第846話
「……」
「……俺を睨むなよ。俺は最初に罠があるって言ったからな」
「そ、そうですね」
転移魔法でジオスに移動した3人はシルドの店に顔を出した後、アーカスの家に向かう。
その途中でアーカスの家の前の罠が仕掛けられた場所でジークはアノスとフォトンに気を付けるように注意したのだが、アノスはジークの注意を聞かずに先行してしまい、多くの罠を発動させてしまった。
ジークはため息を吐きながらもフォトンと連携して罠を潜り抜けたのだが、アノスはジークの指示を聞く事に抵抗したためか、すでにぼろぼろになっている。
なんとか罠が張り巡らされた場所を抜けた3人だが、アノスはジークを睨み付けており、ジークはため息を吐き、フォトンは自分達が通ってきた道に転がっている罠の残骸の多さに顔を引きつらせている。
「……もっと、強く言え」
「聞かなかったのはそっちの問題だろ」
「ジーク、中に入らないんですか?」
アノスはジークの注意の仕方に問題があったと言いたいようで彼を睨み付けているが、ジークは気にする様子も見せず、玄関のドアへと視線を向けた。
彼の様子にフォトンは首を捻るが、ジークは手で彼に止まるように指示を出すとゆっくりとドアへと近づく。
「……まだ、何かあるんですか?」
「俺の経験上、ここが1番、ダメージが大きい。主に精神的に……」
「精神的に……何があるんですか?」
ジークは罠地帯を潜り抜けて油断した時に何度も玄関で罠にはまっているため、何もないかゆっくりと確認している。
彼の様子にフォトンは過去に何があったかわからないため、眉間にしわを寄せており、アノスはもう罠にはまりたくないのかジークと距離を開けた。
「……今日はずいぶんと騒がしいと思ったら見ない顔があるな」
「……どうして、真剣に罠に備えていると他から出てくるかな?」
「フォトン=クイストと言います」
その時、3人の左手側からアーカスの声が聞こえる。
3人は声がした方へと視線を向けると無表情のアーカスが立っており、ジークは納得が行かないようで眉間に深いしわを寄せた。
フォトンはアーカスと初対面のため、深々と頭を下げるがアーカスは興味を示す事無く、家の中に入って行く。
「フォトンさん、すいません。ああ言う人なんです」
「いえ、気にしなくても大丈夫ですよ。それより、入りましょう」
ジークはアーカスの態度に申し訳なく思ったようで頭を下げるが、フォトンは気にする必要はないと首を横に振った。
彼の言葉にジークはもう1度、謝ると3人でアーカスの後を追いかけて家の中に入る。
「それで何かあったのか?」
「……せめて、こっちを見ませんか?」
「小僧はお茶を用意しに行ったんだ。待っていれば良い。ただ、余計なものに触るな……小娘のようになりたければ別だがな」
アーカスは魔導機器の研究室に移動すると研究書を眺めながら付いてきた3人にここに訪れた理由を聞く。
ジークは彼の態度に大きくため息を吐くものの、彼の普段の行動を知っているため、気にする事はなく、アノスとフォトンにイスを出すと話が長くなるためか、1度、研究室を出て行ってしまう。
ジークがいなくなってしまった事にアノスとフォトンはどうして良いのかわからずに研究室を見回しているとアーカスは2人に視線を移す事なくジークの行動について説明と研究室に付いて注意をする。
アーカスの言葉からこの研究室でフィーナが余計な事をして痛い目に遭ったのは容易に想像がつき、2人はジークが用意したイスに腰を下ろすと大人しく、ジークが戻ってくるのを待つ。
「……豊穣の力を持った魔導機器か?」
「アーカスさん、何か知っていますか?」
ジークが用意した紅茶を飲みながらフォトンがテッドから聞いた話をアーカスに説明する。
特殊な魔導機器にアーカスの目じりが小さく動いた。
それをジークはアーカスが興味を持ったと思ったようで彼に質問するがアーカスからの返事はない。
「アーカスさん? 興味ないですか?」
「……無いな。ずいぶんと昔に持っていたからな」
「持っていたんですか? それなら、どんな形をしていたかわかりませんか?」
返事がないため、ジークは興味がないと思ったようで困ったように笑う。
アーカスは以前に同様の物を持っていたようで興味がなさそうに研究書へと視線を戻した。
持っていたと聞き、フォトンはアーカスとの距離を詰めるが彼はそれ以上、言う事はないようで研究書から視線を移す事はない。
「……どうするんだ?」
「アーカスさん、持っていたなら記録とかないですか?」
「書庫にある」
アノスはアーカスを動かすのは無理と判断したようで眉間にしわを寄せてジークに聞く。
ジークは困ったように頭をかくと何か参考になりそうな物はないかと聞くとすぐに書庫にあると返事があるが、アーカスの書庫は整理などされておらず、ジークは再び、あの魔窟に入らないといけないと思い眉間に深いしわを寄せた。
「しょ、書庫か……あそこから探し出すのか」
「ジークの様子を見ると大変そうですね」
「大変って言葉で片付けば良いな……とりあえず、探して見るか」
ジークは以前、書庫で調べ物をした時の事を思い出して大きく肩を落とすとフォトンは苦笑いを浮かべる。
力なく笑ったジークはここで文句を言っても仕方ない事を理解しているため、アノスとフォトンを書庫に案内すると言い、立ち上がり、3人で書庫に向かう。
「こ、ここから探すんですか?」
「……そうなります。それもどこに何の本があるかはわかりません。そして、何語で書かれているかも不明です」
「見つかるのか?」
書庫に到着すると乱雑に積み上げられた研究書を見て、フォトンは眉間にしわを寄せる。
ジークは大きく肩を落とすと足元に有った研究書を拾い上げるとパラパラとページをめくった。
その研究書はジークの読めない言語で書かれたものであり、どうして良いのかわからずに眉間にしわを寄せるとアノスは無駄になりそうだと言いたいようでジークを睨み付けており、フォトンは彼の様子に苦笑いを浮かべると2人に頑張りましょうと声をかけ、魔導機器について調べ始める。