第841話
「爺さんは静かにしているって事か?」
「そうだね」
「ただ……それが不気味ですわ」
アノスとカルディナからの定期報告を受けるが、現状ではワームで表立った企みは見えないようでジークはほっと胸をなで下ろす。
しかし、ジーク以外は表立って動いて見えない事を不気味だと思っているようで表情は険しい。
「……俺、おかしい事を言ったか?」
「そういう事でもないけどね。それにワーム以外ではしっかりと動いているわけだしね」
「そう言えば、そんな事もあったな」
周囲の反応にジークは首を捻るとカインは苦笑いを浮かべながら、ジオスの事を思い出すように言う。
カインに言われて初めて思いだしたようでジークは苦笑いを浮かべるとカルディナは呆れたと言いたいのかわざとらしいくらいの大きなため息を吐いた。
「何だよ?」
「庶民とは言え、自分の家が襲われたんです。そのように簡単に忘れられないと思いますが」
「仕方ないだろ。あの後も巨大蛇な蛇よけだって忙しかったんだから」
彼女の態度にムッとするジークだが、カルディナは普通なら忘れないと言い切る。
ジークはそこまで強く言われてしまうと言い返せなくなってしまったようで視線をそらして頭をかく。
「その後、進展は無しか?」
「ないね。こっちとしては速く動いてくれないと人材不足で困る」
「ギドさん達が戻ってきてくれると助かるんですけどね」
アノスはジークにかまっていられないと言いたいようでフォルムの状況を聞く。
カインからも特に報告する事はないため、大袈裟にため息を吐くとセスは仕事が多くて疲れているようで眉間に深いしわを寄せている。
「とりあえずはゆっくりとやっていくだけだね。蛇問題が解決しない限り、食糧には困らないし」
「……食い尽くすんじゃないのか?」
「ひ、否定できませんね」
土地が痩せているフォルムには蛇肉は貴重な食料であり、カインはそれなりに重宝していると笑う。
アノスはその言葉に多くの蛇がフォルムの民に狩られていると思ったようで眉間に深いしわを寄せるとレインは苦笑いを浮かべる。
「後は俺達が来てからだいぶ経つからな、そろそろ、畑の物も良い感じか?」
「そうだね。味はともかく収穫できるかが重要だね。そのうち、売れるようになれば良いんだけど」
「そのうちですね」
ジークはカルディナの相手から逃げるようにフォルムの地で育て始めた作物もそろそろ収穫時期だと言う。
カインはフォルムの運営のためにもどうにか市場に回せるようにしたいとため息を吐くが、ガートランド商会から圧力がかかっている事もあり、現状の見込みはない。
「状況次第ではワームで引き取る事も可能だと思います……」
「それはありがたいけど、カルディナ様が判断する事ではないね。それに引き取って貰えるほどのものができるとは限らないから」
「その通りですね」
カルディナはカインの役に立ちたいようでワームで引き取るように手配すると言うがカインは首を横に振る。
カインに言われてカルディナは残念だと言いたいのか小さく肩を落とす。
「それにワームも大変だろうからね。フィアナの村やルッケルへの支援とかお金もかなり出ているだろうし」
「そう言えば、そうだな。フィアナの村は立ち直ったのか?」
ワームは周辺地域の支援にも財政を使っているため、ワームには余裕がないとカインは考えており、無理はさせられないと笑う。
カインの言葉でジークはフィアナの村の様子が心配になったようで首を捻るが返事はない。
「……ダメなのか?」
「別にダメではありませんわ。ワームからの支援もありますし、ルッケルのアズ様やレギアス様からも様々な支援がなされていますし、ただ、まだ、精霊達のバランスが戻っていないようで水不足ですね」
「水不足か……カイン、何かできないのか?」
ジークは眉間にしわを寄せて聞き返すとカルディナは対処の仕方がわからないと言いたいようで難しい表情をしている。
話を聞いて放っておけないと思ったジークはカインに話を振るとカインは少し考え込む。
「精霊達のバランスが悪くなっているなら、自然に戻って貰うしかないんだよね。後は火竜の瞳のようなもので水の精霊の力を秘めた物をあそこで破壊してみるとか?」
「……止めなさい。それをやると今度は川が氾濫して村が流されます」
「限度って大切だよな」
カインが行きついた答えはさらに村の被害を増大させるものであり、セスは大きく肩を落とした。
彼女の様子から見て、ジークはカインがめちゃくちゃな事を言っている事は理解できたようで眉間にしわを寄せる。
「冗談だよ。それくらいのものがあれば力を貸して貰ってバランスを調整できると思っただけ、破壊なんてしないよ。だいたい、あんなもの、簡単に手に入るわけがないだろ」
「そうですね……仮に手に入ったら、売却して領地運営の資金にしたいです。その方がいろいろと対処ができます」
カインは冗談だと笑った後、現実的ではないと言う。
セスは同調するように頷くと仮に手に入れたら売却してお金にした方が使いやすいとため息を吐いた。
「フィアナの村の冒険者達が見つけてくれないかな」
「……お前、だまし取る気だろ」
「そんな事はしないよ」
カインはフィアナの冒険者仲間の成果を期待したいと笑うとジークは彼の笑顔に良からぬ事を企んでいると思ったようで眉間にしわを寄せる。
ジークから疑われた事にカインは傷ついたと言いたいのか大袈裟に肩を落とすが、その姿は酷く胡散臭く、セスは大きなため息を吐いた。
「そう言えば、火竜の瞳は火の精霊だろ。食物を育てるとなると水の精霊の力を借りれば良いのか?」
「水の精霊も必要だけど、土や木の精霊に力を貸して貰えれば良いんじゃないかな?」
「そうか……そんな物、どこかに落ちてないかな? それがあれば食料育てるのに役立つのに」
精霊達に力を貸して貰えれば作物の成長にも役立つと聞き、ジークは何かないかと首を捻る。
そんな便利な物があれば誰も苦労しないと言いたいのか、カルディナは大きなため息を吐き、ジークは自分がおかしな事を言ったと理解しているようで苦笑いを浮かべた。




