第817話
「そうだろ?」
「確かにそうかも知れないけど、それがどうしたのよ?」
「生態系のバランスが悪いって事だろ。そこは気が付かなかったね」
ジークは自分だけが感じた事ではないと思い、安心したようで胸をなで下ろす。
しかし、フィーナはそれが何を意味するかなど考えておらず、どうでも良いとため息を吐くとカインは首を捻り、考え込む。
「……何の意味があるのよ?」
「普通はね。草食動物がいなくなると食料が無くなって大型の肉食獣も減って行くんだよ」
「フォルムでだって家畜として育てているんだ。居てもおかしくないのに少ないっておかしいだろ」
フィーナは意味がわからないと大きく肩を落とすとカインは小さくため息を吐き、彼女に簡単に説明をする。
人族が食べる植物は育たない物の家畜はわずかでも育てられるため、ジークは違和感を覚えているようで首を捻った。
「もっと早く気が付いていればフィリム先生にも相談できましたね」
「そうだね。失敗したよ」
「聞きに行けば良いでしょ。私はいかないけど」
レインは2人が悩んでいる様子に苦笑いを浮かべるとカインは苦笑いを浮かべる。
フィーナはフィリムに相談したいなら勝手に行って来いと言いたいようで追い払うように手を振った。
「うーん。フィリム先生に話を聞くとなると何か興味を引く物を用意しないといけないからね。今のところは納得させられそうな物がないんだよね」
「……面倒ね」
「否定はしないよ。とりあえずは現状を調べる価値はあるね。この件に関しても情報を集めた方が良いね」
カインは首を捻った後、フィリムが相談に乗ってくれる状況ではないと言う。
フィーナはフィリムの顔を思い浮かべたようで大きく肩を落とすとカインは苦笑いを浮かべながら、新たに調べないといけないとメモを取り出す。
「……なんか、仕事が増えているな」
「そうだね。やっぱり、調査に向いている人間が欲しいね」
「人材不足ですよね」
ジークは調べ物の途中で調べ物が増えた事に大きなため息を吐いた。
カインとレインは人手が足りていない事を実感しているようで苦笑いを浮かべるが明確な答えはないようである。
「魔術学園からあんたの友達とか引っ張ってこられないの?」
「みんな自分の研究があるからね。忙しいんだよ」
「……友達いないのね」
フィーナは以前から魔術学園から人を連れて来いと言うが、カインは難しいと首を横に振った。
彼の言葉にフィーナは自己完結したようでうんうんと頷くとレインはカインをフォローしないといけないと考えているようで困ったように笑う。
「カイン、何か言わなくて良いのか?」
「別に良いよ。貴族の子息以外の奴らは結果を出さないといけないから、無駄に時間は使えないよ。後はエルト様やライオ様のお守も頼んでる事もあるし、これ以上の負荷は欠けられない」
「……まあ、王子2人のお守は大変だよな。しかし、貴族の子息はそうでもないのか? ……それなら」
ジークはフィーナを指差して弁明しないのかと聞くとカインは説明するだけ無駄だと苦笑いを浮かべた。
カインの言葉にジークは首を捻ると何か考え付いたようで口元を緩ませる。
「ジーク、悪い顔しているよ」
「そんな事は無いぞ。ただ、貴族ってのは家の繋がりを気にするんだよな?」
「そうだね」
彼の表情にカインは小さくため息を吐くとジークは確認するように貴族の考えに付いて聞く。
カインは頷くとジークが何を考えているか想像がついたようで苦笑いを浮かべる。
「……何を考えているんですか?」
「いや、レインの実家と縁を結びたい下心有の研究員っていないかなと思って」
「私はイヤですよ」
レインは怪訝そうな表情で聞き返すとジークはレインをエサに研究員を連れて来ようと言う。
当然、レインはイヤだと首を横に振り、ジークはレインを説得できないかと考えているのか首を捻る。
「ジークも無理強いはしない。だいたい、そう言う人はまともに働いてくれないから」
「そうか? カインに釣られたセスさんはかなり働いているぞ。そう言う人を捕まえれば良いんだろ」
「……それはこいつが働かないからでしょ」
カインはそんな人間は使えないと思っているようで首を横に振るとジークはセスの名前を出す。
彼女は真面目な性格もあり、恋人のカインに良いように使われているように見えるようで彼女のような人間を探そうと言う。
フィーナはセスが働いているのはカインに問題があるためだと言い、彼を睨みつけるとカインは知らないと言いたげに視線をわざとらしく泳がせた。
「それも人材が不足しているせいです。カインは働いていないように見えてもかなり働いていますから、それでも人手が足りないのが現状ですね」
「純粋な人族だと魔族への理解度もあって任さられる仕事も限られてくるからね……早く、ギド、帰ってきてくれないかな」
「爺さんの問題が解決できるまで、こっちには戻ってこられないだろ」
レインは改めて人手が足りないと言い、カインは自分が領主になってから支えてくれたギドの帰還を切望するように言う。
ギドが戻ってこられる状況ではない事はジークもわかっており、苦笑いを浮かべるとカインは小さく頷いた。
「だけどさ。そう言うのも調べて欲しくてシーマさんを森の探索の指揮に置いているんじゃないの? あんた、良くある物で上手く回すしかないって言っているじゃない」
「……いや、シーマは研究者って感じじゃないからね。もう少し熟慮して貰いたいと思うよ」
「頭に血が上りやすいですからね」
フィーナはシーマを使えば良いと言うが、カインは適性がないと思っているようで首を横に振る。
レインは困ったように笑うと彼女の短所を上げ、ジークとカインは苦笑いを浮かべた。
「それにフィーナの印象だと、きっと、魔術師は頭が良いんだよね?」
「そうでしょ。私は魔法なんて使えないし」
「魔法の才能と頭の良し悪しは違うよ。考えても見なよ。ノエルの頭は残念だろ」
カインはフィーナの持つ魔術師の印象を確認すると彼女はカインにいつも小バカにされているせいか頬を膨らませて言う。
彼女の言葉にカインは首を横に振るとノエルの名前をだし、お世辞にも賢いとは言えない彼女の普段の様子にその場は微妙な沈黙が漂った。