第832話
「フォルムでも巨大蛇が発生しているわけか。それは困ったね」
「ライオ王子には話してあるけどな。聞いてないか?」
ジークは諦めたようでエルトにフォルムの状況を話す。
国内で広い範囲で巨大蛇が見られている事にエルトは険しい表情をするとジークはライオから聞いていないのかと聞く。
「聞いてないね。だけど、ずいぶんと広い範囲で被害があるって事は速く対策を打たないといけないね」
「それに関して言えば、フォルムの方は定期的な物なので王都の方とは原因が異なると思います」
「そう……」
エルトは首を横に振るとハイム全体の問題だと考えたようで険しい表情のままであり、フォトンは王都周辺とは状況が異なる事を伝える。
その言葉でエルトは表情を戻すとジークは考えたのだが、エルトの表情は元に戻る事はない。
「……言っておくけど、フォルムには連れて行かないぞ。エルト王子は自分の仕事をしてくれ」
「ジークは私を疑いすぎだよ。今は王都を離れている余裕はないんだよ。シュミットもいないから大変なんだよ」
「それだけの事をされてきたからな」
エルトの表情にジークは彼がフォルムに連れて行けと言う前に釘を刺すがエルトは言いがかりだと言いたいのか大袈裟に肩を落とす。
それでもジークはエルトへ向けた疑いの視線を止める事はなく、運ばれてきた紅茶へと手を伸ばした。
「……確かに飲みなれた味に近いな」
「そうですね。これなら、皆さん、喜ばれますね」
「フィーナだけは王都で買ってきたなら、もっと高価な物を買って来いって言うだろうけどな」
紅茶の味を確認すると飲みなれた物と近く、ジークは小さく頷く。
ジークに続き、フォトンは感想を言うがバーニアはフィーナからは文句が出ると思っているようで眉間にしわを寄せた。
「それに関して言えば問題ない。あいつは味がわからないし、飲めればなんでも良い」
「そうか。それなら良いな」
「美味しいね。バーニア、この葉を教えてくれるかな?」
ジークはフィーナには紅茶の種類などわからないと言うとその言葉にバーニアとフォトンは苦笑いを浮かべる。
3人に遅れて紅茶を口に運ぶエルトはお気に入りのジークの紅茶と味が似ているためか、この葉に興味を示したようでバーニアに聞く。
「良いのか? さっきのと比べるとかなりの安物だぞ」
「良いよ。こういうのは好みの問題だし。本当はジークが葉をくれたら良いんだけど」
「やれたら、買いに来ないから」
バーニアはエルトが購入する物ではないと首を捻るがエルトは気にした様子はなく、ジークへと視線を向ける。
ジオスが襲われた事はエルトに話す事ではないとジークは考えているようでため息を吐くとエルトは彼の反応に何かを感じたのか視線を鋭くした。
「何かあったのかい?」
「別に飲む人間が多くなりすぎて収穫する前に底をついただけだ。元々、俺1人で飲んでいた物だからな」
「確かにそうだね」
エルトはジークの様子に真剣な面持ちで聞くが、ジークは単純に紅茶の葉が無くなっただけだとため息を吐く。
ジークが畑で自分の分だけを育てていた事はエルトも知っているためか、それ以上の追及をする事はないが何か感じ取っているようでその表情は険しい。
「それじゃあ、そろそろ行っても良いか? 俺達はこれから魔術学園にもいかないといけないし」
「そうだね。それじゃあ、行こうか」
「……いや、王城に戻れよ」
ジークはエルトと話をしているといつまでも目的が達成できないと思ったようで紅茶を飲み干すと席を立つ。
その言葉にバーニアとフォトンは頷き立ち上がるが、なぜかエルトも付いてくる気のようで3人に続いて立ち上がる。
「目的は魔術学園なんだろう。魔術学園でライオに見つかると面倒な事になりそうだから、ライオは私が引き受けるよ」
「そうしてくれると助かるけど……裏がないか?」
「疑り深いね」
エルトはライオ対策に協力してくれる気のようだがジークは彼の日頃の行動から信じられないようで疑いの視線を向けた。
その様子にエルトは小さく肩を落とすと店員に声をかけ、会計を済ませてしまう。
「あ……」
「気にしないで、良い紅茶も教えて貰ったしね。だけど、カインもお気に入りの紅茶があるなら教えてくれても良いのにね」
「値段を見るとエルト様のような方が好むとは思えなかったのではないでしょうか?」
バーニアは自分が注文した分もエルトに支払わせてしまった事にバツが悪そうな表情をするとエルトは気にする必要がないと笑うがすぐにカインへの不満が漏れる。
彼の様子にフォトンはカインなりに気を使っていたのではないかと苦笑いを浮かべた。
「気にする必要はないのにね。高価な物が好みに合うとは限らないんだから」
「悪かったな。安物しか出せなくて」
「誰もジークをバカにしてはいないよ」
4人は店を出るとエルトは人それぞれに好みがあると言いたいようでため息を吐く。
その言葉にジークはバカにされたような気がしたようでムッとしたような表情をするとエルトは苦笑いを浮かべる。
「……」
「どうした?」
「いえ、私が見ていたジークはもう少し大人と言うか落ち着いたイメージがありましたから」
ジークとエルトの様子にフォトンは少し驚いたような表情をしていると、バーニアは彼の肩を叩く。
フォトンは表情を引き締めるとジークの見せる表情が自分の持っている印象と異なると漏らす。
「フォルムだとジークはノエルやフィーナがいる分、仲介役やまとめ役に回る事が多いからな。今回は年上ばかりだし」
「確かにそうかも知れませんが……」
「後、カインの嫁も子供なところがあるから、ジークが苦労している。カインがからかいすぎるところも原因だけどな」
その言葉にバーニアは苦笑いを浮かべるとジークの置かれた状況を説明する。
フォトンは先日、ジークと話をするようになったのだが、元領主の屋敷では彼の事を見かけており、バーニアの言う通りだと思ったのか小さく表情を緩ませるとバーニアは楽しそうに笑う。
カインとセスの距離感はフォトンにはなんと言って良いのかわからないようで眉間にしわを寄せた。