第814話
「……どうなっているんだ?」
「なんか、大変な事になっているね」
ジーク達が屋敷に戻ると屋敷の中からは騒ぎ声が聞こえる。
その声は揉めていると言うよりはおかしなテンションになっているという感じであり、ジークは眉間にしわを寄せるとカインは苦笑いを浮かべながら屋敷の奥に進んで行く。
彼の後ろをジークとフィーナは慌てて追いかけて居間の中に入る。
「カイン、ジーク、助けてください!?」
「……どんな状況よ?」
「とりあえず、ミレットに話を聞いてみようかな」
3人が居間で見た光景はお酒を片手に笑い声を上げているノエルとシーマの姿であり、レインはどうして良いのかわからないようで3人を見つけるなり、助けを呼ぶ。
フィーナは状況が整理できずに眉間にしわを寄せるとカインはノエルとシーマと同じテーブルを囲んでいるミレットへと視線を移す。
お酒を飲んでおかしなテンションになっている2人とは違い、ミレットはマイペースにお酒をあおっており、ジークとカインは眉間にしわを寄せた。
「……ミレットさん、これはどういう状況ですか?」
「お茶で待たせるのも限界でしたので、先日の宴会の時に余ったお酒を少し飲みましょうと言ったら、こんな感じです」
「そ、そうですか」
カインはお酒が苦手な事もあり、お酒の匂いを避けるようにジークにミレットに状況を確認するように視線で指示を出す。
ジークは小さく頷くと笑い声を上げているノエルとシーマの横を通り抜けてミレットの前に移動して状況の説明を求めた。
ミレットは困ったと言いたげに笑うが、その手からお酒が放される事はなく、ジークは危険を察知したようでカインとフィーナの位置まで撤退する。
「どうなのよ?」
「……ノエルとシーマさんは笑い上戸、ミレットさんはいつもと状況は変わらないように見えるけど、淡々と飲み続けている」
「簡潔に言うと」
ジークが戻ってくるとフィーナは何があったのかと聞き、ジークは見てきた3人の様子を話す。
カインは結論がわかっているようだが、確認したいようで眉間にしわを寄せながら結論だけを言うように言う。
「……簡潔に言えば3人とも酔っぱらいだ」
「見ればわかるわよ」
「だよな」
ジークは眉間にしわを寄せるとフィーナは大きく肩を落とした。
彼女の言葉にジークは苦笑いを浮かべるとどうして良いのかわからないようで困ったように頭をかく。
「それでどうしましょうか?」
「……レイン、あんた、どうにか出来なかったの?」
「ノエルさんとシーマさんは私が止めるまでもなく、あの状況でしたので、ミレットさんは変わりませんけど……飲むペースが」
レインは1人ではどうにもできなかったため、味方ができた事に少しほっとしているようで対処方法を訪ねる。
フィーナはこんな状況になる前に何かできなかったのかと言い、レインは気まずそうに視線をそらす。
「ミレットさん、酒豪だったんだな」
「意外ではあるね。だけど、話をするはずだったのにどうしようかな?」
「とりあえず、ご飯にしない? お腹減ったわ」
ジークは呆れ顔でため息を吐くとカインはシーマに聞きたい事があったため、どうしようかと首を捻った。
フィーナは酔っぱらい3人より、自分の夕飯の事が気になるようでキッチンに向かって行く。
「それもそうだな……だけど、ミレットさんはまだしもノエルとシーマさんはどうにかしないと夕飯もまともに食えないんじゃないか?」
「そうかも知れないね。それに俺はこの場所で夕飯を食うのは無理そうだしね」
「とりあえず、ミレットさんはまともそうだから、どうにかならないか聞いてくるか」
このバカ騒ぎの中では夕飯もままならないと思ったようでジークは困ったように頭をかいた。
カインはお酒の匂いでも酔っぱらってしまう事もあり、宴会の側で食事はできないと言い、ジークは一見まともそうなミレットに意見を聞いてくると彼女の下に歩き出す。
「どうしました?」
「ミレットさん、この状況はどうにかならないんですか?」
「楽しいじゃないですか? ジークも飲みませんか?」
ジークは首を傾げるミレットの様子に宴会を終わらせる事はできないかと聞く。
しかし、いつもと変わらない様子のミレットではあるが、着実にお酒は回っているようでジークにもお酒を勧める。
「いや、飲みませんよ。それより、どうするんですか? 用事があってシーマさんを呼んだんですから、話し合いにもならないじゃないですか?」
「そう言っても、こんなに遅くなったのはカインが悪いんじゃないですか」
「……確かにその通りなんですけど」
ジークはすぐに拒否するとノエルとシーマにお酒を飲ました事を責めるような視線を向けた。
ミレットは笑顔でカインが待たせすぎたのが悪いと言い、ジークは反論ができないため、困ったように頭をかく。
「一先ずは話し合いにはならなさそうですし、2人を眠らせましょうか?」
「そうしてくれるとありがたいんですけど……また、それですか?」
「そうですけど……ジークはノエルにこれを飲ませておかしな事をしたらダメですよ。そんな事をしたら、お姉ちゃん、怒りますよ」
ミレットはくすくすと笑いながら、懐から小瓶を取り出す。
中に入っているのはライオを眠らせた睡眠薬であり、ジークは眉間にしわを寄せる。
普段通りに見えるミレットだが、しっかりとお酒は回っているようでジークをからかうように言い、彼女の様子にジークの眉間のしわはさらに深くなって行く。
「しませんよ……ダメだ。ノエルとシーマさんだけじゃなく、ミレットさんも考えていた以上に酔っぱらっている」
「何を言っているんですか? 私は酔っぱらってなんかいませんよ」
「……酔っぱらいはみんなそう言うんですよ」
ミレットの反応にジークは大きく肩を落とすと彼女は酔っぱらってなどいないと笑う。
しかし、ジークの知る酔っぱらいはすべて同じ反応をするため、彼は眉間にしわを寄せるとミレットの前にある小瓶を手に取り、ノエルとシーマのカップに睡眠薬を混ぜる。
お酒が完全に回っている2人はジークが睡眠薬を混ぜた事になど気づかずにお酒をあおり、その目はとろんとし始め、ソファーの上で寝息を立て出す。
「……凄い効果だな」
「お酒も入っていますからね。それじゃあ、私は自分の部屋に行きますね」
「ミレットさん、送りますよ」
即効性のある睡眠薬の効果にジークは少しだけ呆れたように言う。
ミレットは当然だと言うと睡眠薬を飲まされる前に自分から部屋に戻ると言うが、足元はふらついており、ジークは彼女の身体を支えると小さくため息を吐いた。
ジークの言葉にミレットは小さく笑みを浮かべるとジークの手を取って居間から出て行く。




