第861話
「……カイン、始めてくれ」
「疲れているね。ミレットがノエルを引き取ってくれて良かったね」
「本当だよ……ミレットさんには頭が上がらないな」
夕飯を終えると後片付けをするとミレットが買ってでてくれ、話し合いの事を考えると火が点いたままのノエルを引っ張って行ってくれた。
夕飯の間、ジークはノエルから恋愛話をずっと聞かされていたのか、疲れたとテーブルに突っ伏し、その様子にカインは苦笑いを浮かべる。
あまり、遊んでいられない事もあり、ジークは姿勢を正すとキッチンの方へ1度、視線を向けて頭をかいた。
「それなら、良い紅茶を持ってきたら?」
「そうだな……いや、それをすると栽培段階から口を挟まれて、常に良い葉っぱを育てないと行けなくなりそうだからダメだ」
「ミレットさんの紅茶にかける情熱は……ノエルに重なる物がありますね」
カインはジークがジオスの店に紅茶の良い葉を隠しているのを知っているため、からかうように笑う。
ジークは日頃のお礼も兼ねて、カインの提案に頷きかけるがすぐに考え直したようで首を横に振る。
セスは時折見せるミレットの情熱にノエルが恋愛話の時に見せる情熱が重なったようで眉間にしわを寄せた。
「……私はいつまで付き合えば良いんですか?」
「悪かったね。ジーク、始めるよ。カルディナ様とアノスもワームに帰らないといけないし、あまり遅くなると……ラース様が鬱陶しそうだ」
「きっと、もう使用人さん達が大変な事になっているぞ」
シーマは付き合っていられないと言うが、無駄な時間と言うよりは母親の形見がどのような物か気になるようであり、カインを急かす。
彼女の様子にカインは苦笑いを浮かべると他にも気にしないといけない事があるため、話をそらしたジークに声をかけた。
ジークはワームに帰る事よりもクーを抱きしめるために隙をうかがっているカルディナの姿を見て、ため息を吐くが彼女はジーク達の心配事などどうでも良さそうである。
「それじゃあ、始めようか。これは一般的に魔吸石と言われる鉱石なんだけど、簡単に言えばこの宝石は魔力や精霊力をため込む事ができるんだよ」
「言って良いのかわからないけど……凄い物かどうかがわからない」
「うーんとね。魔力が空のこの状況でも物好きに売ればワームの財政で計算すると1年分で売れるかな? フォルムだと……これを売るだけで数年、みんな働かないでも生きていけるかな」
カインは魔法の知識が乏しい者がいるため、簡単な説明を始めるがジークはセスが固まるほどの物か理解できなかったようで首を捻った。
彼の様子に金銭的な価値で説明し方がわかりやすいと思ったようで追加説明をするとジークはどれほど貴重な物か理解したようで顔を引きつらせる。
「……なんで、前の領主はこれを売らなかったんだよ。売ればこの状況をどうにかできただろ?」
「そうだね。まあ、価値を理解していなかったか、それ以外に価値を見出したかだね」
「……」
顔を引きつらせたまま、ジークは素朴な疑問を口にするとカインはシーマへと視線を向けてくすりと笑う。
その視線にシーマは不機嫌そうな表情をしており、彼女の反応にカインはつまらないと言いたいのかわざとらしく口元を尖らせた。
「……カイン、シーマさんをからかうのもそれくらいにした方が」
「はいはい。悪かったよ。売らなかった理由はわからないよ。かなり貴重な物だから買ってくれる人間も価値がわからなかったから、良い値がつかなった可能性もあるし、修理すれば土地を豊かにできると思って保管していたのかも知れない。それに関して言えば、シーマのお父さんに直接、話が聞けないからわからないよ」
「そうだな……それで今は魔力がない状態なんだよな? どうやれば魔力をため込めるんだ?」
レインはシーマの表情に彼女を怒らせるのも良くないと思ったようでカインをいさめるように言う。
カインは悪かったと言いたいのか、簡単な謝罪をすると魔吸石がフォルムに残っていた理由を推測するがそれは考えても無駄な事であり、苦笑いを浮かべる。
ジークはシーマの手に戻った魔吸石を指差しながら魔力をためる方法を聞く。
「そのため込む方法がわかれば苦労しないんだけどね」
「……何もわかってないのかよ?」
「カイン、遊んでないで続けなさい」
彼の質問にカインはため息を吐きながら首を横に振った。
その様子にジークは意味がないと言いたいのか残念そうに大きく肩を落とすとセスは冷たい視線をカインへと向ける。
「その辺は俺より、アーカスさんの方が詳しいんじゃないかな?」
「そうなんですか?」
「多少はな。ただ……人族や魔族の魔力などたかが知れている。やるなら、他の場所を探さなければいけないな」
カインはアーカスへと視線を向けるとフォトンはアーカスに事実かと聞く。
アーカスは小さく頷くものの、魔力を込める場所としてはフォルムでは不適切だと首を横に振った。
「フォルムの土地は土や木の精霊達の力が弱いからね。ここでやっても魔力はあまりたまらないよね」
「どこなら良いんですか?」
「精霊達が多く住む地だな」
カインは言葉が足りないアーカスの言葉を補足するように言うとフォトンは首を捻る。
アーカスは簡潔に答えるが、ジークもフォトンもどのような土地が良いかまったくわからないため、補足説明が欲しいとカインへと視線を向けた。
「説明が難しいんだよね。自然に精霊達が集まる場所があるんだよ。俺もいくつか知っているけど、精霊達の力が強すぎて俺の魔力じゃ干渉できないから、転移魔法を使えないんだよね」
「……その様子だとかなり距離があるんだよな?」
「近くまでは送る事ができるけどね。道もないし、歩きで進まないといけないんだけど、片道だけでかなりの時間がかかる。それに、後は人選かな? 精霊達と心を通わせて協力を仰げる人間。その点に関して言えば、ジークもノエルもいるから、問題ないんだけど」
説明するのは難しいようでカインは困ったように笑う。
転移魔法が使えないと聞き、ジークは眉間にしわを寄せた。
カインは場所を教える事はできるが、距離の事を考えれば彼が同行する事は難しいようで眉間にしわを寄せる。
彼の言葉はジークに判断するように問いており、ジークはカインが同行できないと言う状況にどうするべきかすぐには判断ができないようで眉間のしわを深くして考え込む。