第844話
「……無いですね」
「そもそも、どんな形をしているかもわからないからな……それに数もかなりあるし」
「少し休憩しましょうか? このままやっても効率は悪そうです」
ジークとフォトンは魔術学園の研究者に提供したレインの屋敷に移動すると物置代わりの部屋を探索する。
フォトンは整理にかかわっていたようで当たりをつけながら、探していたのだが手がかりもないため、テッドが言っていたような物は見つからない。
当てもない事もあり、ジークは困ったと言いたいようで頭をかくとフォトンは休憩を提案する。
「そうだな……あれだよな。こうやって見ても何が魔導機器かわからないんだから、俺達が探すのは難しいのかな? フォトンさんは魔法が使えるからまだしも、俺はさっぱりわからないし」
「元々、高価なアクセサリーに使用されている宝石は特殊な力が込められている場合が多いですから、私の魔法も独学に近いため、魔力を見てもどのような魔力が付加されているかはわかりませんね」
ジークは提案には賛成のようだが、すでに目的の魔導機器を探すのに飽きてきたようで首飾りを覗き込みながらため息を吐いた。
彼の様子にフォトンは苦笑いを浮かべると魔法を使える自分でも難しい事はわからないと言う。
2人は無駄な事をしているのではと思ったようで顔を見合わせるとバツが悪そうに笑い、この後の事を考えようと思ったようで居間へと移動する。
「魔導機器の鑑定とかになるとやっぱり、カインやセスさんに手伝って貰った方が良いんじゃないか?」
「そうしたいんですが、流石にお2人の時間をあまり取らせるわけにはいきませんので」
「そうなるとヒマなのはカルディナ様か? カルディナ様にはなんか頼みたくないんだよな。あの性格を見ているせいか、いまいち能力が信用できないと言うか。でも、何もわからないよりはましだよな……いや、待てよ。魔導機器に詳しくてヒマを持て余している人が1人いるな。今回の件なら手伝ってくれるかも知れないし、来てくれなくてももしかしたら形状くらいは解るかも知れないけど」
居間に着くと2人はソファーに座り、今後の策を考え出す。
ジークは魔法を使う人間がいた方が良いと考えたようであり、カインとセスに頼もうと言うがフォトンは2人を動かす時間は無いと首を横に振った。
フォトンに反対意見にはジーク思うところがあるようで困ったように頭をかくとフォトンの協力があればカルディナを使えると思ったようで彼女の名前を出すが乗り気にはなれずに頭を抱えている。
しばらく考えると他の人物の顔が思い浮かんだようで表情を緩ませるがすぐに眉間にしわを寄せた。
「良い人がいるんですか?」
「ああ、ジオスの外れにアーカスさんってハーフエルフが住んでいるんだけど、その人は魔導機器についてかなり詳しい。ヒマも持て余しているし、連れてこられれば見つかるかも知れない。ただ……協力してくれるかは微妙。興味がないって言われたらどうしようもない」
「そ、そうですか。それでも協力を仰ぐ事ができればフォルムの地を豊かにすることができるのかも知れないんですね? それなら頼む価値はあるのではないでしょうか?」
ジークが思い浮かべたのはアーカスの顔であり、フォトンに彼の事を簡単に説明するが協力を得られる確証がなく、眉間のしわはさらに深くなって行く。
彼の様子にフォトンはアーカスの説得が難しい事が理解できたようだがそれでも希望があるならと思ったようであり、ジークに聞き返す。
「この中にテッド先生が言っている物があればだけどな……フォトンさん、今更だけどこの辺の物ってカインは識別してないのか? あれだけ、領地運営の金が無いって言っているんだ。売れば金になりそうな物もあるんだ。普通はさっさと金にするだろ?」
「フォルムの地に来た時に少し見たくらいです。その時は魔力の有無は見ていたようですが……専門じゃないから良くわからないと言っていました。今思えばもの凄く大袈裟に」
「あいつ、面倒になって調べたふりして投げ出したんじゃないだろうな……充分に考えられるな」
ジークは無駄足になった時にアーカスに淡々と文句を言われると考えているようで困ったように頭をかくとカインがアクセサリー類に何も手をつけていない事に疑問を持つ。
フォトンは彼の疑問にカインとレインがフォルムの地を初めて訪れた時の事を思い出すが、その時のカインの行動は今考えると雑の一言で片づけられてしまうようで眉間に深いしわを寄せた。
当時の事を聞いたジークは眉間に深いしわを寄せるとソファーから立ち上がる。
「もしくは他に何か考えているかですね……カイン様のところに行くんですか?」
「話しも少し聞きたいし、ジオスに行ってくるとしてもテッド先生から聞いた話の報告はしておいた方が良いだろうし……それに報告もなしにジオスに行って爺さんの手の者に捕まると面倒だからな」
「そうですね。ジークも大変なようですし、警戒するのは必要ですね」
ジークはアーカスのところに行く事をカインに相談しようと思ったようである。
いつもなら、許可など考えないのだが自分が祖父であるギムレットに狙われている事をジオスの店が狙われた事で自覚したようで苦笑いを浮かべた。
フォトンはカインからジークの微妙な立場を聞いているのか真剣な表情をして頷くと続くようにソファーから立ち上がる。
「俺1人で行ってきますよ」
「そう言うわけにもいきません。フォルムにもジークを狙う輩が入ってきているかも知れませんし、それにあちらにも先代領主の荷物がありますし、他の方達にも調べていただこうと思います」
「そうですか? それなら行きましょう……その前に少し片付けですね」
ジークはカインのところには1人で行ってこられると言うが、フォトンはジークの身を心配してくれているようで一緒に行くと言う。
彼の言葉にジークは苦笑いを浮かべるも、断るのも悪いと思ったようで頷くと倉庫代わりにしている部屋を片付け始める。