第833話
「……あれだよな。俺ってバカなのかな?」
「いや、知識のない人間に説明する物じゃないと思いますよ」
魔術学園に到着すると顔見知りの職員を見つけてセスの研究室に案内して貰う。
セスの研究室に入るとジークはセスに渡されたメモを覗き込むが、魔法や魔術の知識に乏しいジークはメモと現物が一致しないようでため息を吐く。
ジークより、多少は知識があるのかフォトンは苦笑いを浮かべるとジークからメモを受け取り、セスの依頼した薬品を集め出す。
「ライオが居なくてすんなり行きそうだね」
「……それに関して言えば良かったんだけどな」
「私がいる事に文句がありそうだね」
ライオは巨大蛇の事で魔術学園から外出しており、エルトはセスの研究室にはあまり入った事が無いのか興味深そうに研究室を覗き込んでいる。
ジークはライオがいない事にほっとしたようで苦笑いを浮かべるが、エルトがいつまで経っても王城に帰らないのが気になるようで眉間にしわを寄せた。
彼の反応にエルトは不満そうにため息を吐くがそれ以上の事を言う気はないようで研究室の物へと視線を向けている。
「そう言うわけでも無いけどな。ライオ王子がいつ戻ってくるかわからないし、流石に王都の外には行ってないんだよな?」
「そのような報告は受けてないね。最近はきな臭いから、ライオには絶対に王都の外に出ないように言ってあるけど」
「……ライオ王子だからな」
ジークはエルトが居なくなった時にライオが現れるとうるさい事になるため、頭をかいているとライオが王都から出て行ってしまった可能性が頭をよぎり、険しい表情をして聞く。
エルトもライオが巨大蛇の事を調べに行ってしまっている可能性を捨てきれないようで眉間にしわを寄せるとジークは大きく肩を落とした。
「それより、きな臭いってのはどう言う事だ?」
「えーと……」
「フォトンさんなら問題ないと思うぞ。執事だし」
バーニアはエルトの言った事が気になったようで首を捻るとエルトは口を滑らせてしまったようで困ったように笑う。
その表情にジークはエルトがフォトンに話をして良いのか悩んでいるように見え、ジークはフォトンなら信用できると答える。
「……どんな理由だ」
「いや、なんとなく」
「まぁ、執事は主君の不利益になるような事をばらすような事はしないね」
バーニアはジークの答えに呆れたように肩を落とすとジークはバツが悪そうに視線をそらす。
彼の反応にフォトンなんと言って良いのかわからないようで気恥ずかしそうに笑い、エルトはジークとフォトンの様子にくすりと笑う。
「良いのかよ」
「そうだね。ジークがフォトンを信用しているなら、私は全面的に信用するよ」
「エルト様はジークを信用しているんですね」
ジークはエルトの反応に小さなため息を吐くとエルトは真剣な面持ちで答える。
フォトンは2人の中に絆を感じたようで表情を和らげた。
「信用じゃなく、信頼かな?」
「……バカな事を言ってないで続きを話せよ」
「そうだね。ジークはアノスのお披露目パーティーの事は覚えているかい?」
エルトはイタズラな笑みを浮かべて言うとジークは照れくさいのか頭をかいて先に進めと言う。
その言葉にエルトは頷くと真剣な表情をしてアノスが騎士に任命された時の事を聞く。
「……そんな物もあったな」
「思い出したくない感じ?」
「と言うか、ああ言う窮屈な場所はなれないから、思い出したくない」
ジークは眉間にしわを寄せると参加していなかったエルトは何かあったのかと首を捻る。
なれない場所だったためか、ジークは気疲れしたと言いたいようで大きく肩を落とすとエルトはくすくすと笑う。
「……それがどうしたんだよ?」
「あの時、ライオがガートランド商会の人間と揉めたのは覚えているね?」
「そんな事もあったな。王都で基盤を広めようとするなら王族の顔くらい覚えておけば良いのにな」
エルトの反応にジークはムッとした表情をする。
ジークの様子にエルトは苦笑いを浮かべるとガートランド商会の人間がライオを王族だと気づかずに揉めた事に付いて聞く。
その時の事を思いだしたようでジークは首を捻るとガートランド商会の人間のバカさ加減を思い出してため息を吐いた。
「その通りだね」
「それが何の関係があるんだ?」
「ライオ王子はあの時からガートランド商会の基盤作りに反対しているからな。俺達、個人でやっている小さな店は大助かりだ」
マヌケなガートランド商会の人間にエルトは苦笑いを浮かべるとジークは話の内容がつかめないようで首を捻る。
ライオとガートランド商会の対立はあの後も続いているようでバーニアはライオがガートランド商会の王都での基盤作りを邪魔している事を話す。
「そんな事をして大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないからきな臭いって言っているんだよ。私は商店街や昔から懇意にしている他の商会を保護したいからライオの意見を師事しているけど、ガートランド商会から裏でお金を貰っている人間は面白くないだろうね」
「ライオ王子はそれについて知っているのか?」
ジークはライオの事を心配しているようで眉間にしわを寄せて聞くとエルトは大きく肩を落とした。
エルトの耳にもガートランド商会の悪評は届いているため、眉間に深いしわを寄せるとジークはライオが自分の命が狙われている事を知っているのかと聞く。
「知っているとは思うよ。ライオはそこまでバカじゃないからね」
「知っているなら、無茶はしないよな? ……ダメだ。無茶しかしない気がする」
「だ、だよね」
エルトが疑問に答えるとジークは安心したようで胸をなで下ろすがすぐに考えを改めてようで眉間にしわを寄せる。
エルトもライオの性格を知っているためか顔を引きつらせた。
「大丈夫か?」
「叔父上も父上も状況は理解しているからライオの警護には人をつけていると思うから大丈夫だとは思うけど」
「……不安が残る答えだな」
バーニアはライオの身の安全に不安を感じたようで眉間にしわを寄せるとエルトはライオの警護には気を使っていると答える。
ジークはライオのおかしな行動力が気になるようで眉間のしわはさらに深くなって行き、エルトとバーニアは彼の言葉に大きく頷き、フォトンはライオと面識がないため首を傾げた。