第856話
「小僧」
「今度はアーカスさんですか?」
「しばらく、魔導銃を借りるぞ」
カインの許可を得るとアーカスはジークを呼ぶ。
何度も邪魔が入る事にジークはいい加減にしてくれと言いたげに言う。
彼の表情など気にする事無く、アーカスはジークに用件だけを告げると魔導銃から冷気の魔石を取り出そうと分解を始める。
「……なぜ?」
「元々、冷気の魔導銃は調節して貰いたいって言っていたし、気にしない方向で」
「時間がなかったからそのままになっていた事は否定しないけど……大丈夫なのか?」
話しを聞いていなかったジークは状況が理解できずに首を傾げた。
カインは自分の失言が原因とは言い難いようで苦笑いを浮かべるとジークは調節が必要だと言う事は考えていたため、頷くがアーカスの口元が緩んでいる姿に不安になったようで眉間に深いしわを寄せる。
その疑問にカインとセスは視線をそらし、レインは苦笑いを浮かべており、ジークの眉間のしわは深くなって行く。
「アーカスさん、とりあえず、魔導機器の確認をしませんか?」
「……今、思いっきり、話をそらしたな」
「そんな事はないよ」
カインはジークからの追及が来る前にアーカスに実験に移ろうと声をかけた。
彼の反応にジークの視線は疑いの色を強くしていくがカインは視線をそらしたまま答え、ジークが追及の手を伸ばそうとする。
その時、アーカスが冷気の魔石を取り出し終えたようで魔導銃をテーブルの上に置くと先ほどまで冷気の魔石が入っていた場所に火竜の瞳をはめ込んだ。
「ちょ、ちょっと何をしているんですか?」
「……ふむ」
「じゅ、銃口をこっちに向けないでください!?」
アーカスの行動にジークは驚きの声を上げるとアーカスは魔導銃の銃口をジークへと向けて照準を合わせる。
その行動にジークは打たれると思ったようで両手を上げ、撃つなと叫ぶ。
「ジーク、遊んでないで手伝いなさいよ!! ……何しているの?」
「小娘、良いところにきた、剣を持って外に出ろ」
「剣を持って? ……何があったのよ?」
ジークが遊んでいるように見えたようでフィーナは声を上げるが、よく見てみるとジークは魔導銃で狙われており、彼女は首を捻る。
アーカスはフィーナの顔を見て口元を緩ませると立ち上がり、中庭に出るように言うと1人で歩いて行ってしまう。
フィーナは状況がまったく理解できないためか首を捻るとアーカスの背中を指差しながらジークに聞く。
「……俺が聞きたい。俺だっていきなり魔導銃の銃口を向けられたんだから」
「何がしたいのよ? ……とりあえず、行ってくるわ」
ジークは眉間にしわを寄せて首を横に振るとフィーナは文句を言いながらも、剣を手に取るとアーカスの後を追いかける。
「見に行く?」
「……そうですね。何かあった場合は回復も必要でしょうし」
「だよね。ジークも行く?」
カインはアーカスが何をやるつもりか予想が付いているため、苦笑いを浮かべて意見を聞く。
セスは大きく肩を落とし、ソファーから立ち上がるとカインわざとらしくため息を吐いた後、ジークに付いてくるかと質問すると答えを聞く事無く、2人の後を追いかける。
「……行くしかないだろ。フォトンさん、すいません」
「はい。状況はわかりませんけど、フィーナさんも心配ですし、こちらは任せてください」
ジークはため息を吐くと料理を運んでいたフォトンに声をかける。
フォトンは話の内容までは聞こえなかったものの、面倒な事になっているのは理解できたようで笑顔で頷いた。
彼の言葉にジークは頭を下げた後、居間を出て行き、レインとアノスもジークに続く。
「剣を持ってこいって、何? アーカスさんがけいこでも付けてくれるの? アーカスさんは魔術師でしょ?」
「……」
「何なのよ?」
中庭に着くとフィーナはアーカスに目的を聞くがアーカスは彼女から少し離れると魔導銃の銃口を向ける。
フィーナは意味がわからないながらも鞘から剣を抜いた。
その瞬間に、アーカスはトリガー引き、魔導銃の銃口からは火の玉が放たれる。
「な、何でよ!? なんで、魔導銃から火の玉が出てくるのよ!?」
「……よく、あれを斬れるな」
「フィーナさんの場合、勘でどこに攻撃が来るかわかるみたいですからね。それより……」
魔導銃から火の玉が出るとなどまったく思っていなかったフィーナは驚きの声を上げながらも剣で火の玉を叩き斬った。
フィーナが火の玉を斬り伏せた様子にアーカスは小さく頷くと続けて魔導銃のトリガーを引く。
フィーナは状況を説明しろと叫びながらも火の玉を剣で斬り払って行き、その姿にアノスは眉間にしわを寄せた。
レインはフィーナが斬り伏せた火の玉が中庭をところどころ燃やしている様子に顔を引きつらせている。
「……なんで、魔導銃から火の玉が出ているんだ?」
「入っていた冷気の魔石の代わりに火竜の瞳の欠片を入れたみたい」
「そうか……入っているものを変えただけであんなに簡単に火の玉が出るものなのか?」
ジークは意味がわからずに眉間にしわを寄せて聞くとカインは自分の発言が原因だったためか目をそらして言う。
カインの言葉でジークは納得したようで頷くが魔導銃の構造がよくわからないため、すぐに眉間にはしわが戻った。
「ふむ……威力的には問題はないが魔法処理は必要だな。銃身が熱くなりすぎる。このままでは銃身がすぐにダメになるな」
「お、終わったわ。な、何なのよ。いったい」
「カイン、これをどうにかしないと火事になりますよ」
アーカスは確認を終えたようで攻撃の手を緩めると銃身の様子を確認し始める。
フィーナは意味がわからないと文句を言いながら息を整え始めるも、再び、アーカスからの攻撃も考えられるため、アーカスを睨み付けている。
その間にも中庭に燃え移った火は燃え広がっており、セスはカインの服を引っ張り、どうにかするように言う。
「そうだね……フィーナ、ちょっと、剣を貸して」
「何でよ?」
「良いから、このままだと火事になるよ……えーと」
カインはフィーナに近づくと剣を渡すように手を出す。
アーカスから狙われる可能性もあるため、フィーナは首を横に振るが自分が斬り伏せた火の玉が中庭を燃やしている事に気づき、カインが何か考えていると思ったようで剣を渡した。
剣を受け取ったカインは軽く剣を振った後、目を閉じて集中すると彼の魔力に呼応するかのように剣が光を帯びて行く。
突然の事にフィーナは驚きの表情をしているとカインはフィーナから離れて剣を軽く振ると剣が輝き、中庭の火を消し去ってしまう。