第843話
「……」
「睨むな……カインかセスさんを呼んできた方が良いんじゃないか? いや、カインなら使い魔の1体や2体、潜り込ませているんじゃないか?」
「居そうですけどね」
クーをエサにしてカルディナを診察室におびき出すのには成功したのだが、クーはカルディナの相手をするのはイヤのようでジークの腕の中から出る事はなく、カルディナは自分からクーを奪ったと言いたいのかジークへと殺意のこもった視線を向けている。
ジークは彼女の視線に大きく肩を落とすとカルディナではなく、カインやセスを連れてきた方が早く済むと判断したようで診察室にカインの使い魔が紛れ込んでいないかと探す。
ミレットはカインならやりかねないと考えたようでくすくすと笑っているが、カインの使い魔が現れる事はない。
「……クー」
「ダメですね……カルディナ様、その態度は人の上に立つ者として相応しいとは思えませんが」
カルディナが真面目に話を聞いてくれないと魔法関係の話になった時について行けないため、クーで機嫌を取ろうとするジークだがクーは首を横に振る。
困り顔のジークにフォトンは苦笑いを浮かべた後、表情を引き締めるとカルディナへと鋭い視線を向けた。
カルディナはフォトンからの突き刺さる視線と進言に息を飲むともう1度、ジークを睨み付けた後、しぶしぶと頷く。
「……フォトンさんが付いてきてくれて助かったよ」
「そうですね。あの、それでテッド先生、白い花の事で思いだした事と言うのは」
カルディナの態度が一先ず、落ち着いた事にジークは胸をなで下ろすとノエルは苦笑いを浮かべた後、テッドに白い花の事を尋ねた。
ノエルの言葉で視線はテッドに集中するとテッドがコホンと1つ咳をする。
「あの白い花は領主様……シーマの祖父ですね。その方が育てた事は問題ありませんね?」
「はい。知りたいのはどうして、あそこだけに白い花が育っているかです」
「あの場所の土地整備をした後に白い花を植えたんですか? 白い花が土を作ったんですか?」
テッドは白い花を植えた人間が誰かと確認するとすぐに返事がある。
ジークは白い花か土か、どちらが先かとテッドに詰め寄ろうとするが腕の中にクーがいるため、視線を直すだけであり、彼の様子にミレットとフォトンは苦笑いを浮かべた。
「土が先だったと思います」
「土か? ……でも、どうやって」
「魔法に関係した話なんでしょう」
テッドは土を先に作ったと答えるとジークは頷くが、どのような方法を使ったかは想像がつかず、首を捻る。
彼の様子にカルディナは呆れたようなため息を吐き、テッドは小さく頷いた。
「……魔法に関係した物か? そんな物、あるのか?」
「先ほど、自分でも話していたではありませんか、土や木の精霊の力を封じ込めた魔石、精霊石の類ですわ」
「話しが進まない。クーもそこまで嫌わないでやってくれ」
ジークは首を捻るとカルディナは彼を小ばかにするような視線を向ける。
ジークがバカにされた事を感じ取ったクーは彼女の顔など見たくないと言いたいのかそっぽを向いてしまい、その様子を見たカルディナは涙目になってしまう。
クーとカルディナの様子にジークは大きく肩を落とすとカルディナの知識が必要なため、クーの説得に移る。
「テッド先生、カルディナ様が言ったようなものがあったんですか?」
「どのような物だったかはわかりませんが、旅の冒険者から譲り受けた物だと思いました。ただ、込められている魔力が少なかったようでわずかな場所しか土地を豊かにする事はできなかったと聞いた覚えがあります」
「魔力が少なかったからですか……その器はどうなったかわかりますか? 壊れたか力を失ったかで考えられる事が変わってきますわ」
ノエルはジークとカルディナの様子に苦笑いを浮かべるも、テッドの話が気になるようで質問をする。
テッド自身も話だけしか分からないようで首を横に振った時、クーがジークに説得されたようでクーを抱きしめて上機嫌のカルディナが土地を豊かにしたものの行く末を聞く。
「壊れたとは聞いていません。魔力を失ったとだけ」
「そうですか……その器が元々、そのような力を持った魔導機器ならば魔力さえ込める事ができればまだ使う事ができるかも知れませんが、込めていた魔力が特殊な物なら、器を探さなければ何とも言えませんわね」
「テッド先生、それはどこにあるかわかりませんか?」
テッドは破損していないと言うが、どこにあるかはわからないと首を横に振る。
カルディナはクーをぎゅっと抱きしめながらも真剣な表情をしているとミレットはその道具がどこにあるかと聞く。
彼女の質問にテッドは再び、首を横に振るとヒントが無くなってしまったためか、その場は重い空気に変わって行く。
「……形状だけでもわかりませんか? 冒険者が地方とは言え領主に譲ったものなのですから、魔石や精霊石を加工して作られたアクセサリーのようなものだと思うんですが」
「アクセサリーなら売られている可能性がないか?」
「可能性はありますが……保管されている可能性はありますね」
カルディナはどのような物か予想しているようであるが、アクセサリーと聞いたジークは売却済みの可能性が高いと判断したのか頭をかいた。
フォトンは領主の宝物庫の中にある可能性もあるため、探してみる価値はあると思っているようで頷く。
「……でも、アクセサリーとかならカインが売り払ってないか、領地運営には金が必要だろ? あいつ、自分が高価な物で着飾るような事はしないし」
「売っている可能性が高いのはカイン様より、先代でしょうね。高価な物だと売らずに残していた可能性もあります。ただ、価値がないと判断していたらフォルムにはないと思いますが……私はやる価値があると思います」
「そうか。それなら探すか、せっかく、テッド先生が思い出してくれた手がかりだしな」
ジークは見つかる可能性がしないようで眉間にしわを寄せるが、フォトンはカインが売却する可能性は低いと言う。
彼の言葉にジークは苦笑いを浮かべるとフォトンの手伝いをすると言い立ち上がると2人は診察室を出て行こうとする。
「わたしも手伝います」
「ノエルはこっちを手伝ってくれ……なんか、大変っぽい」
「わかりました」
ノエルは2人を追いかけようとした時、待合室が騒がしくなり出す。
ジークはドアを開けると巨大蛇探索に参加している者達がケガをしたようで担ぎ込まれてくるのが見える。
その様子にジークはテッドへと視線を向けると彼は任せて欲しいと言いたいようで笑みを浮かべており、ジークは少し考えるとノエルに手伝いをお願いし、彼女は大きく頷くとテッドに指示を仰ぐ。