第845話
「土地を豊かにする魔導機器? ……本当にフォルムにあったの?」
「ああ、テッド先生の話ではシーマさんの爺さんが手に入れていたみたいなんだよ。それであの花が生えている場所に使ったらしい。それより、カイン、お前、先代までの領主が集めたアクセサリー類を鑑定したんだろ? 見つからなかったのかよ」
「いや、前から言っている通り、俺は元々、フォルムの領地を返すつもりだったからね。思い出のありそうな物はその時に引き渡そうと思ってね。そう言う物の価値って他人の俺にはわからないからね」
ジークとフォトンはカインの書斎に顔を出すと書斎に残っていたカイン、レイン、アノスの3人にテッドから聞いた話を報告する。
カインは予想外の報告だったようで首を捻るとジークは彼の反応から鑑定に手を抜いていたと思ったようで大きく肩を落とした。
カインの考えにジークは何も言えなくなったようで頭をかくとフォトンはカインの考えをありがたく思ったようで深々と頭を下げる。
「だからさ。フォトン、何か適当な言い訳を作ってシーマに見て貰ってよ。俺が言っても素直に頷いてくれないと思うから」
「わかりました。シーマ様にも困ったものです」
「カイン、それで魔導機器の事をダメもとでアーカスさんに頼んで来ようと思うんだけど良いか? それともお前がやってくれるか?」
カインは照れくさくなったようで気まずそうに頭をかくとフォトンにシーマに思い出の品が無いか探させて欲しいと言う。
フォトンはカイン相手だと意地を張るシーマの顔が目に浮かんだようで小さく肩を落とした後に頷いた。
カインはフォトンの様子に満足そうに笑い、ジークは2人の様子に小さく表情を緩ませると本題に移る。
「そうだね……見たいところだけど、正直、時間がないね。シュミット様からもまとめて欲しいって言う資料を預かっているし、ワームの状況を考えるとこれが優先だろうし」
「……借りた恩は返さないといけないからな」
「それじゃあ、ジーク、フォトンさん、アーカスさんの事は任せるよ。アノスもジークに付いて行ってくれたら嬉しいな」
アノスは定期報告以外にシュミットからカインに渡す仕事を持ってきていたようで書類の山を指差して力なく笑った。
ジークはシュミットにかなりの力を借りている事もあり、カインはその仕事を優先するべきだと頷く。
カインはジークにアーカスの事を任せると書斎で話を聞いていたアノスに同行を頼む。
アノスはあまり乗り気ではないようだが、ジークの微妙な立場を理解しているようで小さく頷いた。
「良いのか?」
「……仕方ないだろう。ワームに戻るにしても戻ってこないのだからな」
「カルディナ様も多くの仕事を抱えているわけですし、たまには休憩も必要でしょう」
アノスが頷いた事にジークは驚きの声を上げるとアノスは速くワームに戻りたいようだがカルディナが戻ってこないため、思い通りに行かないと舌打ちをする。
レインは自分達よりも若いカルディナがシュミットの補佐と言う立場で働いている事を配慮して欲しいと漢書をフォローするがアノスは興味などないと言いたいのかジークとフォトンに速くしろと視線で指示を出す。
彼の様子にジークとカインは苦笑いを浮かべており、レインは困ったように笑う。
3人の姿にアノスはバカにされている気がしたようで忌々しそうに舌打ちをするとこれ以上、彼の機嫌を損ねるのは良くないと考えたようでジークはフォトン声をかけると3人でジオスに移動して行く。
「大丈夫ですかね?」
「ジークも感情で動く事は少ないし、フォトンさんにも同行して貰ったし、大丈夫じゃないかな? だけど……前に簡単に見た感じだけど、そんな魔導機器はなかったような気がするんだよね。時間がなかったから見落としたかも知れないけどね」
「テッド先生が嘘を吐いている可能性は低いでしょうしね」
アノスの様子にレインは不安を感じているようであり、苦笑いを浮かべているとカインは問題ないと笑った後、テッドの言う魔導機器が本当にフォルムの地にあるのかと首を捻った。
その様子は時間がなかったとは言え、鑑定に失敗したつもりはないようであり、レインもカインが失敗するとは思っていないようで不思議そうに首を傾げている。
「まぁ、アーカスさんが来てくれればありがたいし、ジークに任せて置こうか? シーマにも手伝って貰えば売れる物も出てくるだろうし……買ってくれる相手がいないけど」
「……ガートランド商会の締め付けも酷くなっていますからね。先日、訪問していただいた商人もあまり良い顔をしてくれませんでしたし」
「ガートランド商会に今、睨まれるのは得策とは言えないからね。それに貴重な魔導機器なら、シルドさんに預けておけば物好きな金持ちが買って行ってくれるだろうけどね」
シーマとアーカスの手を借りれば売却できる物も増えると笑うが、買い取り先に当てがないため大きく肩を落とした。
ギムレットとの協力関係もあるためか、ガートランド商会のフォルムへの締め付けはいっそうひどくなっているようでレインも眉間にしわを寄せる。
カインは悪い事ばかりを言っていると気が滅入ると思ったようで笑顔を見せるとレインは釣られるように笑顔を見せた。
「後はバーニアにも買って貰えるかも知れないね。貴重な魔石や精霊石を使っている物なら加工する事もできるしね」
「普通に魔術学園は買ってくれないんですか? 専門ですよね」
「どうかな? すでに作られている魔導機器より……新しい物に興味を示す人間の集まりだから、後は知識の探求? ……珍しい古い時代の魔導機器なら買ってくれるかも知れないけど、研究のためだって言って買い叩いてくるかもしれないからね。あまり、考えたくないかな?」
売却できるかはわからないが、希望をもって話す方が楽しいと話の内容を前向きにする2人は伝手のある購入先を上げて行く。
レインが魔術学園の名前を出すとカインは眉間にしわを寄せる。
彼の様子にレインは首を傾げるとカインは魔術学園の生徒達の興味の対象になりえるかわからないと苦笑いを浮かべた。