第842話
「クーちゃん」
「……」
「ま、待ってください」
定期報告を終えるとカルディナのクーに会いたいと言うわがままでジークはノエルとフォトンと一緒に彼女に付いてフォルムを歩く。
テッドの診療所に到着するなり、カルディナはクーを見つけて飛びつこうとするがクーは嫌そうな表情をすると彼女の手が届かない高さまで飛び上がった。
カルディナはクーを捕まえようと手を伸ばして飛び跳ねるが、クーは彼女が飛び上がっても手が届かない絶妙な高さを飛んでいる。
「賢く育っていますね」
「そうですね。喜んでいいのかはわかりませんけど……フォトンさん、付き合わせてしまってすいません」
「かまいませんよ。それより、カルディナ様、少し気を付けていただけませんか?」
クーの様子にフォトンは苦笑いを浮かべるとジークは小さくため息を吐くとフォトンに同伴して貰った事を謝った。
フォトンはジークが気にする事はないと笑うとカルディナのスカートが飛び跳ねる度にめくれるため、彼女に行儀が悪いと声をかける。
「黙りなさい。変態」
「……カルディナ様はハイム国だけではなく他国にも名前をとどろかせるオズフィム家のご令嬢、そのような態度では困ります」
カルディナはスカートを押さえつけるとフォトンがスカートの中を覗いたと決めつけたようで彼を威嚇する。
彼女の態度にフォトンは腹を立てる事無く、落ち着いた口調で態度を改めるように言うとカルディナは威圧されてしまったようで後ずさりしてしまう。
カルディナが静かになった間にクーは距離を取ろうと考えたようでジーク手の中に納まるとカルディナは視線でクーを追いかけるが、フォトンは話が終わっていないと言いたいのか彼女の視線を遮るように割って入る。
「フォトンさん、強いな」
「そ、そうですね」
「騒がしいと思ったら、どうかしたんですか?」
2人の様子にジークとノエルが苦笑いを浮かべていると待合室の騒ぎが聞こえたのか、ミレットが顔を覗かせた。
ミレットはフォトンに見下ろされて小さくなっているカルディナの様子に意味がわからないようで首を傾げるがジークとノエルは苦笑いを浮かべたままである。
「お騒がせしました」
「いや、気にしなくて良いですよ。静かになるのはありがたいですし」
フォトンに睨まれて小さくなったカルディナの姿に彼女が可哀そうになってきたようで待合室にいたフォルムのお年寄り達はカルディナの擁護に回った。
小さい頃と言う弱みを握られているフォトンはお年寄り達が参戦した事にこれ以上のカルディナへの進言は無理だと考えたようでカルディナをお年寄り達に任せるとジーク達に頭を下げる。
ジークはカルディナを黙らせる事ができる人間ができた事に口元を緩ませるとノエルはジークの考えている事がわかったようで彼を責めるような視線を向けた。
「ジークを責める事でもないと思いますよ」
「そうかも知れませんけど……」
「ダメですよ。そんな事をやっているとノエルもクーちゃんに嫌われてしまいますよ」
ノエルの様子にミレットは苦笑いを浮かべるとノエルは納得が行かなさそうに頷く。
ミレットは彼女に言い聞かせるように言うとジークの腕の中にあるクーに鼻先をなで、クーは気持ちよさそうに鼻を鳴らす。
クーに嫌われるのはノエルにとっては絶対に避けたい事であり、大きく頷くと彼女の様子にジークとフォトンは苦笑いを浮かべる。
「それで、何かあったんですか?」
「クーも、お年寄り達には敵わないか」
「いつも可愛がって貰っていますからね」
フォルムのお年寄り達に諭され、カルディナはクーを追い掛け回さないと約束するとお年寄り達からクーにカルディナと遊んでやるように言う。
クーもお年寄り達には面倒を見て貰っているためか、しぶしぶ頷くとお年寄り達の監視の元、カルディナはクーを可愛がり始める。
ミレットは彼女の様子に柔らかな笑みを浮かべるとジーク達が診療所に訪れた理由を聞くがジークの視線はクーとミレットに向けられており、苦笑いを浮かべているとミレットはくすくすと笑う。
「あ、すいません」
「いえいえ、ジーク達が診療所に来たのはあれを見ていればわかりますからね」
「ジークくん、ノエルさん、ちょうど良いところに来てくれました」
ジークはミレット笑い声にバツが悪そうに頭をかいて謝る。
ミレットは気にする必要はないと言った時、診察室のドアが開き、テッドがジークとノエルを呼ぶ。
「どうかしましたか?」
「この間の白い花の事ですが、少し思いだした事があったんです。とは言っても曖昧な記憶で申し訳ないんですけど」
「本当ですか?」
テッドに呼ばれて何か手伝う事ができたと考えたジークは急ぎ足で彼に近づく。
目の前にジークが移動してきた事にテッドは苦笑いを浮かべると森の奥にある白い花に付いて思いだした事があると言う。
ノエルは驚きの声を上げて、テッドに近づいて行くと2人に挟まれているテッドの様子にミレットとフォトンは苦笑いを浮かべる。
「ジーク、ノエル、テッド先生が困っていますよ」
「あ……すいません」
「いえいえ、白い花の謎が解けるとフォルムの土地が肥沃になるのかも知れないですから、気持ちはわかります」
ミレットは2人にテッドから少し離れるように言うとジークとノエルは慌てて距離を取るとテッドに向かい頭を下げた。
テッドは2人が興奮する理由もわかると笑うと診察室に移動するように促す。
「わかりましたけど、カルディナ様……無理か?」
「無理そうですね」
「テッド先生、その思いだした話には魔法関係の話はありそうですか?」
ジークはカルディナも呼ぼうとするが彼女はクート遊ぶ事に全力を尽くしており、その姿にジークは眉間に深いしわを寄せた。
ノエルはカルディナの気持ちを尊重したいと思っているのか苦笑いを浮かべるが、ミレットは魔法の話になった場合に専門であるカルディナは必要だと考えてテッドに質問をする。
「そうですね。難しい事はわかりませんが関係はあると思います」
「クー、カルディナ様を連れて来い」
テッドは魔法が関係していると思っているようで頷くとジークはクーを呼び、彼の言葉にクーはすぐに頷くとカルディナから逃げるようにジークに飛びついた。




