第826話
「こんな少しの差で何か変わる?」
「それは調べてみないとわかりませんよ」
白い花の生息地に付いたジーク達はフォトンの指示でサンプルの採取を始める。
フィーナは意味がわからないため、フォトンの手元を覗き込むと不満を隠す事無く文句を言い、彼女の様子にフォトンは苦笑いを浮かべた。
「これだけ集めると……セスさん達、また徹夜になるんじゃないのか?」
「そうかも知れませんね。ですが、フォルムの地が豊かになる可能性があるのなら2、3日の徹夜くらいどうって事はありません」
ジークは集め終わったサンプルの1つを覗き込むと昨晩、フォトン達に徹夜をさせてしまったのが申し訳ないようで首を捻る。
フォトンは徹夜になるかも知れないとは思いながらもフォルムの地が豊かになるのは長年、この地に住み続けていた者達の悲願であるため、頑張れると笑う。
「フォトンさん、少し休んでいてくれよ。俺がやるから、この花があるところは蛇には襲われないし、少しは休めるぞ」
「そうかも知れませんが、他の方も休めていないんですから、私1人が休むわけにはいきません」
「そうは言っても、眠いと集中力も落ちるからな。セスさん達だって休んでいるだろ。フォトンさんはここまで来るために体力を使っているんだ」
ジークはフォトンの顔色を見て、少し休ませた方が良いと考えたようで彼に休んではどうかと聞く。
フォトンはジークの言葉がありがたかったようで笑顔を見せるが、すぐに表情を引き締めてサンプル集めを再開する。
ジークはそれでも休んだ方が良いと思っているようで状況を理解して欲しいと言う。
「休めるなら休んだ方が良いんじゃない? 何なら強制的に休ませる方法もあるわよ」
「……フォトン、休みなさい。命にかかわりますよ」
「だから、俺の栄養剤は毒じゃない」
フィーナは自分がサボりたいせいか、フォトンも同じだと思っているようで休めば良いとため息を吐いた。
彼女の言葉にシーマはイヤな予感がしたようでフォトンに素直に従うべきだと言い、ジークはまたも2人が自分の栄養剤を毒扱いしている事に気が付き、大きなため息を吐く。
「大差ないわよ」
「そうですね」
「……噂に聞くジークさんの栄養剤ですか」
フィーナとシーマは首を大きく横に振るとフォトンの耳にも栄養剤の事は耳に届いているようで眉間にしわを寄せた。
3人の様子にジークは納得が行かない表情をしているが手を止めるわけにもいかないようでサンプルの集めを続けて行く。
「フォトン、休んでいなさい。動けなくなっては困ります」
「わかりました」
シーマは栄養剤でフォトンが気を失っては困るため、そうならないように休んでいろと言う。
2人の様子から栄養剤の危険性を理解したフォトンは素直に頷くと白い花の中に座る。
「とりあえず、サンプル集めでも続けましょうか。フィーナはフォトンの警護をお願いします」
「良いの?」
「……お前は役に立たないからな」
フォトンが座った様子を見て、シーマはフィーナに指示を出す。
休んで良いと言われたフィーナは嬉しそうな表情をするが、それをジークは事実上の戦力外通知に聞こえたようで小さくため息を吐いた。
「ジーク、何か言った?」
「別にそれより、お前の仕事はフォトンさんの警護なんだからな。昨日みたいな余計な事をするなよ」
「問題ないわよ。今日はあの性悪はセスさんに捕まっているんだから」
ジークのつぶやきはフィーナには内容は聞き取れなかったようだが、バカにされた事は解ったようで視線に殺気を込めて聞く。
その殺気をジークは軽くかわすと彼女をいさめるようにカインの使い魔がどこかで見ている可能性を示唆する。
フィーナはカインが使い魔を出すヒマをセスが与えなかった事を見ており、今日は安全だと言いたいようで胸を張った。
「そうだと良いな」
「……ですね。あの性悪の最も注意するべき点は情報収集能力の高さですから」
「それを瞬時に処理する能力もありますからね」
彼女の様子にジークはカインの事だからわからないと言いたいのかため息を吐く。
シーマはジークの言葉に同感だと言いたいのか眉間に深いしわを寄せて頷いた。
彼女の言葉にジークは苦笑いを浮かべると2人はサンプル集めを再開する。
「……」
「シーマさん、何か思い出しましたか?」
「いえ、特には」
しばらく、サンプル集めを続けているとシーマはふと手を止めて白い花を眺めている。
その様子にジークは何か感じたようで手を止めて、彼女に声をかけるとシーマは首を横に振った。
「そうですか」
「だいたい、思い出すも何も私はフォルムの森の中にこのような場所があった事すら忘れていたのですから、話も誰に聞いたかわかりません」
ジークは残念だと言いたいようで苦笑いを浮かべるとシーマは少しだけ寂しげに笑う。
それは実の父親の愛を直接受ける事の出来なかったシーマの弱い部分に見えたのかジークはなんと声をかけて良いのかわからずに困ったと頭をかく。
「別に気にする必要はありません。だいたい、あなたに何かを言われても屈辱でしかありません」
「すいません。俺もかける言葉がありません。正直、うちの住所不定無職も似たような物ですから、むしろ、性質が悪そうなのはうちの方だから」
「……確かにそうですね」
シーマは不機嫌そうな表情でジークに心配される筋合いはないと言う。
彼女の言葉にジークは苦笑いを浮かべると自分の両親を小バカにするとシーマもトリスとルミナの事は聞いているようで眉間にしわを寄せた。
「とりあえずはこれが何のために植えられたかは後にしませんかそう言う難しい事はカインとセスさんがやってくれますよ。無駄な情報収集能力とずる賢い頭で」
「そうですね。他人に仕事を押し付けているんですから、あの性悪にも働いて貰わなければいけませんね」
「そういう事ですよ。と言う事でサンプル集めを終わらせて戻りましょう。時間をかけすぎるとフォトンさんが寝てしまうかも知れませんし」
ジークは苦笑いを浮かべたまま、自分達は自分達の仕事をしようと言う。
シーマはその言葉に頷くとジークはフォトンに無理をさせられないと言い、こちらを見ているフォトンを指差す。
フォトンはジークから指差されて気まずそうに視線をそらすとシーマはその様子に呆れたようにため息を吐くとジークの言葉に頷き、作業を続けて行く。