第824話
「……大丈夫なのよね?」
「俺に聞くなよ……だいたい、あれはお前が大声を上げたからだろ」
「フォトンさんって、体力は大丈夫なの? 昨日は階段から落ちていたけど」
フォトンを加えてジーク達は白い花の生息地に向かう。
途中でレインと挨拶を交わし、森の中を進むとフィーナは昨晩、階段から落ちたフォトンの運動神経が気になるようで先頭を歩いているジークの服を引っ張る。
ジークはフォトンが階段から落ちた原因はフィーナにあると言うとその時の事をフォトンに知られたくない彼女は彼の言葉をさえぎってフォトンに声をかけた。
彼女の行動にジークは呆れたようにため息を吐くが肉食獣との戦闘になった時の対応のためにも聞いておく必要があると考えたようで後ろを振り向く。
「……なぜ、そのような事を?」
「森の中を進むんだから、気にしないといけないでしょ。途中で力尽きられたりしたら大変なんだから」
「確かにそうかも知れませんね……」
フォトンは彼女の質問の意味がわからないようで怪訝そうな表情をするとフィーナは他意などないと言う。
彼女の言葉には一理あると考えたようだがフィーナが嘘を吐いている可能性を考えたのか、フォトンはジークへと視線を向ける。
視線に気が付いたジークは苦笑いを浮かべてしまい、フォトンの表情は険しくなって行く。
「悪い他意はない……珍しく、フィーナがまともな事を言ったから」
「それっどういう意味よ?」
「そのままだろ。それでどうなんだ? 巨大蛇以外にもいろいろと出てくるし、戦闘になったら、協力もしないといけないだろうし」
フォトンの表情の変化にジークは頭を下げた後、フォトンを笑ったわけではないと言うとフィーナを小ばかにする。
その言葉にフィーナは額に青筋を浮かべるが、ジークは気にする事無く話を続けて行く。
「そうですね……」
「何?」
「何でもありません」
ジークの言葉に嘘はないと思ったようでフォトンは頷いた後、シーマへと視線を向けた。
シーマはフォトンの同行に納得をしていないようでむすっとした表情で視線の意味を聞く。
彼女の様子にフォトンは小さくため息を吐くとジークとフィーナの質問に答えようとしたようで視線を戻す。
「執事の務めとして武術も魔法もわずかながらですが修めさせていただいています。皆さんにはどれ1つも敵わないとは思います」
「なんか中途半端ね」
「でも、どっちもできる人間は貴重だろ。カインは両方できるくせに戦闘になると後ろに下がりたがるからな」
フォトンは得意な戦闘技能がないようで情けないと言いたいのか困ったように笑う。
それをフィーナは中途半端だと考えたのかつまらないと言いたげに頬を尖らせるが、ジークは彼女とは正反対の評価をしたようである。
「ジーク、待ってよ。階段から落ちるような鈍い人よ。簡単に信じて良いの? 邪魔になるかも知れないのよ?」
「あれに関して言えば油断していました。何か大きな音がしてそれに気を取られて階段を踏み外してしまいました。しかし、あれは何の音だったんでしょう? お2人は聞こえませんでしたか? もしかしたら不審な人物がいた可能性もあると思うんです」
「……知らないわ。ジークも聞こえなかったわよね?」
フィーナは口だけでは信用できないと言いたいようでフォトンを指差しながら言う。
ジークは苦笑いを浮かべるとフォトンは階段から落ちた時の様子をあれから考えていたようでジークとフィーナにあの時の状況を聞く。
フォトンの疑問はフィーナには触れて欲しくない事であり、フィーナはフォトンから視線をそらすとジークにおかしな事を言うなと言いたいのか殺気を込めて睨み付ける。
「特に聞こえなかったな。それじゃあ、頼りにさせて貰う……それに正直、このメンバーは不安だし、フォトンさんがいてくれて俺は安心している」
「……申し訳ありません。迷惑をおかけしています」
「いや、お互い様だし、こちらこそ、本当に申し訳ない」
ジークはフィーナの手前、正直に話すわけにもいかないようで苦笑いを浮かべた後、表情を引き締めて、フォトンによろしく頼むと頭を下げる。
彼はフィーナとシーマと言う直情的な2人に挟まれるのは勘弁したかったようでフォトンが同行してくれるのはありがたく、フォトンもジークが何を考えているかわかったようで顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
2人の様子にフィーナとシーマはバカにされているのが理解できたようで険しい表情をする。
「それじゃあ、行くか?」
「そうね……だけど」
「何するんだよ?」
ジークはあまり時間もかけられないため、先に進むと言うとフィーナは頷くがやはり納得が行かなかったようでジークの足を蹴ろうとする。
彼女の行動をジークは察したようで蹴りを交わし、フィーナを睨み付けるが彼女は頬を膨らませて先を進んで行く。
「……まったく、あいつは」
「ジーク、行きましょう。放って置くのは危ない気がします……何ですか?」
「いや、シーマさんの口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったから」
フィーナの背中にジークはため息を吐くとシーマから後を追おうと言う言葉が出る。
その言葉にジークは驚いたような表情をし、シーマは彼の表情を見て眉間にしわを寄せて聞く。
ジークは苦笑いを浮かべると素直にシーマがそんな事を言うと思っていなかったと言う。
「……それは悪かったですね。ただ、あのまま、あの性悪に好き勝手に言われるのは我慢できませんから」
「そうですか? それなら行きましょうか? あいつの場合、道も覚えてなさそうだしな」
「あり得ますね。まったく、兄妹でどうしてここまで違うんでしょう? ……まあ、どちらも頭にきますが」
シーマは不満そうな表情をするが、先日、カインに良いように言われた事が我慢できないようで冷静に状況を把握しようとしている。
ジークは彼女の言葉を信じようと思ったようで頷くとこのままだとフィーナが迷子になる可能性もあるため、シーマとフォトンに声をかけた。
シーマはその言葉に文句を言いながらも頷くと3人はフィーナの後を追いかけて進む。




