは10個の魔導機器と人数である事を強調する物なのではあるがジークは気づいているのかわからないが魔法での治療も少しは出来るようになりたいと小さくため息を吐いた。
彼の様子にテッドは彼の向上心の表れとして理解したようで頑張りなさいとジークの肩を叩く。
「それは知っていますけど……正直、才能ってのを見せられすぎているから、落ち込みそうなんですけど、魔法はノエルやカイン、セスさん、アーカスさん、シーマさん、頭の悪さは置いておいてフィーナは剣の才能あるんだろうし、レインやアノスは剣や槍、ミレットさんには薬学の知識、フォトンさんは魔法を使った戦闘術……俺、全部、中途半端ですからね」
「……中途半端と言ってはいますけど、それでも充分な才能を持っていると思いますけどね」
努力はするけど周囲に才能ある人間が多すぎるから、心が折れそうだとジークは大きく肩を落とす。
テッドから見ればジークも充分に才能のある人間であり、テッドはため息を吐くが誉めて調子に乗っても困ると思ったようで苦笑いを浮かべる。
「とりあえず、時間に遅れるとカインとアーカスさんに何を言われるかわからないのでそろそろ行きますけど」
「そうですね。私もジークくんの活躍を見させて貰いましょうか」
「俺の活躍って、俺は儀式の1つのコマでしかないですよ。俺より、シーマさん達の方を見てきた方が楽しいんじゃないですか?」
ジークは落ち込んでいても仕方ないと思ったようで情けない考えを振り払おうと首を大きく横に振ると目的地の方向を指差す。
テッドもジークの時間がない事を知っているためか、小さく頷くと彼に並び歩き出そうとするがジークは面白い事などないと思っているようで儀式の中央にいるであろうシーマを見に行ってはどうかと提案する。
「それも気にはなりますけどね。あまり人混みは得意ではないですのでジークくんの場所にいた方が良く見えそうですから」
「そうですか?」
「儀式を行うのであれば、魔法陣が描かれるのを邪魔しないでしょう。カイン様もそのように指示を出しているでしょうし」
彼の提案にテッドはカインの事だから問題は解決されていると言う。
ジークは先日のバカ騒ぎの件もあるため、信用しきれないようで頭をかくがテッド本人が良いと言っている事もあり、それ以上は何も言わずに2人で並んで歩き出す。