第819話
「おはようございます」
「……おはようございます。ジーク、ミレットさん、早いですね」
「今、朝食の準備をしますので休んでいてください。私達は朝食の準備をしてきますから」
翌朝、ジークとミレットはセス達の朝食の材料を持って元領主の屋敷を訪れる。
調査に協力してくれていた人達は徹夜をしていたようでセスは2人に気が付く物の反応は鈍く、その姿にミレットは休むように言うとジークにキッチンに行こうと促す。
彼女の言葉にジークは頷くと2人は研究室を出て行く。
「結構、そろっていますね」
「ここで働いている人達も多いですからね。お昼は作ってくれるみたいなんで食材とかもそろえてあるみたいですよ……名前が書いてあったりしますけど」
「そうみたいですね。持ってきた食材以外は使わない方向で行きましょう」
ミレットはここのキッチンに来るのは初めてのようで道具や食材を見て驚きの声を上げる。
ジークは苦笑いを浮かべると持ってきた食材以外にも使える物はないかと探すとここで働いている人なのか名前が書かれている食材を見つけて苦笑いを浮かべた。
ミレットは名前を書いた人間の気持ちもわかると言いたいのか苦笑いを浮かべると持ってきた食材を取り出し調理を始めだし、ジークも隣に並び、彼女を手伝う。
「おはようございます……」
「ミレット=ザンツです。フォトン=クイストさんですね」
「はい。何か手伝えることがあればと思ったんですが」
調理を始めてしばらくするとキッチンのドアをノックし、フォトンが顔を出す。
フォトンはミレットと初対面のようで2人で挨拶を交わすとフォトンは手伝いを買って出てくれる。
ジークはどうするべきかミレットに判断を仰ごうと思ったようで彼女へと視線を向けると彼女は首を横に振った。
「そうですか……」
「待ってください。それにフォトンさんは朝食の準備より、気になる事があるみたいですからね。ジーク、お茶を用意してくれますか?」
「わかりました。フォトンさん、座っていてください」
フォトンは小さく頷くとキッチンを出て行こうとするがミレットは彼の行動には他に意味があると思っており、フォトンを引き止めるとジークに指示を出す。
ジークは首を傾げる物のミレットが何か考えている事は解るようで頷くとフォトンにイスに腰掛けるように言う。
フォトンはどうするべきか悩みながらも頷き、イスに腰を下ろした。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「それで、ミレットさんは何を企んでいるんですか?」
ジークは淹れ終えた紅茶をフォトンの前に置くとフォトンは頭を下げた後、紅茶に口を付ける。
その様子を見てから、ジークはミレットの企みに付いて聞く。
「企むなんて言葉が悪いですね。フォトンさんがシーマさんの事を気にしているようですから少しお話をしたいなと思っただけです」
「……ノエルとフィアナが居なくて良かったな」
「まぁ、女の子はこういう話は大好きですからね」
ミレットは疑われるのが不本意だと言いたいのか小さく口を尖らせてフォトンの気にしている事を口に出す。
彼女の口から出た言葉にフォトンは表情を変えないようにしているが、観察眼の鋭いジークはわずかな表情の変化も見落とさなかったようで眉間にしわを寄せた。
ミレットはジークの言葉に仕方ないと言いたいようでくすくすと笑うとフォトンの表情は引きつって行く。
「そ、そう言うわけではありません」
「……まあ、気にしないで、俺やミレットさんは特に何か言うわけではないし」
「そうですね。他人の恋路をとやかく言うつもりはありませんよ」
フォトンは大きく顔を横に振るが、その行動は明らかに逆行動であり、ジークは苦笑いを浮かべる。
ミレットは楽しそうに笑っており、フォトンはバツが悪そうな表情をすると視線を泳がせた。
「……お2人が思っているようなものではありません。私が言うのもなんですが、シーマ様は直情的と言うか、他人の話を聞かない事があるので昨晩は迷惑をかけてしまったのではないかと思いまして」
「昨晩に関して、今回のシーマさんは何も悪くないと思うけど」
「ジーク、それは私が悪いみたいじゃないですか」
フォトンは自分を落ち着かせるように深呼吸をした後、昨晩のシーマの状況について聞く。
ジークは昨晩、シーマがお酒で潰れてしまった事を思い出してフォトンから視線をそらしてしまい、ミレットは不満そうに口を尖らせる。
「……何かあったんですか?」
「えーと、俺達が屋敷に戻る前にお酒を飲んでしまって……シーマさんがつぶれた」
「そ、そうですか……仕方ありませんね」
2人の様子から何かあったと理解したフォトンははやる気持ちを押さえながら、平静を務めて聞く。
ジークは気まずそうに指で首筋をかくとカインの屋敷で会った事を簡潔に話す。
フォトンは予想していなかったようで眉間にしわを寄せると大きく肩を落とした。
「フォトンさんはシーマさんがお酒に弱いのを知っていたみたいですね」
「それは……そうですね。皆さんは知らないようですがラミア族はあまりお酒が強くないんです」
「そうなんですか? 確かに昨日の様子を見ていれば納得はできますけど……」
彼の様子からミレットは何か気が付いたようで、自分の考えを確認するように尋ねる。
フォトンは少し迷うが現在、フォルムを統治しているのはカインであり、フォルムの地を隣国から守るのにはカインの力が必要な事は理解しているようでラミア族の特徴を話す。
ミレットは首を捻るが昨日のシーマの様子を思いだしたようで新しい疑問が浮かんだようで首を捻った。
「……困った事にお酒に弱いくせにお酒が大好きなんです」
「……どうしようもないな」
「シーマ様はラミア族の血を色濃く受け継いでいますので他の方より、その……自制が利かないようです。私も何度も止めているのですが」
ミレットの疑問に答えるようにフォトンは視線をそらす。
ジークは大きく肩を落とすとフォトンはシーマの悪いところだと言いたいようで大きく肩を落とした。