第837話
「……来たくなかったんだけどな」
「ジークさん、言っても仕方ないんですから、速く済ませてしまいましょうよ」
「そうなんだけどな……面倒な事になりそうな気しかしないんだよな」
その後、フォルムでの巨大蛇の件は特に進展もなく3日が過ぎたのだが、カインとセスが王都周辺の巨大蛇に有効に使える物はないかと考えたようでまとめたレポートをジークとノエルにライオとの情報交換に行くように指示を出した。
2人は王都の魔術学園に到着したのだが、ジークは乗り気ではないようで眉間にしわを寄せているとノエルは彼の背中を押す。
彼女に急かされてジークは大きく肩を落とすとゆっくりと歩き始める。
「……何をしに来たんだ?」
「今回はフィリム先生に用件は無いです」
王族のライオへの面会と言う事もあり、2人は事務所へと顔を出し、面会の申請をすると2人はしばらく待たされることになった。
顔見知りの職員が2人に紅茶を出してくれているとフィリムが事務所に顔を出す。
2人の顔を見つけて首を捻るフィリムの様子にジークは首を横に振るが、フィリムは何かあるのか2人の前に腰を下ろした。
「どうかしたんですか?」
「お前達が魔術学園に来たと言う事は、何か進展があったのかと思ったんだが……」
「これに興味がおありですか? ……一応はライオ王子に渡してくれって頼まれているんでライオ王子に見せてからです」
ノエルはフィリムの様子に首を捻るとフィリムは2人に持ってきた物を出すように言う。
その様子にノエルはどうしたら良いかわからずに助けを求めるような視線をジークに向ける。
ジークは困ったように頭をかくが、ライオより先にフィリムに見せるのは何か違うと思ったようで首を横に振った。
「……」
「そ、そう言う事でよろしいでしょうか?」
フィリムはジークの言葉で眉間にしわを寄せる。
ジークは彼が怒っていると思ったようで腰を引かせて聞き返すとフィリムは小さく頷いた。
「ジークがフィリム先生に逆らっている。珍しいところに出くわしたかな?」
「別にそう言うわけでもない」
「ここで話し込むと職員に迷惑がかかるから、他の場所にしようか? セスの研究室とかも良いよね」
その時、タイミング良くライオが事務所に顔を出し、3人の様子を見て首を捻る。
ジークは慌てて首を横に振るとライオは職員達に気を使いながらも、先日、自分がいない間に魔術学園を訪れていたジークを責めるように笑う。
「俺達だって、他にやる事があるんだよ」
「そう言う事にしておくよ。フィリム先生もご一緒にどうですか?」
「そうだな」
ジークは頭をかきながら、ライオの相手ばかりしているわけにもいかないと言い、ライオは小さなため息を吐くとフィリムにも声をかける。
フィリムはカインとセスがジークに渡した物に興味があるため、頷くと4人は研究室を出て行く。
「フォルムの土地の成分調査か……」
「後、王都周辺の蛇に効果があるかはわからないけどな」
「これは何?」
ライオの研究室に案内されるとジークはカインとセスから預かったレポートを渡す。
レポートへと緯線を移すライオの姿にノエルは何か思い出したようでジークの服を引っ張る。
彼女の仕草にジークは思いだしたかのように懐から小瓶を取り出してライオの前に置く。
ライオは小瓶の中味に想像がつかないようで小瓶を持ち上げると光にさらし、不思議そうに首を捻った。
「蛇除けの薬。そこに書いてある白い花で作ったんだ。フォルムの方は効果があったけど、この辺に出ている蛇に効果があるかはわからないけどな」
「蛇除けか? ……こんなに少なくて効果があるの? もう少し量がないと使えないじゃないか」
「えーと、わずかでもかなり効果があるようです。材料になったお花よりも効果が広いようですから」
小瓶の中味は蛇除けの薬であるがジークはあくまでも王都周辺に出没する蛇に効果があるかはわからないと言う。
ライオは頷くが量に不満があるようですぐに口を尖らせた。
彼の様子にノエルは苦笑いを浮かべて効果を保障するとライオは興味深く小瓶を見ている。
「見たって何もわからないと思うぞ」
「そうかも知れないけどね……効果が知りたいね」
「……だからと言っても騎士達に迷惑をかけるなよ」
ライオは何か考え付いたようで口元を緩ませるが、ジークはすぐに彼がまた臣下達に迷惑をかける行動をすると思ったようで大きく肩を落とす。
「効果を見ないと使えるかわからないじゃないか」
「それはそうだけど、ライオ王子が使う必要はないだろ」
「仕方ない。魔術学園を通して騎士隊に提出しよう」
ライオは必要な事だと胸を張って言うが、ジークはこのままライオに蛇除けを持たせておけば王都を抜け出しかねないため、彼の手の中から小瓶を取り上げる。
その様子にフィリムは眉間にしわを寄せるとジークの前に手を差し出し、ジークは小瓶をフィリムに渡す。
「効果を確認した後に追加と言う形で報告させるようにしよう」
「そうしてくれるとありがたいです。よろしくお願いします」
ライオは不満げな表情をしているが、フィリムは自分の責任の下で他の研究員に蛇除けについてまとめさせると言う。
フィリムの言葉にジークは頭を下げるとノエルも慌てて続いた。
「かまわん。それより……このレポートは本当だろうな?」
「……俺に言われても困る」
「これが本当なら魔術学園から研究するチームを送っても良いかも知れないな」
フィリムは小さく頷いた後、視線を鋭くしていつの間にかライオの手から取り上げていたレポートを指差して聞く。
ジークはレポート自体には何が書いてあるかわからないため、頭をかくとフィリムは何か考える事があるようで難しい表情をしている。
「人を送っていただけるんですか?」
「セス=コーラッドの調査結果だ。信用は出来ると思うが専門ではないだろうからな。調査する必要があるだろうな。少し待っていろ」
「……相変わらず、マイペースな人だな」
ノエルは驚きの声を上げるが、フィリムは突然立ち上がり、研究室を出て行く。
閉まったドアを見た後、取り残された3人は顔を見合わせるとジークは眉間にしわを寄せてため息を吐いた。