第859話
「……疲れました」
「お、お疲れ様です。シーマ様」
「どの口で言いますか?」
夕飯の準備が終わり、食事が始まるとシーマは何とかノエルから解放される。
満足げなノエルとは逆にシーマの顔には疲れの色が色濃く表れており、フォトンは苦笑いを浮かべるとシーマは裏切り者と言いたいのか彼を睨みつけた。
「睨まない。それにノエルはシーマの想い人の娘なんだから、味方にしておくと有利だよ」
「……そのような口車には乗りませんわ」
「それは残念」
フォトンは助けを求めるような視線を向け、カインは苦笑いを浮かべながら彼女の想い人の事を話す。
シーマは不機嫌そうに言うとフォトンを睨み付けていた視線をカインへと移した。
その視線をカインは気にする事無く、食事に手を伸ばし、夕飯を頬張る。
「それで、2人は結局、魔導機器を動かせたのか? ……無理だったのかよ」
「そうみたいだね」
シーマの一方的な敵意の視線を見て、ジークはため息を吐くとフィーナとアノスに魔導機器の発動ができたかと聞く。
2人は彼の言葉に答える事無く、食事を競うようにかき込んでおり、食事を終えると音を立てて食器をテーブルに置くと競うように居間を出て行ってしまう。
その姿にジークは大きく肩を落とすがカインは楽しそうに笑っている。
「……お前は何がやりたいんだよ?」
「別に、2人とも好戦的だから、競い合わせた方が早く結果が出るかと思ってね」
「殴り合いのケンカとかにならなければ良いな」
カインの様子にジークは眉間にしわを寄せると彼は彼なりの考えがあるようで必要な事だと笑う。
納得はできる部分はあるようだが2人の性格を考えると危険な気がするようでジークの眉間のしわはさらに深くなって行く。
「その時はその時かな? それでアーカスさん魔導機器は直りそうですか?」
「動力にする魔石が見つかればな」
「冷気の魔石ではダメなんですか?」
カインも少しは心配しているようで頭をかくと誤魔化すようにアーカスに話を振る。
アーカスは魔導機器を修理するなど容易いと言いたいのようだが、問題があるようで眉間にしわを寄せた。
先ほど、冷気の魔石が魔導機器の中で青い光を上げていたため、レインは不思議そうに首を捻る。
「発動するには最低限、同系統の魔石や精霊石が必要なんです。今回の場合は……」
「土だな。残念ながら私には手持ちの魔石も精霊石もない」
「有っても土地に活力を与えるような大きな魔力がこもっている物がないとダメだけどね」
セスは魔導機器の修理が終わっても使用する事ができないと言いたいのか首を横に振った。
魔導機器が修理できると聞き、期待していたジーク達の表情が曇り始めるがアーカスは彼らの気持ちなど気にする事無く淡々とした様子で言う。
その様子にカインは苦笑いを浮かべると使えそうな魔石の類を探すのは難しいと首を横に振る。
「……無駄な事をしたって事かよ」
「無駄とは言わないけどね。この魔導機器に見合うだけの物が手に入れば一気に改善できるよ」
「そうとも言えないがな」
ジークは時間を割いたのに何も得られなかったと肩を落とすとカインは気落ちしないようにと笑う。
その言葉でジークは考え直そうと思ったのか頭をかくがアーカスはカインの言葉を否定するようにつぶやく。
彼のつぶやきに収まりそうだった場の空気は再び、微妙なものに変わり、カインは苦笑いを浮かべる。
「どういう事でしょうか?」
「……魔力で土地を豊かにしてもそれは一時的な物にしか過ぎないと言う事だ」
「確かにそうなんですけど、どうしてここで話を折るかな」
フォトンは予想していなかった言葉が出た事に身を乗り出して聞く。
彼の様子にアーカスは微動だにする事無く、淡々とした口調で答えるとカイン自身もアーカスの考えていた事は気が付いていたのか大きく肩を落とした。
「おい。どういう事だ? 本当に無駄な事をさせていたのか?」
「そう言うわけじゃないよ」
「それなら、説明しろ」
「……黙りなさい」
彼の態度にジークはイスから立ち上がり、声を上げるとカインは苦笑いを浮かべる。
その様子にジークは苛立ちを隠せないようで声を荒げるとクーに相手にされない不満がたまっているのかカルディナがジークを睨み付けて黙るように言う。
「何だよ?」
「そこのハーフエルフが説明したじゃないですか。魔力で土地を豊かにしたとしてもそれは一次的な物ですわ。魔力が尽きてしまえばそれで終わりですわ」
「そう言う事だ。この魔導機器の修理を終えて、奇跡的に使える魔石の類が見つかったとしよう。だが、それに甘えていれば結局は元通りだ。その辺はそこの性悪が考えるだろうがな」
ジークは思いも知らなかった方向から言葉をぶつけられた事に視線をカルディナへと向ける。
カルディナはため息を交じりで簡単なん事だと言い、アーカスは彼女の言葉に頷くと魔導機器以外にも必要な事はあると話す。
「わかっていますよ。それに元々、魔導機器なんてなくてもどうにかできるように考えていたんですから、そのためにジーク達にフォルムに来てもらったんだろ」
「確かにそうだけど……なんか、納得が行かない」
「そう言わないでよ」
カインは苦笑いを浮かべるとジーク達をフォルムに呼んだ理由を思い出せて言う。
ジークは頷くが納得できない部分があるようで眉間に深いしわを寄せるとカインは食後の紅茶を飲みながら笑った。
「とりあえず、知り合いに頼んで使えそうな魔石の類を探して貰うとして、ジーク達も何かあったら」
「……今度は俺達にどこに行けと言うんだよ?」
「どこかに行けと言っているわけじゃないよ。それにアーカスさんも言っていただろ。魔導機器についていた魔石は誰かが取り外した形跡があるって、それを探すのは誰でしょう?」
カインは話をまとめに入ろうとするがジークはイヤな予感がしたようで眉間のしわは深くなって行く。
彼の表情にカインはくすりと笑うとまだ探すものがあるのではないかと言い、ジークは理解できたようで大きく肩を落とした。
「だけど、1つだった魔導機器からコアの部分をわざわざ取り外す理由ってなんだよ?」
「そうですね。魔導機器として使えなくなるのですから意味がなくなりますよね」
「そこはあれですよ。きっと、1つの物を2つに分けて持つ事で離れていてもお互いに想っていようとか、きっと、そう言う素敵な事です!!」
ジークはまた魔導機器のコアを探す作業があると考えたようで座り直すと魔導機器を2つに分けた理由がわからずに乱暴に頭をかく。
彼の言葉にレインは同意するように頷くとノエルは何か拳を握り締めて声を上げる。