第822話
「……何ですか?」
「朝から威嚇される意味がわからないね。とりあえず、座っていてよ。もう少しで用意ができるから」
「起きたんだ。ヒマならノエルを起こしてきてよ」
フィーナはしぶしぶカインと一緒に朝食を作っていると昨晩、お酒に潰れてしまったシーマが居間に現れた。
タイミングが悪かったのかカインが朝食をテーブルに並べており、シーマはカインを見るなり、威嚇するように言う。
彼女の様子にカインは小さくため息を吐くと彼女に座っているように言うが、フィーナが彼女を見つけてノエルを起こしてくるように命令する。
「私が?」
「他に誰がいるのよ? ミレットさんはセスさん達の朝食を作りに行っちゃったし、私は朝食の準備中、レインを行かせるわけにもいかないでしょ」
「ですね。お願いできませんか?」
シーマは怪訝そうな表情で聞き返すとフィーナは他に人がいないんだから動けと言う。
レインは女性の部屋に入るわけにも行かないと思っているため、苦笑いを浮かべるとシーマに向かい頭を下げた。
「……仕方ないですわね」
「自分で頼んどいてなんだけど、良くやる気になったわね」
「一応は想い人の娘だからね。外堀から埋めて行こうとしているんじゃないかな?」
シーマは少し考えるとため息を吐いた後、居間を出て行く。
フィーナは頼んだものの、行くとは思っていなかったようで少しだけ驚いたような表情をするとカインは苦笑いを浮かべる。
「……下心あり」
「仕方ないんじゃないですかね? それより、ノエルさんならフィーナさんが起こして来たら良かったんじゃないですか?」
「声をかけても身体を揺すっても起きなかったのよ。本当にお酒に弱いわね」
居間からシーマの背中が見えなくなるとフィーナはカインの言葉に大きなため息を吐いた。
レインは苦笑いを浮かべると、フィーナがノエルを起こしてこなかった事が気になったようで首を捻る。
彼の言葉にフィーナはベッドの中のノエルの様子を思いだしたようで大袈裟に肩を落とす。
「まあ、お酒に強くなる必要なんて全くないからね」
「いえ、カインはもう少し強くなって貰わないと困ります」
「絶対に飲まないから大丈夫だよ」
ノエルがお酒に弱いのは3人も知っており、彼女が起きてこない理由がわかっているためか、自分もお酒に弱いカインはお酒自体を否定した。
彼の立場ではお酒の席に出ないといけない事も多くなるため、レインは大きく肩を落とすがカインは笑顔で彼の言葉を否定し、その笑顔には有無を言わせない圧力がある。
「とりあえず、朝食の準備を終わらせるわよ」
「そうだね……フィーナ、ノエルは朝食を食べられると思う?」
「無理かも知れないわ」
フィーナは笑顔の圧力から逃げ出すためにカインに声をかけるとカインは頷くがノエルの体調が気になったようで首を捻った。
彼の言葉にフィーナは眉間にしわを寄せるとカインはノエルのために何か食べやすい物でも作ろうと思ったようで首を傾げながらキッチンに向かって歩き出す。
「……お、おはようございます」
「つらそうね」
「とりあえず、水でも飲むかい?」
朝食の準備を終えて、しばらくすると青白い顔をしたノエルと疲れた表情のシーマが戻ってくる。
ノエルは今にも消え去りそうな声であいさつをすると彼女の様子にフィーナは苦笑いを浮かべた。
ノエルが二日酔いなのは明らかであり、気持ちのわかるカインは彼女を気づかうように水を渡す。
「……ありがとうございます」
「いってらっしゃい」
「今日のノエルは無理そうかな?」
ノエルは水を受け取る物の胃の中から、昨晩のお酒が逆流してきたようで口を押えると走って居間を出て行く。
フィーナは彼女の背中に苦笑いを浮かべながら見送るが返事はなく、カインは苦笑いを浮かべると視線でシーマに座るように勧める。
シーマは視線に気が付いたようで席に座った。
「昨晩は話ができませんでしたが、何の用ですか?」
「一応は俺、領主なんだよね。立場的には主なんだけど」
「私は別にあなたの臣下と言うわけではありませんわ」
ノエルを待っていても仕方ないと判断した4人は朝食を食べ始めるのだが、シーマは昨晩、屋敷に呼ばれた理由について聞く。
その物言いは高圧的であり、カインは小さくため息を吐くとシーマはカインに言われる事ではないと舌打ちをする。
「そうかも知れないけどさ」
「どうでも良いでしょ。それより、早くしないと他の仕事があるんじゃないの? また、セスさんのお説教に巻き込まれるのはイヤよ」
「……そうですね」
カインはそれでも少しは気にして欲しいようで困ったように頭をかくと朝食を頬張りながらフィーナは用件を終わらせろと言う。
彼女の言葉で居間は微妙な沈黙状態になり、シーマは頷いた。
彼女の様子からもセスのお説教を避けたいのは解り、カインとレインは顔を見合わせて苦笑いをするとシーマは不機嫌そうにそっぽを向く。
「それじゃあ、食事をしながらで悪いけど……」
シーマの様子にカインは1つ咳をすると森の中に生息していた白い花の事を説明し始めた。
その説明にシーマは聞いた事もある話があるのか首を捻りながら聞いている。
「……蛇除けの白い花ですか?」
「心当たりがあるの?」
「蛇除けに使っていたとは聞いていませんが、お爺様がお婆様のために植えたと言うのを聞いた事があるような。ないような」
シーマの反応を見て、フィーナはもったいぶらずに話せと言う。
彼女の言葉にシーマはあいまいな記憶のため、自信が無い上に白い花が役に立つかわからない事もあり、首を捻っている。
「とりあえずは何か思い出したら教えてくれないかな? フォルムのために使えそうな気がするから」
「わかりました。思い出せるかはわかりませんけどね」
「まぁ、俺の方もいろいろと調べてみるから、何か思い出したら頼むよ。後、今日は一応、その場所を確認しに行ってくれるかな? ジークとフィーナを付けるから、レインはシーマに代わって森探索の指示ね」
カインは今日のシーマの予定を決めると彼女はメンバーに不満げだが、文句を言っても仕方ないと思ったようで小さく頷いた。




