第820話
「そうですか」
「俺達も気を付けるよ」
「そうしていただけると助かります」
ミレットは自分がお酒を勧めた事もあり、少しだけバツが悪そうな表情をした後に苦笑いを浮かべる。
ジークは彼女の表情に苦笑いを浮かべてシーマにお酒を出す時は気を付けると言い、フォトンはテーブルに手を付いて深々と頭を下げた。
「しかし、ラミア族は酒に弱いのか。それなら、この間のバカ騒ぎも頷けるな」
「……そういう事です。皆さん、弱いのにお酒は大好きなので収集が付かなくなってしまいました」
「中には自制できる人も居るんだよな?」
ジークは夜中にバカ騒ぎをした時の事を思い出して大きく肩を落とすとフォトンも同じ事を思ったようで力なく笑う。
彼の様子にジークは確認するように聞き、フォトンは小さく頷く。
「それを聞いて安心しました」
「どうかしましたか?」
「いえ、フォトンさんは大丈夫な方なんですか?」
ミレットは胸をなで下ろすものの、疑問がよぎったようで首を捻った。
彼女の様子に気が付き、フォトンが聞き返すとミレットはお酒にフォトンが弱いのかと聞く。
「私かなり血が薄くなっていますから、そこまで弱くありません。それに私の場合は昔から言い聞かせられていましたので」
「……なんと言うか、厄介な一族だったんだな」
「そうですね。それでもシーマ様のお父上は弱点として理解してくださっていたのですが……その後が」
フォトンは執事の家系と言う事もあり、自制する事を心掛けているようで苦笑いを浮かべる。
ジークは苦笑いを浮かべるとフォトンは先々代の領主の事を尊敬していたようで興奮した様子で答えるが、すぐにシーマの義兄の事を思いだしたようで眉間には深いしわが寄った。
「先代は頭が悪かったんだよな?」
「頭は悪くはありませんでした。ただ、自分の事しか考えないような方でしたので他人の上に立つ人物では」
「仕える価値は見出せませんでしたか?」
ジークは先代領主の悪評を聞いているせいか、困ったように頭をかくとフォトンは言葉を濁すが彼の目から見ても先代領主は最悪だったようである。
ミレットは彼の様子に苦笑いを浮かべるとフォトンは小さく頷いた。
「フォトンさんはシーマさんを立派な領主にする事ができると思いますか?」
「……難しいだろ」
「ジーク」
ミレットは小さく笑みを浮かべるとフォトンの目から見てシーマはどう映っているかと聞く。
ジークはカインやセスがシーマをフォルムの領主に戻したい事はしているが感情的な彼女を領主にするのは不安のようで小さくため息を吐いた。
その言葉はミレットの耳にはしっかりと届いており、ジークを責めるように視線を向けるとジークは気まずそうに視線をそらすと逃げるように火にかけている鍋を見に行く。
「どういう意味でしょうか?」
「そのままです。カインとセスさんはシーマさんを領主にしたいようですが、フォトンさんの目にはどう映っているのかと思いまして」
「……そうですね」
フォトンは怪訝そうな表情で聞き返すとミレットは純粋な興味だと笑う。
その言葉にフォトンは真意を探ろうと鋭い視線を向けるが、彼女はその視線に怯む事無く柔和な笑みを浮かべている。
「正直なところ、現状では難しいと思っています。カイン様やセスさんが将来性を見込んでくれているのはありがたいのですが……それに、カイン様もセスさんも私から見て優秀ですが年下に心配されるのはどうなのかなと」
「あの2人は文官としての将来を見据えて勉強してきましたから、比較するのは違うと思いますよ」
「そうかも知れませんが、もう少し期待に答えて欲しいとは思います」
フォトンは執事として将来を期待したいようだが、シーマ以上に彼の目にはカインやセスの優秀さが際立っているようであり、大きく肩を落とす。
ミレットは2人の進んできた道とシーマが進んできた道は違うと言い、シーマをフォローするとフォトンは首を横に振る。
「先代が悪政を敷いた時に民を先導して欲しかったとでも言いますか?」
「そういうわけではありません。跡目争いが起きていれば多くの民の命が失われましたから、それは誰も望んでいなかったと思います」
「セスさん、もう少し待っていてくださいね。すぐに準備しますから」
その時、キッチンのドアが開き、難しい表情をしたセスが入ってくる。
彼女は無駄な血が流れなかった事が良かったと思っているようで険しい表情のまま、フォトン聞くと彼は慌てて首を横に振った。
セスの表情にミレットは苦笑いを浮かべると逃げるようにジークの隣に移動し、彼の手を肘で突く。
「セスさん、お茶でもどうですか?」
「そうですね。いただきます……」
ジークはミレットが何をしたいのかすぐに理解するとセスの前に紅茶を置いた。
セスは受け取ると紅茶に口をつけて、一息つくとキッチンを見回す。
「カインなら、屋敷でフィーナと一緒に朝食作っていますよ……フィーナが逆らってなければ」
「別にカインを探していたわけではありません。そうですか……フィーナが料理されてなければ良いですね」
「……かなり不満げでしたから、沈められている気がしますけど」
ジークはセスがカインを探していると思ったようで苦笑いを浮かべる。
セスはジークの言葉を否定すると屋敷で兄妹喧嘩になっていれば良いと思ったようで力なく笑う。
ジークはここに向かう前のフィーナの様子を思いだしたようで頭をかき、彼女が沈められていなければ良いとため息を吐いた。
「ミレットさん、食器は私が運びましょうか?」
「そうですか? それではお願いします」
「……逃げたな。仕方ないか」
その時、フォトンはセスと一緒にいるのが気まずいようでミレットに手伝いを申し出る。
彼女は自分が振った話であり、彼の気持ちもわかるため、素直に頷くとフォトンはジークがミレットとフォトンが話していた間に用意していた食器を手にキッチンを出て行く。
フォトンの背中にジークは大きく肩を落とすとセスはジークに同意したようで大きく頷いた。