第857話
「これで良いね」
「……お前は何をしたんだ?」
「魔法で消せるなら、私の剣を持つ必要なんてないじゃない」
中庭の火を消し終えたカインは持っていた剣をフィーナに返す。
フィーナとは違う剣の使い方にジークは眉間にしわを寄せると剣を扱う者として魔術師であるカインに負けたと思ったようだが認めたくないため、フィーナはカインが魔法を使ったと決めつけて頬を膨らませながら剣を鞘に戻した。
「その剣は魔法を宿している魔剣だからな。魔力を通して使用する範囲を広げただけだ」
「……そんな事ができるのか?」
「むしろ、なぜ、できないと考える」
アーカスはカインの剣の使い方に感心したように頷くと彼が示した剣の使い方を説明する。
ジークは今までフィーナの剣の使い方しか見ていなかったため、信じられないようで首を捻るがアーカスの反応は冷たい。
「……そんなわけないわ。あれはあの性悪が私への嫌がらせのためにわざわざ、関係ないのに剣を使ったように見せただけよ」
「フィーナも現実を見なよ」
「お前のように剣をただ振り回すだけしか能がないバカにはその剣はふさわしくないと言う事だな」
アーカスの話を聞いても認めたくないフィーナはカインの嫌がらせだと言い切り、彼女の様子にカインは大きく肩を落とした。
アノスはあの剣がフィーナにはふさわしくないと思っているため、彼女の事を鼻で笑うとフィーナは視線を鋭くして剣を握る。
「フィーナさん、落ち着きましょう。カインはあくまでも使い方の例を見せただけなんですから、フィーナさんだってすぐに使えるようになりますよ」
「そうね……使い方が他にもあるなら、この剣からさっきの魔導銃みたいに火の玉だって放てかも知れないわね」
「以前に言ったはずだ。その剣には攻撃魔法の部類の物は付加されていない」
レインは慌ててフィーナとアノスの中に割って入ると彼女の説得に移った。
彼の言葉にフィーナは一先ず、怒りを鎮めたようでフィーナは剣を眺めながら、剣への新たな使い方に目を輝かせる。
しかし、彼女の願望をアーカスは淡々とした口調で否定するとその場には微妙な沈黙が広がった。
「何でよ!!」
「……基本的に魔法を無効化する魔法式が組み込まれた剣だからね。炎を出すとかは違うかな?」
「それなら、さっき魔導銃で火の玉を出したんだから、私の剣もそう言う剣にしてよ!!」
不満だと声を上げるフィーナの姿にカインは眉間にしわを寄せて彼女にも理解できるように簡単に説明をしようとするのだが、フィーナは話を聞く事無くアーカスに詰め寄っている。
アーカスは彼女の言葉など聞く気はないようで歩き出す。
「無理だな」
「何でよ? ジークの魔導銃は出来るのに不公平よ」
「不公平って……なあ、俺、夕飯の準備もあるし、戻って良いか?」
それでもフィーナは納得できないようで彼を追いかけて行き、アーカスは鬱陶しそうに彼女の要求を否定するとフィーナはジークだけずるいと言いたいのか彼を指差して叫ぶ。
彼女の様子にジークは呆れたようにため息を吐くとカインに室内に戻って良いかと聞く。
「そうだね。実験は終わったみたいだし、俺達ももう1つの魔導機器の確認もしたいしね。戻ろうか?」
「そうですね」
「待ちなさいよ。不公平よ」
カインも付き合っていられないと思ったようで頷くとセスも同調し、フィーナを置いて屋敷の中に戻って行く。
自分の要求が無視されている事にフィーナは文句を言うが、1人で中庭に残っていても仕方ないため、頬を膨らませてみんなの後を追いかける。
「アーカスさん、私にも攻撃魔法が使える魔導機器」
「……自分で魔法を覚えろ。それに小娘、お前には以前、風の魔法が付加された魔導機器を渡しただろう?」
「だって、あれはレインの物みたくなっているし」
居間に戻るとフィーナは夕飯の準備を投げ出して、剣に魔法が付加できないなら新しい魔導機器を渡せとアーカスの周りで騒ぎ立てている。
流石のアーカスも鬱陶しくなってきているようであり、眉間にしわを寄せた。
フィーナは以前に渡された風の魔導機器はレインが持ち歩いていると不服そうに言うと彼を睨みつける。
レインは彼女に睨まれてバツが悪そうな表情をすると風の魔導機器である腕輪をフィーナに渡した方が良いと考えたようでカインに許可を取ろうと視線を移す。
「ダメ。フィーナに渡すと危ないから」
「何でよ!!」
「気に入らないからって、何かある度に風の魔法を放たれても困るからね。どうせ、扱いきれないから、周囲にも被害が出るだろうし」
カインはすぐにレインのお願いを却下するとフィーナは不満げに声を上げる。
感情で突っ走る彼女に与えるには危険だとカインは判断しており、彼の言葉にセスは同調するように頷いた。
「そんな事は無いわよ。だいたい、私が悪いんじゃないわ!!」
「……言うだけ無駄だろ」
「アーカスさん、準備ができましたか?」
フィーナは自分ではなく、他の人間が悪いと言い切り、アノスは眉間に深いしわを寄せる。
その時、魔導機器の調整が終わったようでアーカスが手を止め、カインはアーカスの手元を覗き込む。
「……ああ」
「何よ?」
「魔導機器を使いたいと言うなら、それに魔力を通してみろ。それすらできない人間に魔導機器を渡しても意味がないだろう」
アーカスは頷くと手にしていた魔導機器をフィーナの前に置く。
意味がわからずに首を傾げるフィーナにアーカスは口先だけでない事を見せてみろと言う。
「魔力を通す?」
「自分で意識して魔力を引き出せないなら、魔導機器を渡しても扱えないだろう」
「確かにそうですね。フィーナはその剣にも風の魔導機器にも無意識に魔力を通していますから……信じられない事に」
意味が理解できないようでフィーナは魔導機器を手に取ると怪訝そうな表情で覗き込む。
アーカスは剣の力を最大限に彼女が生かしきれていないのはフィーナに問題があると思っており、諦めさせる方法として彼女の力不足を思い知らそうとしたようである。
彼の言葉にセスは同意を示した後、普段のフィーナが剣を扱える理由に納得できていないようで眉間に深いしわを寄せた。




