第825話
「……大丈夫なのですか?」
「ジークもフォトンさんもいるし、大丈夫じゃないかな?」
元領主のカインの書斎にセスが昨晩の調査結果を持ってくる。
セスの几帳面な性格の出た研究結果にカインが目を通しているとセスは眠そうな表情をしているがそれ以上にジーク達が心配のようで不安を漏らした。
しかし、カインはまったく心配していないようで研究結果から目を放す事はない。
「……無責任すぎませんか?」
「そんな事はないよ。フィーナは少し心配だけど、シーマさんは文句を言いながらでもしっかりとやってくれるよ」
「そうでしょうか?」
カインの様子にセスは眉間に深いしわを寄せて言うが、カインはシーマへの信頼だと笑う。
セスは普段のシーマの様子からカインほど信用できないようで険しい表所をしており、カインは1度、研究結果から目を放すと真面目な表情をしてセスへと視線を向けた。
彼の真剣な表情にセスは一瞬息を飲むがまだ彼女の適正に疑問を持っているようで首を捻っている。
「そこまで責任感がない人間だったら領主にしようなんて考えないよ。フォルムに連れ帰ってきたのは適性も見たかったからだからね。俺はジーク達と違ってそんなに優しくないから、使えないと思ったらシュミット様に引き渡す事も考えていたからね」
「そうですか……一先ずは合格点を上げられたと言う事ですね」
「まだ、適性検査中かな? テッド先生やフォトンさん、フォルムの皆が支えてもくれているからね。他人に期待されると頑張っちゃうだろう」
カインは時には冷たく判断する事も必要だと考えているようで領主に不適合ならばルッケルでのエルト暗殺未遂の犯人一味として処罰する事も考えていたと告げた。
セスはその言葉に背中に冷たい物が伝ったようだが、カインがシーマを重用している様子に少しほっとしたようで胸をなで下ろすとカインはくすりと笑う。
「わからない事は無いですが……期待に答えてくれれば良いんですけど、後は頑張りすぎてしまわなければ良いんですけど」
「そうだね。セスも頑張りすぎるから……心配なら、使い魔を飛ばそうか?」
「ダメです。そう言って何度も逃げられてはたまりません」
セスは他人の期待に答えようとする気持ちが悪い方向に進んでしまうのが心配のようで眉間にしわを寄せた。
カインは他人の期待に答えようと頑張りすぎるのはセスだと言いたいようで穏やかな声で彼女に声をかけるとセスは恥ずかしくなったのかそっぽを向いてしまう。
彼女の機嫌を損ねさせてはいけないと思ったのかカインは少し考えるようなそぶりをすると使い魔をジーク達の下に向けようと提案する。
その言葉にセスはそんな事をさせるわけにはいかないと書斎の机を両手で叩く。
「冗談だよ。それにさっきも言ったけどフォトンさんもいるしね。後はシーマさんにも少しはフィーナの扱い方を覚えて貰わないと困るし、ワームの件が落ち着いたらゼイ達も戻ってくるからね。フィーナで少しはなれて貰わないと」
「……シーマさん、胃が痛くならなければ良いですけど」
「ゼイは自由気ままだからね」
カインはフィーナと組ませる事でシーマの指揮能力の向上を考えているようだが、セスはその言葉に眉間に深いしわを寄せた。
自由気ままなゼイをセスは苦手にしているようで胃の辺りを手でさするとカインもゼイを少し苦手にしているためか苦笑いを浮かべる。
「とりあえずは少し任せてみようと思うよ。ジークやフィーナにも成長して貰わないと困るしね」
「……他にも何か企んでいるのですか?」
「企んでいるってわけじゃないよ。このままいけば、昨日まで敵として向き合っていた人間とも次の日には肩を並べて戦わなければいけない事だってあり得るからね。もう少し柔軟になって貰おうと思ってね」
カインは1つ咳をした後、今回のメンバー編成はシーマだけではなく、ジークとフィーナの成長のためだと言う。
その言葉にセスはまたカインが何かを企んでいると思ったようで疑いの視線を向けた。
彼女の視線にカインは苦笑いを浮かべると2人がいろいろな場面に巻き込まれる事があるため、成長して欲しいと笑った。
「柔軟ですか……ジークは大丈夫だと思いますけどフィーナが」
「我が妹ながら情けないとは思うね。だけど、ジークもあれで強情だからもしかしたらフィーナより、その時は酷いかも知れないよ」
「ジークがそんな事はありま……そうですね」
セスはフィーナの顔を思い浮かべて大きく肩を落とすとカインは彼女の考えた事に苦笑いを浮かべつつも本当に心配しているのはジークの方だと告げる。
その言葉をセスは否定しようとするが、すぐにジークが意固地になる場合を思いだしたようで眉間に深いしわを寄せた。
「思い出してくれて嬉しいよ」
「……忘れてはいましたが、確かにそこは問題ですね。ジークの場合はご両親が関わってくると途端に不機嫌になりますからね」
「リアーナの話だと2人はザガードに居る。国境近くのフォルムに顔を出す可能性は高いよ。それに強力な戦力だからね。情にでも訴えて味方に引き入れられるなら、味方に引き込みたいね」
セスは大きく肩を落とすとカインは2人をハイム国の戦力にしたいと考えていると笑う。
その言葉は冷静に戦力増強を考えているようにも見えるが、彼なりのジークへの配慮であるのはセスにはバレバレであり、彼女は呆れたようなため息を吐いた。
「何?」
「もう少し、言葉を選んではどうですか? ジークがこの場に居ないんですから、何も言いませんよ」
「いや、セスなら俺の言葉を読み取ってくれるから、楽で良いね」
彼女のため息にカインは小さく首を傾げるとセスはもっと素直な言葉で話せと言う。
その言葉にカインは気恥ずかしそうに笑うと誤魔化すようにセスを誉める。
「確かにジークもその件に関しては心配ですけど、あなたがそこまで考えなくても大丈夫ですよ。ジークの側には多くの人間がいるんですから、いつまでもジオスに閉じこもっていたままではありません」
「そうかも知れないね」
セスはカインが過保護だと言いたいようで小さくため息を吐くとカインも自覚があるようで頭をかいた。