第85話
「……入ってこれたよ」
「そうですね」
ジーク達はリックからの紹介状を領主の館に持って行くと警備兵に応接室に通される。ジークとノエルはソファーに腰掛けて苦笑いを浮かべた。
「……と言うか、リックさんが領主様と知り合いの理由よ。あの男、まさか、美人領主様に手を出してるんじゃないでしょうね」
「フィーナ、おかしな事を言うなよ。領主様の耳に入って、問題になるのはイヤだぞ」
フィーナは応接室に飾られている調度品を見ながら2人の関係を疑うような事を言うとジークはため息を吐く。
「そうですね。リック先生は医師として尊敬できる素敵な方だと思いますよ」
「……フィーナ」
「す、すいませんでした!?」
その時、応接室のドアが開き、この屋敷の主であり、ルックルの領主であるアズが現れた。フィーナは慌てて頭を下げた。
「別に気にする必要はありません。私は鉱山の様子も街の様子も知りたいので多くの方に話を聞かせていただいているだけです。リック先生だけではなく、他の診療所の先生からも話は聞いています。鉱山の関係者は事故などを伏せたがるので先生から、状況を教えて貰っています」
「そうなんですか?」
「まぁ、事故が起きると工事監督者の責任になるからな。伏せたくなるのもわからなくはないな……どうかしましたか?」
アズの言葉にジークは納得できる部分もあるようで頷く。その中でアズが自分へ視線を向けている事に気が付き、首を傾げた。
「いえ、リック先生からの手紙に名前が書いてありましたので、あなたがジークですか?」
「……そうですが、どうかしましたか?」
アズの言葉にジークは両親の話が出てくると思ったようで表情は不機嫌そうに変わって行く。
「ジ、ジークさん、あ、あの」
「すいません。機嫌を損ねてしまったようですね。ただ、勘違いしているようですが、私はあなたのご両親より、おばあ様と面識があるだけです」
ノエルはジークの態度に慌てるが、アズは彼が気分を害した理由に心当たりがあるようで頭を下げた。
「ばあちゃんと?」
「はい。この近辺では1番の薬剤師でしたから、彼女の知識を受け継いだあなたも優秀な薬剤師なんでしょう。リック先生や村から戻ってきた冒険者達からもあなたの薬品の効果は素晴らしいと聞いています」
「そうですか? ……失礼な態度を取ってしまい。申し訳ありませんでした」
アズはジークの祖母の事を知っているようで優しげな笑みを浮かべる。そんな彼女の表情にジークは自分の謝りに気づき、自分の非を詫びる。
「別に気にしてはいません。それでは本題に移りましょうか?」
「はい。お願いします」
アズはジークの様子にくすりと笑うとジークとノエルの対面に座る。ジークは返事をするとフィーナは話しに混じるために慌ててジークの隣に座った。
「リック先生からの紹介状であなた方の状況は理解しています。ただ、鉱山の今の状況もご理解されていただけると思っています」
「それはまぁ」
アズは今のルッケルの状況を理解して欲しいと頭を下げ、ジークは頷く。